山本邦山 Plays JAZZ, THE PARK SIDE WIND

  • 文字サイズ:

2005年11月26日(土)開催
(東京渋谷・HAKUJU HALL)

2005年11月26日 HAKUJU HALLで行なわれた、山本邦山 Plays JAZZ, THE PARK SIDE WINDの模様をレポートします。人間国宝で尺八奏者の大御所・山本邦山さんがピアノ、ベースのジャズ・ミュージシャンとともにおくる楽しいコンサートです。

文:笹井邦平

マルチなトップアーティスト

山本邦山(尺八/右)をメインにしたトリオ編成
山本邦山(尺八/右)をメインにしたトリオ編成

山本邦山(やまもとほうざん)は現在都山流(とざんりゅう)尺八の第一人者で、人間国宝に認定されているトップアーティストである。彼は6歳より父に尺八のレッスンを受け、演奏のみならず作曲にもその才能を開花させ、東京新聞社主催〈邦楽コンクール・作曲部門〉に尺八二重奏曲「竹」で応募して第一位となった。さらに、本曲(ほんきょく・尺八の独奏曲)や外曲(がいきょく・箏や三味線との合奏曲)など従来の尺八の楽曲に留まらず、洋楽とのセッションにも果敢にチャレンジし、オーケストラとの共演やジャズとのコラボレーションを展開していった。また、東京藝術大学音楽学部教授に就任して後進を育成し、尺八を現代邦楽には欠かせないメロディ楽器として確立した。

ジャズる尺八

坂井紅介(ベース)
坂井紅介(ベース)

その邦山が青春時代にジャズ・ライブを各地で展開した往年の仲間・佐藤允彦(さとうまさひこ・ピアノ)・坂井紅介(さかいべにすけ・ベース)と再びトリオを組みステージに立つ。スーツ姿で飄々とステージに現れ、尺八ソロのインプロビゼーションで開演を飾り、佐藤と坂井が同じくピアノ・ベースソロのインプロを披露して1部の演奏が始まる。

曲目は「Iberian Sunset」「Autumn Leaves(枯葉)」「Tuva-lak」「Impression of Hikone」「Black Is The Color OF My True Love’s Hair」。2部は「FREE」(ピアノ&ベース)「Misty(ミスティ)」「FREE」(トリオ)「The Shadow OF Your Smile(いそしぎ)」「Earlham Blues」「Take Five(テイクファイブ)」「祖谷の粉挽き唄」「Silky Adventure」。

佐藤允彦(ピアノ)
佐藤允彦(ピアノ)

尺八のクリアな高音はクラリネット、豊かな低音はテナーサックスのように響き、自由自在に吹きこなす御機嫌なサウンドに聴衆の身体も自ずと揺れ、「枯葉」「いそしぎ」「テイクファイブ」などの名曲に往年のジャズファンは痺れる。「祖谷の粉挽き唄」は徳島県の民謡で、蕎麦の粉を石臼で挽くワークソング。尺八の奏でる素朴で美しいメロディとジャズのシンプルなリズムが寄り添うように流れ、見事な〈和洋の融合〉に客席は静まりかえる。

古くて新しい楽器

難しい楽器を自在に操る山本邦山
難しい楽器を自在に操る山本邦山

尺八はリードがなく〈歌口(うたくち)〉といわれる上端を斜めに切った吹き口に息を吹きつけ、唇の開き具合や顎の角度で音律・音色を微妙に調節するチョー難しい楽器。それを手足のように自在に操る邦山はやはり天才である。

尺八のテープはアメリカのスーパーマーケットでは瞑想用に売られているという。外国人がその麗しい音色にどんな仕掛けがあるのか尺八を割ってみたらただの竹だった−というエピソードもある。そして、外国人邦楽演奏家の中で尺八奏者が最も多いことは尺八が”古くて新しい楽器”であることを物語っている。それは山本邦山というオールマイティなソリストの足跡と功績でもある。

写真提供:三好英輔(協力:ブライトワン)

山本邦山(やまもと ほうざん)

1937年滋賀県大津市生まれ。

6歳より、父に尺八の手ほどきを受ける。9歳より、中西蝶山師に尺八を師事する。1958年京都外国語大学英文科卒業後、パリ・ユネスコ本部主催世界民族音楽祭に日本代表として参加。1959年第1回尺八リサイタル(滋賀会館大ホール)を開催。1962年正派音楽院楽理科卒業。東京新聞社主催・邦楽コンクール作曲部門に尺八二重奏曲「竹」発表、第1位を受賞。1969年クラウンレコード「尺八1969」(尺八三本会)、芸術祭優秀賞受賞。1970年NHK優秀賞、日本三曲協会受賞。第4回、第5回尺八リサイタルにて芸術祭優秀賞受賞。日本ビクターRCAレコード奨励賞受賞。昭和49年度芸術選奨文部大臣賞受賞。1976年第1回滋賀県文化奨励賞受賞。東京フィルハーモニー交響楽団と廣瀬量平作曲「尺八と管弦楽のための協奏曲」(NHK委嘱)共演録音、尾高賞受賞。1977年東京藝術大学音楽学部非常勤講師に就任。NHK委嘱「韻」、芸術祭優秀賞受賞。NHK委嘱「現代鈴慕」、芸術祭優秀賞受賞。1987年コロムビアレコード「宙 CHU-山本邦山 尺八・2001」、昭和61年度文化庁芸術作品賞受賞。1988年外務省広報部制作「現代の顔 山本邦山」、映画コンクール審査長特別賞受賞。平成元年度第11回松尾芸能賞受賞。1991年モービル音楽賞受賞。1996年東京藝術大学音楽学部教授に就任。2000年出版芸術社より「尺八演奏論」出版。第25回滋賀県文化賞受賞。2002年重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。2004年紫綬褒章受章。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

(記事公開日:2005年11月26日)