日本の響き 今藤政太郎企画による 三味線音楽の世界

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(東京北千住・シアター1010)

北千住のシアター1010で行なわれた”日本の響き 今藤政太郎企画による 三味線音楽の世界”。「クラシック」「モダン」「エンタテインメント」という三部構成で、日本音楽のさまざまな魅力を伝えるステージの模様をお届けします。

文:笹井邦平

お洒落な街で斬新なプログラム

今藤政太郎(いまふじまさたろう)は四世藤舎呂船(よんせいとうしゃろせん)と藤舎せい子という囃子方夫妻の長男として生まれ、東京芸術大学に入学後”昭和の名人”と云われる三世今藤長十郎(さんせいいまふじちょうじゅうろう)・今藤綾子(いまふじあやこ)に師事して長唄三味線演奏家としてスタートを切った。

師・長十郎は長唄三味線の演奏に留まらずたくさんの新作を作曲して長唄の新しい可能性を追求し、政太郎も師の足跡を辿り創作活動や新しい試みを果敢に展開し、その発表の場として東京での〈邦楽リサイタル〉と大阪での〈三味線音楽の世界〉を開催している。

大阪公演の翌日同じプログラムを今回はじめて東京公演として北千住駅のそばの新しいホールで演奏した。北千住は駅の西口と東口では街の姿がまるで異なり、西口は再開発されてお洒落な繁華街に変身したが、東口はテレビドラマ「3年B組金八先生」のロケに使われる昔ながらの面影を残す下町の商店街がひっそりと佇む。

そんな新しい街のホールでプログラムもクラシック・モダン・エンタテインメント−とバラエティに富む。

ノーカットでクラシックの素晴らしさを

「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」。大迫力のステージ。
「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」。大迫力のステージ。

最初は〈クラシック〉古典長唄「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」を唄−東音宮田哲男(とうおんみやたてつお・人間国宝)ほか5名、三味線−今藤政太郎ほか5名、囃子−藤舎呂悦(とうしゃろえつ)ほか5名で演奏。名曲中の名曲と云われ舞踊のバックミュージックとしても人気曲だが、舞踊では演奏しない「謡うも舞うも法の声」より「げにも妙なる奇特かや」までノーカットでたっぷり聴かせ、名曲としてのクウォリティの高さを改めて感じる。

かぐや姫降臨

「月彩(つきあや)」。幻想的なステージ。
「月彩(つきあや)」。幻想的なステージ。

2曲目は〈モダン〉米川裕枝作曲・高橋明邦作調「月彩(つきあや)」を第一箏−米川裕枝(よねかわひろえ)、第二箏−中川敏裕(なかがわとしゆう)、十七絃−岡崎敏優(おかざきとしゆう)、打楽器−臼杵美智代(うすきみちよ)で演奏。月の光を器楽で表現するという古典にはない斬新な発想。初演時の箏2面・十七絃1面に今回打楽器を加えてサウンドに神秘的な輝きと深さが増し、皓々たる満月よりかぐや姫が降りてきそうな幻想美に酔う。

アンサンブルの勝利

「地獄八景冥途之御客(じごくばっけいめいどのおきゃく)」。 舞台の背景で小見出しが映し出されている。
「地獄八景冥途之御客(じごくばっけいめいどのおきゃく)」。
舞台の背景で小見出しが映し出されている。

トリは〈エンタテインメント〉金子泰、塩田律作・今藤政太郎、今藤美治郎作曲・奥田祐シンセサイザー作、編曲「地獄八景冥途之御客(じごくばっけいめいどのおきゃく)」を唄−東音宮田哲男ほか11名、三味線−今藤政太郎ほか5名、シンセサイザー−奥田祐(おくだゆう)、笛−中川善雄(なかがわよしお)、打楽器−藤舎呂悦ほか4名で演奏。上方古典落語をモチーフに地獄遊山のお大尽一行と閻魔大王の虚々実々の駆け引きを端唄・俗曲・浄瑠璃・芝居などを盛り込みユーモラスに描く。遊女の色仕掛けに閻魔が嵌り、ただのエッチなオジサンと化するラストは歌舞伎「鳴神」のパロディでばかばかしく面白い。作曲は政太郎と今藤美治郎(いまふじよしじろう)だが、稽古の中で唄方が工夫を凝らして自らの役をデフォルメして娯楽色の濃い作品に仕上がり、全員が楽しんでやっているのが微笑ましい。45分の大作を緻密なアンサンブルで聴かせたチームワークに拍手を贈る。

引き出しとセンス

「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」より。後列中央・今藤政太郎、後列中央左・東音宮田哲男(人間国宝)。
「京鹿子娘道成寺(きょうがのこむすめどうじょうじ)」より。後列中央・今藤政太郎、後列中央左・東音宮田哲男(人間国宝)。

政太郎によれば伝統芸能の世界では”作曲する”のではなく”拵える”と云う。つまり新しい曲を創るのではなく、〈在り物〉(古今の様々なジャンルの既存の楽曲・フレーズ)を繋ぎ合わせアレンジしてリメイクする−という伝統的なメソドである。この作業にはたくさんの〈引き出し〉(音楽的素養・演奏技術)とセンスが不可欠とされ、両方を兼ね備えた作曲家・演奏家のみがなし得る伝統的技法である。

写真はリハーサル時のもの

今藤政太郎(いまふじ まさたろう)

imafuji_masataro1935年東京生まれ。四世藤舎呂船、藤舎せい子の長男。幼少より邦楽器に親しみ、16歳の時、十世芳村伊四郎より本格的に長唄の薫陶を受けた。55年東京芸術大学に入学し、昭和期の大名人・三世今藤長十郎、今藤綾子に師事。62年二世今藤長十郎の前名である今藤政太郎を襲名。同年「能楽囃子」でNHK杯賞文部大臣賞を受賞。三味線の演奏活動と映画音楽を含む作曲活動を展開、その両方で様々な受賞歴を持つ。多くの海外公演において立三味線を務めている。現在、国立劇場講師、NHK邦楽技能者育成会講師。

HPアドレス:http://www.masataro.jp/

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

(記事公開日:2006年01月29日)