第5回 芳村伊四郎リサイタル

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2007年10月 7日(日)開催

(紀尾井小ホール)

第5回 芳村伊四郎リサイタル2007年10月7日、紀尾井小ホールの「第5回芳村伊四郎リサイタル」に行ってきました。

曲目は「まかしょ(寒行雪姿見)」「秋の色種」「問答入り 勧進帳」と古典ばかり3曲。長唄は歌舞伎の音楽というイメージが強かったのですが、今回のリサイタルでは、長唄の違う面を知ることができました。

最初の「まかしょ」は、江戸中村座で初演された歌舞伎舞踊の曲。にぎやかに鳴物も入って、軽妙な調子で幕を開けました。

曲が終わったところで司会の葛西聖司アナウンサーが登場し、このリサイタルの選曲について、おなじ長唄でも3曲が異なる特徴をもっていること、それぞれの曲に合わせた共演者であることが解説されました。会場は着物姿の女性が目立ち、長唄になじみの深い方も多いと見受けましたが、曲をよく知らない私には説明がとてもわかりやすく、願ってもないガイド役を得た気分でした。

2番目の「秋の色種(あきのいろくさ)」は、純粋に鑑賞用の音楽として演奏される、いわゆる「お座敷長唄」の代表作とのこと。江戸時代、麻布にあった南部の殿様の隠居所新築祝いに作られた曲で、当時の麻布の秋の景色を歌っていることや、およそ長唄らしくない漢語が使われていることなど、興味深い解説がありました。ちょうど季節もぴったりで、歌舞伎座では出会えない長唄の世界をたっぷりと楽しみました。

最後は「勧進帳」。歌舞伎十八番でおなじみの演目ですが、今回は勧進帳の読み上げや山伏問答の入った「問答入り」の形です。歌舞伎の舞台では肝心のセリフは役者さんの役目ですから、長唄だけとりだして聞いても筋はわかりません。「問答入り」はそれを補って、長唄の唄方が登場人物を演じてしまうという趣向です。弁慶が伊四郎さん、富樫に杵屋直吉さん、タテ三味線に今藤政太郎さんを迎えて、「勧進帳」の演奏会バージョンともいえるダイナミックな長唄を味わいました。

この日演奏されたのは、芳村伊四郎さんの大好きな作品ばかりということです。みごとに三曲三様で、伊四郎さんの幅の広さを感じさせるとともに、長唄の世界の広がりと魅力を教えてくれる、意味の深いプログラムだということが、解説の助けもあってよくわかりました。

歌舞伎の長唄を楽しむばかりでなく、今度はもっといろいろな長唄を聞いてみたいと思いながら紀尾井ホールを後にし、金木犀の香る道を四ッ谷駅に向かいました。

(文:じゃぽ音っと編集部)

(記事公開日:2007年10月07日)