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2009年の公演レポート

2009年 11月 30日 ( 月 ) 劉薇ヴァイオリンリサイタル
2009年 11月 1日 ( 日 ) クラムボンの会29周年公演 林洋子ひとり語り—宮沢賢治
2009年 10月 26日 ( 月 ) 第十回 藤井昭子演奏会
2009年 10月 25日 ( 日 ) 黒川真理[雅瞳]箏リサイタル〜今を生きる〜
2009年 10月 20日 ( 火 ) 第49回 三好芫山 尺八リサイタル
2009年 7月 13日 ( 月 ) 杵屋裕光 第二回納涼浴衣会 夢の競演
2009年 5月 28日 ( 木 ) 第十三回日本伝統文化振興財団賞贈呈式
2009年 5月 9日 ( 土 ) 遠藤千晶箏リサイタル−凜−soloist−
2009年 2月 21日 ( 土 ) 高野山の声明 修正会 真言声明の会
2009年 2月 14日 ( 土 ) 人形と浄瑠璃で紡ぐ愛の物語 壺坂観音霊験記

 

劉薇ヴァイオリンリサイタル

2009年11月30日(月)開催
(東京・浜離宮朝日ホール)

当財団よりCD『日本のヴァイオリン作品集』を発表した中国人ヴァイオリニスト、劉薇(リュウウェイ)さん。同じアジア人として日本の作品に好感を持つという彼女による、選びに選び抜かれたプログラムと圧倒的な演奏は多数の聴衆の喝采を浴び、拍手が鳴り止まないものとなりました。そんな貴重なコンサートの模様です。

アジア、東西文化のミクスチャーへの思いが実を結んだ有意義なコンサート

文:山尾敦史

 東京および周辺では、本当にたくさんのコンサートが毎晩のように行われている。その中には大々的にプロモーションをしていないにも関わらず、実に意義深いものがあるということを、多くの音楽ファンが感じているだろう。中国に生まれ、1986年に来日して以来、日本を拠点として活動しているヴァイオリニスト、劉薇(リュウウェイ)は2009年10月に『日本のヴァイオリン作品集』と題したCDをリリース。その発売記念コンサートもまた、まだまだ広く知られていない日本人作曲家による佳曲を紹介した有意義なものだったと言える。

ヴァイオリン:劉薇 ピアノ:椎野伸一
ヴァイオリン:劉薇 ピアノ:椎野伸一

 日本には多くのヴァイオリン作品があり、それらはほんの一部の奏者に愛奏されているものの、現代作品のリスナーを中心に聴かれているという感が強い。それだけに紹介者(=演奏家)の存在は心強いものだが、劉薇は同じアジアの音楽という接点から、さらに自らの好奇心や探求心を発揮。演奏活動に加えて、昭和期の注目すべき作曲家である矢代秋雄が17歳のときに書いたというヴァイオリン・ソナタを発見して、レパートリーに加えた。「15年前に発見したこの作品をようやく録音し、CDとして発売できるのは、私にとって最高のごほうびです」と劉薇は語る。


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 コンサートでは、その矢代の「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」を最後に据え、前記のCDに収録された作品たちが、次々に演奏されていく。戦前の輝く才能として知られる貴志康一が、日本の民族色を織り込んだ「漁夫の唄」「龍」という2曲(前者は濃厚なこぶしをきかせた民謡、後者はお囃子の雰囲気を伝えてくれる)。劉薇のために書かれ、ほの暗いメランコリーと官能美がマッチした助川敏弥の「『龍舌蘭』~遠い雨」。有名なメロディをヴァイオリン特有の奏法で飾った、山田耕筰の「からたちの花」「野薔薇」(特に前者はクライスラーの曲を思わせる洒落た味わい)。矢代のソナタはフランス留学前の習作だと言えるが、それでもピアノ協奏曲をはじめとする代表作を知る耳には、才能の萌芽が感じられる音楽だ。

山田耕筰作品の演奏
山田耕筰作品の演奏

 加えて、劉薇がライフワークのように紹介を続けている作曲家、馬思聡(マー・スツォン)の作品も演奏。中国の音楽家・アジアの音楽家であることのアイデンティティを強烈なまでに打ち出した音楽であり、馬自身が「フランコ=ベルギー楽派」というヴァイオリン史の中枢にある奏法を習得したヴァイオリニストだったせいもあってか、この楽器への理解は深い。つまりは、ヴァイオリンという西洋クラシック音楽を代表する楽器で中国の民族色を奏でるという、東西文化のミクスチャーだと言えるだろう。それは前記した日本人作曲家たちも追究したことであり、そうした昭和の“思い”を劉薇が結びつけたということでもある。

 アンコールにはピアニストとしても活躍する寺嶋陸也による「奄美のこもりうた」、そしてドヴォルザークの「母が教えてくれた歌」。心の中に温かい火がともるような気分となり、聴き手を幸福な気分にさせてくれた。

プログラム

貴志康一 Koichi Kishi

漁夫の唄 Fischerlied
龍 Drachentanz

助川敏弥 Toshiya Sukekawa

「龍舌蘭 ―遠い雨― 劉薇さんのために」  a distant rain-for Violinist Liu Wei

馬思聡 Sitson Ma

山歌 Mountain Song
揺藍曲 Lullaby
塞外舞曲 Dance the Frontier

―― Intermission ――

山田耕筰 Kousaku Yamada

からたちの花 Karatachi no Hana
野薔薇 Nobara

矢代秋雄 Akio Yashiro

ヴァイオリンとピアノのためのソナタ  SONATE pour Violon et Piano

関連作品

日本のヴァイオリン作品集

VZCC-1025(CD)
2009年10月21日 発売 
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プロフィール

劉薇 Liu Wei

中国蘭州市に生まれ、5歳より医師である父に音楽の薫陶を受ける。西洋文化否定の文革期にヴァイオリンと出会い、7歳で正式にはじめる。父の綴った手写譜で数年間練習に励み、困難辛苦に耐え“父と娘の紡いた音楽への道”は人々に感動を与える。中国の最高峰作曲家・馬思聡(Ma Sitson,1912-1987)の全ヴァイオリン作品を日本に紹介している。西安音楽学院卒業、同音楽大学ヴァイオリン科教師。

86年桐朋学園大学に留学、その後東京芸術大学大学院修士、博士課程を修了。ヴァイオリンを江藤俊哉、浦川宜也の両氏に師事。論文指導を片山千佳子、楽曲分析を南弘明、また音楽学を村井範子の各氏に研究指導を受ける。

93年、日本人作曲家矢代秋雄、尾崎宗吉のヴァイオリンソナタを発掘・演奏。

99年、博士学位論文「ヴァイオリニスト・作曲家としての馬思聡研究」及び馬思聡作品の演奏により、演奏分野では数少ないでは数少ない音楽博士号(D.M.A)を東京芸術大学より授与され、カザルスホールや紀尾井ホールで「博士号取得記念リサイタル」を開催。同年、CD「劉薇・馬思聡ヴァイオリン作品集Vol.1.2」出版、日本の音楽界に大きな反響を投げかける。

2000年、アジア音楽週間オープニングコンサートで台湾の新作ヴァイオリン協奏曲を東京交響楽団と共演。ニューヨーク・カーネギーホールにて「楽韻飄馨」音楽界に出演、フィラデルフィアでリサイタル。産経新聞『話の肖像画』に6日間連載される。

2001年、紀尾井ホールでリサイタル、馬思聡の「無伴奏ヴァイオリンソナタ」が世界初演、NHK-FMで放送される。さらに、NHK-BS2にて特集「アジア交差点~在日ヴァイオリニスト劉薇・幻の名曲を発掘」放送。

2002年、馬思聡生誕90周年行事で北京中央音楽院に招かれ、馬思聡研究論文発表とリサイタルで馬思聡無伴奏ソナタを中国に紹介する。

2003年、オーケストラ・ニッポニカと馬思聡「ヴァイオリン協奏曲」を公式日本初演。NHK-BS2で海外放送『今の人』に紹介される。

2004年、演奏活動が認められ、日本音楽財団より銘器グァルネリデル・ジェス(1736年製)を貸与され、日本各地のホールで「名器披露コンサート」を開催。同年、CD「馬思聡晩年ヴァイオリン作品集Vol.3」、西洋名曲集「珠玉の小品集~美しきロスマリン」をリリース。

2006年、来日20年記念演奏会「新たなスタートに向けて~劉薇リサイタル」を浜離宮朝日ホールで開催し、馬思聡の《ピアノ五重奏曲》および日本人作曲家助川敏弥のヴァイオリン作品《龍舌蘭~遠い雨・劉薇さんのために》を初演する。津田ホールにて「二つのヴァイオリンとピアノによるアフタヌーンコンサート」、馬思聡の《二つのヴァイオリンのための無伴奏ソナタ》を日本初演、「劉薇八ヶ岳コンサート」を開催、いずれも大成功を収める。

2007年、NHK=FM「名曲リサイタル」に出演、アイルランドでコンサート。

2008年、スペインコンサートツアー。NHKホール「オリンピックコンサート2008」で新日本フィルハーモニー交響楽団と共演。「劉薇とドレスデンの音楽家による室内楽の夕べ」でドレスデン国立歌劇場管弦楽団メンバーと馬思聡の「弦楽四重奏曲」を日本初演。また、アムステルダム・ロイヤルコンセルトヘボウのメンバーと「弦楽三重奏」で共演。

2009年「劉薇コンサートin 山口長門」、CD『日本のヴァイオリン作品集』を日本伝統文化振興財団より発売。現在、国内外での演奏のほか、共立女子大学で講義「アジア文化論~中国の芸術」を担当。文革嵐の中での音楽経験の講演も多く行うなど、活動は多岐にわたっている。

椎野伸一 Shinichi Shiino

東京芸術大学を経て、1981年同大学院修了。この間「安宅賞」を受賞。芸大オーケストラと共演。谷康子、ヴァレリア・セルヴァンスキーの各氏に師事。

1983年、東京イイノホールでデビューリサイタルを開催後、全国各地でリサイタルを行う。また東京交響楽団(秋山和慶指揮)、東京シティ・フィル(宇宿允人指揮)等をベートーヴェンの「ピアノ協奏曲3.4.5番」などを共演。1996年にはピアニスト高澤ひろみ氏と「グラン・デュオ」を結成。以後、東京紀尾井ホールにて定期的にソロリサイタル・デュオリサイタルを開催している。

ソロ活動とともに、日本の著名な演奏家と数多く共演し、CD録音、放送出演等、その活動は多岐にわたる。現在、東京学芸大学教授として後進の指導にもあたっている。

山尾敦史(やまお あつし)

音楽ライター。在京オーケストラのコンサートにおけるプログラムノートやインタビュー、「モーストリー・クラシック」等の音楽誌や「ぴあ」発行によるフリーペーパーでの執筆などを中心に活動。また「ラ・フォル・ジュルネ」(東京)のクラシックソムリエとして同音楽祭の情報を発信し、執筆やレポート、講師なども行っている。

クラムボンの会29周年公演 林洋子ひとり語り—宮沢賢治

2009年11月 1日(日)開催

(東京・柴又帝釈天鳳翔会館)

おだやかな秋の青空に恵まれた11月最初の日曜日。たくさんの観光客、参拝客で賑わう柴又・帝釈天題経寺の境内にある鳳翔会館。宮沢賢治作品のひとり語り出前公演で全国各地を回る林洋子さんの公演が行なわれました。今回は数ある演目のなかから「なめとこ山の熊」、さらに賢治作の文語詩朗唱を薩摩琵琶弾き語りで演じた、楽しいひとときをお送りします。

賑わう帝釈天、宮沢賢治作品の楽しい薩摩琵琶ひとり語り

文:じゃぽ音っと編集部

有名な映画や歌の舞台ともなった、江戸川を舟で渡る“矢切の渡し”のすぐそばに鎮座する柴又の帝釈天題経寺は、ノスタルジックな風景が残る、都内でも指折りの人気スポットとして知られている。その境内にある会場の鳳翔会館の前には、開演前から入場を待つ人々が列をなし、開場後、客席はすぐに満員になった。

これから、さまざまな場所で宮沢賢治作品のひとり語り出前公演を続けている林洋子の公演が始まろうとしている。

会場がすーっと暗くなり、青い着物を着た“ざしきわらし”[注]が「チリーン、チリーン……」という涼しげな音とともに客席の間を通り過ぎていく。そこへ林が大きな薩摩琵琶を携えて登場。ライトが当たり、客席へ話しかける。

客席の間から“ざしきわらし”登場
客席の間から“ざしきわらし”登場

「——どうぞ、みなさん。お楽しみくださいませ」の声とともに客席からの拍手。そして静まり返る客席のなかへ、琵琶の音色が響き渡る。


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「なめとこ山の熊」前半
「なめとこ山の熊」前半

“なめとこ山の熊のことならおもしろい……”という出だしの「なめとこ山の熊」は、数々ある宮沢賢治の童話のなかでも、晩年に書かれた神秘的な作品。“熊がごちゃごちゃ住む、なめとこ山”のことを知り尽くした熊捕りの名人、小十郎。だが彼も人の子。ただ熊が憎いがために殺し、その皮や胆を売って暮らしているわけではない——賢治の熊たちと小十郎への温かいまなざしと幻想的な自然の描写が溶け合っている作品で、目の前の琵琶と語りがその世界を血の通った生き生きとしたものにしている。

実際に観ていると、原作をただ暗誦しているだけではない。登場人物や熊たちのさまざまな声や表情、間合いを撥を空間にかざしながら的確に表現し、物語の局面が変わる合間に現れる、撥弦楽器の琵琶ならではの強弱のニュアンスを生かした音色が、物語に不思議なほど調和している。

撥をかざして語りかける
撥をかざして語りかける

“ひとり語り”であることはもちろん、“ひとり芝居”でもあるそのパフォーマンスは、はるか昔、日本の各地で活躍したと伝わる瞽女(ごぜ)[注]あるいは、琵琶法師を彷彿とさせる。時空を超えて観客は思い思いの情景に浸り、心のなかでそのストーリーを思い浮かべ、目の前のパフォーマンスにいつしか引き込まれていく。


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「なめとこ山の熊」後半
「なめとこ山の熊」後半

撥が弦の上を何度かすーっと掠り、魂が徐々に天へ登っていく、あるいは流れ星が遥か彼方へと消えてゆくように物語が終わると客席から割れんばかりの拍手が会場を包む。


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続いて、37歳で亡くなった賢治の最晩年、病床において渾身の力で推敲・清書し、妹のクニに「何もかもが駄目でもこれだけは残るものだ」と言って手渡したとされる多数の文語詩からの朗唱。賢治がその詩を書いたとき、音楽を愛していた彼のなかでどんなメロディやリズムが聴こえたのかという想いを巡らせて林が創作したという4曲を琵琶の伴奏でうたう。「五輪峠(ごりんとうげ)」「祭日(まつりび)」、彼女が一番大好きだと語る「母」を披露し、最後に“キョトン。キョトン。キョトン、キョトン、キョトン…”という観客との合唱になったユーモラスな「巨豚」で終わる。参道商店会から提供された福引の抽選でちょっぴり射幸心が刺激されたあと会場を出ると、まだ夕方というには早い時間。

文語詩朗唱
文語詩朗唱

この日、観客は秋のやわらかい日差しのなか、きっとほっこりとした心持ちで帝釈天を後にしたことだろう。


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関連作品

無声慟哭・心象スケッチ

VZCC-1(CD)
2005年9月22日 発売 
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林 洋子 宮沢賢治ひとりがたり 1

VZCG-713(CD)
2009年7月22日 発売 
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林 洋子 宮沢賢治ひとりがたり 2

VZCG-714(CD)
2009年7月22日 発売 
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林 洋子 宮沢賢治ひとりがたり 3

VZCG-715(CD)
2009年7月22日 発売 
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公演情報

2010年 クラムボンの会30周年記念大公演 スケジュール
2月14日(日)
アイリッシュ・ハープと語り「やまなし」「よだかの星」
帝釈天・鳳翔会館/柴又 14:30開演
○演出・語り:林 洋子 ○ハープ:梅津三知代
3月28日(日)*
タゴールの夕べ 声とタブラと笛による「黄金の舟」
泉の森会館/狛江 17:00開演
○構成・演出・朗読:林 洋子 ○タブラ:森山 繁 ○笛:松浦孝成
5月30日(日)
シタール弾き語り「雁の童子」
求道会館/本郷 14:30開演
○演出・シタール・語り:林 洋子 ○黒子:伊藤 潤
7月25日(日)*
アラビア語 日本語 コラボレーション
アラブ現代詩朗読会「オリーブの知らせ」「スーフィー 在 東京」
衎芸館(かんげいかん)/荻窪 17:00開演
○日本語朗読:林 洋子 ○アラビア語朗読:オダイマ・ムハンマド
9月5日(日)
笛やお囃子と語り「いちょうの実」「雪わたり」
帝釈天・鳳翔会館/柴又 14:30開演
○演出・語り:林 洋子 ○笛とお囃子:松浦孝成
11月3日(水・祝)
薩摩琵琶弾き語り「なめとこ山の熊」「文語詩朗唱」
求道会館/本郷 14:30開演
○演出・琵琶・語り:林 洋子 ○黒子:伊藤 潤
11月23日(火・祝)*
タゴールの夕べ 弦楽四重奏と朗読による「ギタンジャリ」
求道会館/本郷 17:00開演
○演出・琵琶・語り:林 洋子 ○弦楽四重奏・作曲:廣瀬量平
○演奏:クヮルテット・ライン

主催:クラムボンの会 共催:クラムボン30周年を祝う会
後援:宮沢賢治記念館 宮沢賢治学会イーハトーブセンター 花巻市
財団法人日本伝統文化振興財団 岩手日報社
帝釈天題経寺 高木学校 / 国際交流基金(*3月28日 *7月25日 *11月23日のみ)

プロフィール

林洋子

はやし ようこ

女優・クラムボンの会主宰

東京生まれ。俳優座養成所第一期卒。劇団三期会で数々のブレヒト劇に主演。後フリーとなる。

1970年、水俣病の実態に触れる。71年、石牟礼道子原作「苦海浄土」巡礼公演。以後自発的に芝居が出来なくなり俳優として沈黙する。73年訪印、コルカタの民家に滞在。帰国後ベンガル語を学ぶ。78年〜79年インド再訪。ベンガルの農村を独りで歩き宗教的大道芸バウルに出会い、表現の原点を発見する。

1980年、クラムボンの会を設立し宮沢賢治作品の一人語り出前公演を開始。生の音楽と共に語り演じる独特の語りは、日本全国、また海外で熱い喝采を受けている。総観客数は31万人に達しようとしている。

2009年1月17日、北海道苫小牧市で1500回目の公演をむかえた。

 

 

シタールを堀之内幸二氏に、琵琶を薩摩琵琶鶴田派の田中之雄氏に師事。

1994年、『幼児も涙してその世界に没入するほどの感動を人々に与えた』と宮沢賢治学会及び花巻市より第4回イーハトーブ賞受賞。

国際交流基金派遣海外公演。1991年インドネシア、マレーシア、1997年インド、2002年インド。

2009年シャトー・ドゥ・パリ・ジャルダン(フランス)で薩摩琵琶弾き語り「賢治文語詩朗唱」を演じ、フランス人、ドイツ人から大喝采を受けた。

クラムボンの会HP
http://home.att.ne.jp/gold/clumbon/

第十回 藤井昭子演奏会

2009年10月26日(月)開催

東京・紀尾井ホール

2001年より「地歌ライブ」を定期的に開催、さらにロンドンでの地歌演奏会ほか海外での活躍も目覚しい藤井昭子師。今回10回目の節目となったリサイタルのプログラムは、祖母阿部桂子、母藤井久仁江を経て受け継がれた貴重な曲に焦点を当てた、めったに聴くことのできない特別な会となりました。

文:笹井邦平

祖母と母が伝えた家の芸

 生田流九州系地歌箏曲の藤井昭子師の10回目のリサイタルは〈歌の表現〉というテーマで〈歌物〉を3曲採り上げ、5回目のリサイタルの頃より課題として取り組んできたこのテーマのいわば集大成となる。祖母・阿部桂子師と母・藤井久仁江師より厳しい稽古を受けて身に着けた九州系地歌の真髄を聴ける―という想いが私の中で膨らむ。

凛と輝く恋の終焉

「濡れ扇」
「濡れ扇」

 序曲は今宮苧狐作詞・鶴山勾当作曲・本調子繁太夫物「濡れ扇」を昭子師は三絃の弾き歌いで演奏。江戸中期に豊美繁太夫が創設した浄瑠璃〈繁太夫節〉がブレイクしたが、「哀切すぎる」として禁止されて廃絶し地歌の中に〈繁太夫物〉として残った。内容は心中の〈道行〉で京から大坂への名所を綴り死出の旅路の餞(はなむけ)となっている。

 昭子師は呂音(低音)を効かせた声音と落ち着いた深い三絃の音色で淡々と弾き歌う。歌と三絃の音色がピタリと寄り添い、きっちりした運びで死を賭した恋の一途さと健気さが凛と輝く。

秘曲を大切に丁寧に

 2曲目は継山検校作曲・箏組歌「甲(かん)の曲」を昭子師は箏の弾き歌いで演奏。名古屋の生田流に秘曲として伝わる曲を幼少期名古屋で過ごした祖母・阿部桂子師が習得し、母・藤井久仁江師を経て伝授された曲。〈箏組歌〉とは五首か六首の和歌を節は変えても拍数を変えずに同じ拍数で刻んで繋ぐ作曲法だが、この曲は細部が標準形から微妙にズレているので〈秘曲〉と云われる。

 一字一句を大切に丁寧な節の流れで運ぶ昭子師の歌は聴き応えがあり、その歌に呼応する如く一音一音をきっちり紡ぎ出す爪音が見事に歌を装飾する。


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大曲をダイナミックに

「三津山(みつやま)」
「三津山(みつやま)」

 トリは三井次郎右衛門高英作詞・光崎検校作曲・八重崎検校箏手付・京風手事物「三津山(みつやま)」を昭子師の歌・三絃と渡辺明子さんの箏で合奏。〈手事物〉とは歌の間に長い手事(器楽の間奏)を入れてその技巧・音色を聴かせるように創られた楽曲。

 内容は『万葉集』などにある大和三山(香具山・耳成山・畝傍山)の妻争いの伝説を擬人化した男女3人の恋物語。1人の男(おのこ)を巡って娘2人が嫉妬から狂乱へとエスカレートする悲恋を綴った大曲。

 歌詞が長大で歌が難しく頻繁に出る曲ではないが、〈歌の表現〉というテーマの締めくくりとして昭子師は敢えて初挑戦する。

 前半2曲が情景描写に対してこちらは物語風、モチーフの良さもあって歌の端々に漂う芳しい古典の香りが古代浪漫へいざなう。昭子師の歌は明確でプログラムの歌詞を見ずとも聴いているだけで解る。眼目の2つの手事は三絃主体のアップテンポなメロディでインパクトがある。

 深さを湛えた昭子師の三絃と流麗な渡辺さんの研ぎ澄まされた箏の音が絶妙のバランスで掛け合う。渡辺さんは母・久仁江師の高弟で昭子師を支える軍師の1人、昭子師とはウマが合うようで、ダブル・アキコのピタリと呼吸(いき)の合った手事はテンション高く大曲をダイナミックにデフォルメする。

 いつもリサイタルでは彩り豊かな舞台衣装を身に纏う昭子師だが今回は序曲に因み裾に扇をあしらった黒の正装で通し、節目としてけじめを付ける―という気概がヒシと伝わるリサイタルであった。

撮影:増田秀行(一部リハーサルを含む)

プロフィール

藤井昭子(ふじい あきこ)

幼少より祖母阿部桂子、母藤井久仁江(重要無形文化財保持者〈人間国宝〉認定)に箏の手ほどきを受ける。四才で初舞台。八才より、阿部・藤井両師に三弦の手ほどきを受ける。1986年、山本邦山、藤井久仁江両師と共に米国各地を巡演。以後現在まで文化庁、国際交流基金等の派遣による欧米各地での演奏多数。1995年、第一回リサイタルを開催。2001年6月、現代における伝統音楽の継承と古典の新たな可能性を追求する場として、新宿たべるな《客席数70》に於いて「地歌ライブ」を開始。以降現在まで二ヶ月毎に定期開催し、全70曲の伝承曲を演奏。古典の将来を担う世代から、三曲界の第一人者に至る多彩な共演者とのトークを交えた演奏活動は、朝日新聞、読売新聞、東京新聞、聖教新聞などの各誌、邦楽ジャーナル、邦楽の友、邦楽と舞踊など専門誌上に度々紹介されている。2003年、第七回日本伝統文化振興財団賞受賞、CDアルバムを制作。2004年12月、第五回リサイタル「藤井昭子演奏会」の演奏に対し、第59回文化庁芸術祭新人賞受賞。2006年7月、シティ・オブ・ロンドン・フェスティバルの招聘により、ロンドンで「藤井昭子地歌演奏会」開催、ロンドン大学でワークショップを行う。2007年より「地歌ライブ」会場を銀座28’sLive《客席数100》に変更する。2008年1月、青山円形劇場で大使館、海外特派員などを対象に全英語解説による「地歌 JIUTA」公演を主催。4月、オランダ、ベルギーで「藤井昭子地歌演奏会」開催。7月、「世界尺八フェスティバル」の招聘によりオーストラリア、シドニーで演奏とワークショップを行う。10月、第28回伝統文化ポーラ賞奨励賞受賞。

2009年1月、第二回「地歌 JIUTA」公演を青山円形劇場にて開催。4月、「地歌ライブ」会場を求道会館(東京都指定有形文化財)《客席数160》に変更し現在まで全45回開催。

現在、九州系地歌箏曲演奏家として演奏会・NHK放送等の出演に活動の場を広げ、後進の指導にあたっている。 銀明会副会長。

渡辺明子(わたなべ あきこ)

2010年3月 NHK東北ふるさと賞受賞。
4月 東京交響楽団と共演。
5月 みんゆう県民大賞受賞。
8月 福島県しゃくなげ大使に任命される。
2011年10月 紀尾井ホールにて「遠藤千晶箏リサイタル傳―つたえ―」開催。
2012年4月 ビクターエンタテインメント(株)より「傳―つたえ―遠藤千晶箏リサイタル」をCD・DVD同時発売。
7月 国立劇場主催公演「邦楽へのいざない」出演。
2013年2月 神奈川フィルハーモニー管弦楽団と共演。
9月 福島市音楽堂大ホールにて「妙祐会45周年記念箏曲演奏会」を開催。

現在、生田流箏曲宮城社大師範。宮城合奏団団員。日本三曲協会会員。生田流協会会員。森の会会員。妙祐会副会主。遠藤千晶とCRYSTALLINE NOTES主宰。
http://chiaki-endo.com/

(公演プログラムより転載)

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

2008年の公演レポート

2008年 12月 20日 ( 土 ) 虚無僧 原宿表参道を行く
2008年 11月 4日 ( 火 ) 第14回藤井泰和地歌演奏会
2008年 11月 3日 ( 月 ) 2008 宮下秀冽 箏・三十絃リサイタル
2008年 10月 28日 ( 火 ) 中村明一 虚無僧尺八の世界 京都の尺八I 虚空 第15回リサイタル
2008年 10月 27日 ( 月 ) 善養寺惠介尺八演奏会
2008年 9月 23日 ( 火 ) 深海さとみ 箏独奏リサイタル -古典を現代に Ⅶ-
2008年 8月 10日 ( 日 ) 夏休み邦楽チャレンジ〜箏を弾いてみよう!KOTOで弾く日本の歌〜
2008年 5月 26日 ( 月 ) 第十二回日本伝統文化振興財団賞贈呈式
2008年 5月 24日 ( 土 ) 新星堂プレゼンツ杵屋裕光「地球→日本」発売記念トーク&ライブ
2008年 5月 3日 ( 土 ) 義太夫を音楽としてよみがえらせる会 3回シリーズ〜略称:道行の会〜第1弾
2008年 4月 10日 ( 木 ) むすびひめ『万葉に遊ぶ』CD発売記念コンサート 
奈良の都と”雅”の音色 芝祐靖師を迎えて〈奈良の音色のトーク&演奏〉
2008年 3月 7日 ( 金 ) 郷みん’S ワンマンライブ IN ギンザニッパーズ
2008年 2月 22日 ( 金 ) 安藤政輝リサイタル 宮城道雄全作品連続演奏会10

 

虚無僧 原宿表参道を行く

2008年12月20日(土)、21日(日)開催

「虚無僧 原宿表参道を行く」と題したイベントが、東京都内で新潟県産の食品販売、イベント、情報を発信している「表参道・新潟館ネスパス」を中心に、2008年12月20日(土)・21日(日)の2日間に渡って開催されました。

(主催:(財)にいがた産業創造機構表参道・新潟館ネスパス (財)日本伝統文化振興財団   協力:オフィス・サウンド・ポット)

この催しでは、越後明暗流尺八保存会「竹峯会」の皆様による虚無僧姿での行脚と、虚無僧尺八の第一人者・中村明一さん出演の「虚無僧尺八ミニライブ」をお楽しみいただきました。

文責:じゃぽ音っと編集部

01このイベントの為に、はるばる新潟県からいらした越後明暗流尺八保存会「竹峯会」の皆様です。新潟館ネスパスメイン入口にて「大和調べ」を演奏して、いよいよ行脚スタートです。
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02真冬にもかかわらず春のような暖かい日差しの中、ファッショナブルな表参道のけやき通りを当時の姿さながらに行脚する虚無僧たち。「現代と隔絶した虚無僧の謎めいた姿」VS「現代を代表する原宿表参道の街並み」、そのアンバランスな対比の妙。
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03けやき通りを5名の虚無僧が尺八を手に進みます。早足に行き交う人の中で、ゆっくりゆっくり一列で行く虚無僧の姿は、何とも謎めいて見えました。
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04若者が集まる原宿では、虚無僧の姿を見て驚く人が多数。初めて目にする虚無僧は、どんな風に映ったでしょうか。
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05新潟館ネスパスの後藤館長と無事行脚を終えた竹峯会のみなさん。
(前列左から後藤館長、細川忠利さん、後列左から松沢峯堂さん、入山峯斉さん、笹川峯仙さん、増井峯庸さん、前山百峯さん)
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06イベント2日目、新潟館ネスパス3Fで行なわれた「虚無僧尺八ミニライブ」は、100名近いお客様を迎え、中村明一さんによる「打波」の演奏からスタート。「鶴の巣籠」では親子の鶴の鳴き声や羽ばたきの様子を表す奏法のお話なども加え、迫力ある演奏をご披露下さいました。
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07中村明一さんと竹峯会会長の笹川峯仙さんによる「越後の虚無僧尺八を語る」と題した対談コーナー。越後明暗寺の歴史、越後明暗寺が尺八音楽の歴史上果たした大きな役割、伝承されるテクニックの披露など、「虚無僧尺八ミニライブ」でしか見られない貴重な対談でした。
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08対談コーナーの後、竹峯会の皆様が「呼び竹 受け竹」を演奏しながら入場。会場は不思議な雰囲気に包まれました。
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09引き続き、竹峯会の皆様によって、越後明暗寺に伝わり伝承されてきた秘曲と言われる「下田三谷」「下田鈴慕」の2曲が演奏されました。
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102日間のイベントを終えた竹峯会の皆様と中村明一さん。
(左から、前山百峯さん、入山峯斉さん、笹川峯仙さん、中村明一さん、増井峯庸さん、松沢峯堂さん)
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2007年の公演レポート

2007年 12月 20日 ( 木 ) 山本邦山尺八合奏団演奏会 ◎
2007年 12月 15日 ( 土 ) 第一回 徳丸十盟 尺八演奏会 ◎
2007年 11月 15日 ( 木 ) 山勢麻衣子演奏会 ◎
2007年 10月 7日 ( 日 ) 第5回 芳村伊四郎リサイタル ◎
2007年 9月 28日 ( 金 ) スピカ能07「道成寺/土蜘蛛」◎
2007年 8月 28日 ( 火 ) 山本東次郎家 狂言の会 ◎
2007年 7月 20日 ( 金 ) 第2回 邦楽グループたまゆらコンサート
2007年 6月 26日 ( 火 ) つるとかめ ” しゃっきとせ ” Live
2007年 5月 31日 ( 木 ) 第十一回日本伝統文化振興財団賞授賞式
2007年 4月 22日 ( 日 ) 箏曲 亀山香能 ライブ&トークvol.13
2007年 4月 9日 ( 月 ) 藤井昭子 地歌Live 第三十三回
2007年 3月 24日 ( 土 ) 第6回箏曲組歌演奏会 流派を超えて組歌の魅力を探る
2007年 1月 31日 ( 水 ) ZEN YAMATO vol.2
2007年 1月 11日 ( 木 ) 『石丸亭』初春女流競艶

 

2005年、2006年の公演レポート

2006年12月20日( 水 ) 第十三回 福田千栄子演奏会
2006年11月19日( 日 ) 安藤政輝 箏の世界
2006年10月13日( 金 ) 中村明一虚無僧尺八の世界 東北の尺八 霊慕
2006年8月31日( 木 ) 石丸亭〜秋の夜噺
2006年7月12日( 水 ) 奄美しまうたの心 武下和平の芸術 第22回〈東京の夏〉音楽祭2006「大地の歌・街角の音楽」日本音楽のかたち—(二十三)
2006年7月4日( 火 ) 第四十六回ビクター名流小唄まつり
2006年5月29日( 月 ) 第十回 日本伝統文化振興財団賞「奨励賞」授賞式
2006年4月26日( 水 ) 奏心会−2006−「今」を語る古典
2006年4月3日( 月 ) 第28回 藤井昭子 地歌Live
2006年3月10日( 金 ) Friday Traditional Night
弥生の風「続・連琵琶の華麗な競演!」
2006年1月29日( 日 ) 日本の響き 今藤政太郎企画による 三味線音楽の世界
2005年11月26日( 土 ) 山本邦山 Plays JAZZ, THE PARK SIDE WIND
2005年10月25日( 火 ) 第1回 望月晴美 囃子演奏会
2005年10月21日( 金 ) 第13回 亀山香能リサイタル
2005年9月14日( 水 ) 連琵琶(つれびわ) 清盛−『平家物語』より−