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「筆始四季の探題」

「古曲を知る」シリーズ第32回 河東節を知る会

2011年2月16日(水)開催
(東京・紀尾井小ホール)

“古曲”と呼ばれる河東節、一中節、宮薗節、荻江節を今に伝えるコンサート「古曲を知る」シリーズより、第32回「河東節を知る会」が2月16日紀尾井小ホールで行われました(午後2時開演)。竹内道敬氏(元国立音楽大学教授、近世邦楽研究家)による和やかな解説、粋を凝らした演奏の模様をレポートします(CD「古曲の今」「古曲の今第二集」「河東節名曲選」は当財団より発売中)。

往時の江戸へ誘われたひととき

文:じゃぽ音っと編集部

「海老」
「海老」

江戸時代に産声をあげた日本音楽は地歌、箏曲、長唄や義太夫などの浄瑠璃など数多い。浄瑠璃では数々の「節」が人気を集めては消え、現在に伝わるものはその一部に過ぎない。なかでも稀少な河東、一中、荻江、宮薗は、大正〜昭和期に「古曲」と称されて現在に至り、山田流箏曲や長唄などの音楽家も参加し研鑽を重ねている。財団法人古曲会が主催し、長期にわたるシリーズの第32回「古曲を知る会」は河東節からのプログラム。

「御祭礼花競べ」
「御祭礼花競べ」

 まず「海老」は2分に満たない短さで、LP時代の録音こそあれど、演奏される機会の少ない稀曲。今回は浄瑠璃、三味線ともに男性による演奏で、河東節連中が歌舞伎界の名跡、市川團十郎家へ年賀に行った際(招かれたという説も)に披露されたと伝わるもの。「“目出度く祝ってくれるのう”と團十郎になったような気分で」という竹内道敬氏の解説の後、緞帳が上がる。河東節の大曲「橋弁慶」と共通する前弾に続き、「 そもそも海老は親に似て」という出だしから「目さえ“め”でたき次第なり」とまたたく間に終わり、あまりの短さにきょとんと目が点になるほど。江戸っ子の洒落っ気を凝縮したかのようで、聴き手にとっては河東節の世界への扉となり、いい目覚しになった。

次に「御祭礼花競べ(ごさいれいはなくらべ)」。嘉永三年(1850年)、山王祭りのときの付け祭り(注)の余興で演奏されたという記録が残っており、こういった祭礼の場で演奏され伝承された河東節には「汐汲里の小車(しおくみさとのおぐるま)」(山王祭礼)、「七草(ななくさ)」(神田祭礼)がある。浄瑠璃、三味線あわせて男性4名の編成で、タテ三味線の「ハオー」と勇ましい掛け声が加わり、祭礼にふさわしくめでたい言葉が並ぶ。

「松竹梅」
「松竹梅」

「松竹梅」は文政十年(1827年)、十寸見東栄が東洲と改名した際に披露された曲。別名「老松(おいまつ)」といい能の謡曲「老松」(世阿弥作)をもとにしており、「松、竹、梅」はもちろんだが、一見関連のない吉原にちなんだ歌詞を差し込むのは文化・文政当時のお約束ごとだったそうだ。格調の高い「老松」を身近に感じさせるためだったのでは、という竹内氏の解説。三味線2挺に力強い浄瑠璃の節が、当時の空気を再現するかのように生音で迫ってくる。

「筆始四季の探題」
「筆始四季の探題」

最後に「筆始四季の探題(ふではじめしきのたんだい)」。こちらは天明三年(1783年)とも伝えられる。“筆始”は正月のことで、クジ引きかなにかで題を引き当て、それにふさわしい歌を詠むという趣旨。古今和歌集、和漢朗詠集、拾遺和歌集といった古典からの引用を巧みに織りこんで正月のめでたさを表現しており、作詞者(文魚というペンネームの名義だが、じっさいは高崎のお殿様であるとも)の相当な教養がうかがえるとのこと。時間の都合で前半を割愛した演奏だったが、名歌の情景が次々に現れたのち「数え数うる言の葉は、浜の真砂の数も尽きせじ」と締めくくられ、その編集の妙が時代を越えて味わえた。

江戸に生まれ育まれてきた河東節の世界。ロビーに展示してあった色あざやかな浮世絵を休憩中に眺めつつ、往時の江戸へ誘われた夢のようなひとときだった。

写真撮影:福田知弘

注 山王祭りのときの付け祭り 神仏習合だった江戸時代、“山王権現”と呼ばれていた赤坂の日枝神社と、神田神社(神田明神)の祭りは江戸の二大祭りと呼ばれた。その祭礼の行列で山車(だし)につく踊り屋台や練り物、地走りなどを“付け祭り”という。ただし今のようなパレードと異なり、しばらく歩きいったん止まって演奏し、また動いていったという記録が残っている。

番組

一、海老〈えび〉
浄瑠璃:十寸見東裕(松永忠次郎) 三味線:山彦青波(松永忠一郎)

二、御祭礼花競〈ごさいれいはなくらべ〉
浄瑠璃:十寸見東治(杵屋利光)、十寸見東裕 三味線:山彦良波、山彦青波

三、松竹梅〈しょうちくばい〉
浄瑠璃:山彦ちか子、山彦幸代、山彦ゆかり 三味線:山彦佳子、山彦朋子

四、筆始四季の探題〈ふではじめしきのたんだい〉
浄瑠璃:山彦久江、山彦音枝子、山彦敦子、山彦恭子 三味線:山彦千子(人間国宝)、山彦奈加、山彦季代乃 上調子:山彦まさ予

関連作品

「古曲の今 (12枚組)」
「古曲の今 第二集 ── 河東節・一中節・宮薗節・荻江節 ── (10枚組)」
「河東節名曲選」[助六所縁江戸桜/山姥/廓八景/七重八重花の栞(花の栞)]

今後の公演予定

【古曲を知るシリーズ】

紀尾井小ホール 自由席3,000円
解説 竹内道敬(元国立音楽大学教授、近世邦楽研究家)

5月18日(水)14時開演 荻江節を知る会
8月5日(金)14時開演 一中節を知る会
12月7日(水)14時開演 宮薗節を知る会
(平成24年)2月13日(月)14時開演 河東節を知る会

【古曲の演奏会】

7月13日(水)13時開演 古曲勉強会
紀尾井小ホール 自由席2,000円

10月4日(火)13時開演 古曲演奏会
紀尾井小ホール 自由席4,000円

主催 財団法人 古曲会 お問い合わせはこちら

「絃歌」

深海さとみ 箏リサイタル―古典を現代にIX―

2011年1月23日(日)開催(津田ホール)

深海さとみ師が毎年開催している「古典を現代に」シリーズ。第9回目となる今年は古典的な奏法が基調となっている現代曲をとり揃えたプログラム。深海師の箏独奏と歌を中心に、深海合奏団の迫力のある合奏で締めくくられ、会場は惜しみのない拍手に包まれました。そんな素晴らしいリサイタルの模様をお伝えします。

深海の「海」の字は、正しくは旁の下側が「母」の「海」となります。

 

時代と世代を越えた、古典と現代の出会いの形

文:中山久民

「夢幻砧―五段砧による変容―」
「夢幻砧―五段砧による変容―」

 箏曲の深海さとみのリサイタルはこれまでに「箏の音を探る」、「女の情念」といったシリーズを重ねて、今回は「古典を現代に」と題されたシリーズの第9回目だった。演奏されたのは4曲の現代曲だが、奇をてらうといったところはなく、伝統的な手法を念頭において作曲されたものばかりだった。

 1曲目となる廣瀬量平作曲の「夢幻砧―五段砧による変容―」(箏独奏)では、唸りか声かという色合いの詩歌が、川霧の彼方から箏の音色にまとわりつき、箏の胴をたたく音などを交えた奏法と一体となり、砧の情景を思わせた。

「梓弓―謡曲〈葵の上〉より―」
「梓弓―謡曲〈葵の上〉より―」

 2曲目の高橋久美子作曲による「梓弓―謡曲〈葵の上〉より―」(箏独奏)では、片肌脱いでの琵琶法師による語りものを想像したほど熱くパワフルな演奏が展開され、光源氏を愛したが故の嫉妬が恨みとなっていく女の悲しさをうかがわせる。初演(2010年)では尺八の藤原道山との共演だったというから、その録音もぜひ聴きたいと思えてくる。

3曲目の肥後一郎作曲の「柳川詩曲」(箏独奏)は、北原白秋の詩集「思ひ出」より三つの詩をとり入れたもの。ゆったりと歌われる「曼珠沙崋」と軽快な「あひびき」、変化に富んだ曲調の「紺屋のおろく」と披露される。筆者のように日本と外国のポップスに近い現場で仕事をしてきた者にとっては、箏がポピュラー界でのピアノやギターの弾き語りと二重写しに見えてきたりもする。箏や三絃といった日本の伝統楽器が本来的にもっている詩歌との関わり方、箏が持つ弾き歌いの本来的な演奏の姿といったものが、この曲を通じて強く印象づけられた。

「柳川詩曲」
「柳川詩曲」

 4曲目の肥後一郎作曲による「絃歌」(箏合奏)では、深海を含めて総勢13名の箏奏者(内3名は十七絃)による深海合奏団が、揃いの着物姿で並んでの合奏となる。ファンタジーやアクション映画のサウンドトラックを想像させるドラマティックな曲調で、その室内楽的なアンサンブルによる響きは今日的なものだった。そこでのビート感や低音を出していた十七絃箏がよく響いて聴こえる。この曲の初演が1982年の沢井忠夫合奏団(注1)だったと知り、そうだったのかと納得できる現代的な様子の曲でもあった。

現代曲でありながら先祖帰りをしているとでもいうか、今の空気のなかに伝統的、古典的な表現が研ぎ澄まされ、磨かれているという実感が静かに湧いてきた。そういった表現が、身の回りの所作・作法に生きていることを、思い出せば何気なく気づかせる演奏でもあった。それだけに今回は「古典を現代に」と題されたシリーズの意図、深海の思いをとくに強く感じさせるリサイタルとなっていた。そこでは現代美術におけるセザンヌ(注2)以前と以後、ポピュラー界でのビートルズ以前と以後などを思い出させ、宮城道雄以後の世代の箏奏者による時代と世代を越えた、古典と現代の出会いのひとつの形を見せてもらえたという印象も残った。

写真撮影:間野真由美

注1
沢井忠夫合奏団 箏曲家、作曲家の沢井忠夫(1937-1997)を中心に1979年発足。

注2
セザンヌ(Paul Cézanne、1839-1906)フランスの画家。近代絵画の父と称され、20世紀の絵画に影響を与えた。

プログラム

〈謡曲より〉夢幻砧 ―五段砧による変容―

廣瀬量平作曲

箏・声による(改訂初演)梓弓 ―謡曲「葵の上」より―

高橋久美子作曲

〈現代に息づく古典の息吹〉柳河詩曲

北原白秋作詩/肥後一郎作曲

絃歌

肥後一郎作曲

<出演>

深海さとみ

深海合奏団
毛塚珠子 轟木美穂 後藤幹子 竹内聖 荒関裕子 平田紀子 石田真奈美 鈴木麻衣 綿貫裕子 吉川あいみ 安嶋三保子 伊藤江里菜


@

関連作品

「二曲一双/深海さとみ―古典を現代にⅡ―」(VZCG-656)
「秋風幻想 古典を現代に/深海さとみ」(VZCG-318)

中山久民

『CDジャーナル』元編集顧問。タウン誌『新宿プレイマップ』編集部を経て、『美術手帖』で批評連載を始める。音楽之友社の『オン・ブックス』シリーズをきっかけにミュージック・マガジン社、講談社、音楽出版社などで音楽書&音楽誌の編集プロデュース作業を行なう。著書に『多量な音の時代』(音楽之友社)、『プロフェッショナル・ロック』(共著・キョードー東京)がある。

2010年の公演レポート

2010年12月6日( 月 ) 三木稔 箏作品の夕べ
2010年10月24日( 日 ) 鈴木真為演奏会第二回 歌・箏・三絃による〈言の庭(ことのにわ)〉
2010年10月14日( 木 ) 第八回山木七重リサイタル〜富本浄瑠璃の研究〜
2010年10月5日( 火 ) 山田流箏曲 萩岡松韻の世界V〜三世萩岡松韻の作品を聴く
2010年5月27日( 木 ) 第十四回 日本伝統文化振興財団賞贈呈式
2010年4月16日( 金 ) Sound of 和楽 series3
2010年3月28日( 日 ) 山勢松韻演奏会

三木稔 箏作品の夕べ

2010年12月 6日(月)開催
(東京・四谷区民ホール)

石垣清美、木村玲子、砂崎知子、福永千恵子、宮越圭子、吉村七重の各師が一堂に会し、数多くの邦楽作品でも知られる三木稔氏の名作を演奏する「三木稔 箏作品の夕べ」が12月6日四谷区民ホールで開かれました。終演後、三木稔氏が演奏者とともに舞台で顔を揃え、会場からの惜しみのない拍手に包まれた感動的な会の模様をお伝えします。

文:笹井邦平

音楽の国際交流に貢献

作曲家・三木稔氏は日本のみならずアジアを代表する作曲家であり、〈連作オペラ〉をはじめとする作品群は国際的に高く評価され、邦楽の現代化と国際化をリードし日本とアジア、また東洋と西洋の音楽の交流と創造に大きく貢献した功績により昨年福岡市が主催する〈福岡アジア文化賞〉を受賞した。

その祝賀会の席で砂崎知子師と吉村七重師の間で「昔は演奏会でよくいっしょになった顔ぶれも最近はなかなか会う機会がないから、三木先生の名作箏作品を聴いていただく演奏会をしましょうか」という話が持ち上がり、そこに石垣清美師・木村玲子師・福永千恵子師・宮越圭子師が加わり今宵の演奏会に至った。数ある三木氏の邦楽作品の中でも箏を中心とした室内楽・独奏曲を中心に6曲を選曲して演奏する。

21世紀の箏音楽

序曲は「文様(あや)Ⅰ」(1967)「文様Ⅱ」(1974)(十三絃箏Ⅰ―福永千恵子、十三絃箏Ⅱ―木村玲子、十七絃箏―宮越圭子)。古典曲を聴きなれた耳にはメロディラインが新鮮で各パートが独立した旋律を奏でながらどこかで微妙にアンサンブルを保ち、古典曲にはないテイストがある。

2曲目は「竜田の曲」(1971)(二十絃箏独奏―吉村七重)。三木氏が協力して野坂恵子(現操壽)師と開発した二十絃箏の特色を活かした作品。豪放な秋の女神・竜田姫のイメージを吉村師が二十絃箏の特色である広い音域を活かしてバリバリ弾きまくり、響きの良いホールに現代箏のインパクトある音色が谺する。

3曲目は「雅のうた・鄙ぶりの踊り」(1971)(十七絃箏―石垣清美、尺八―福田輝久〈客演〉)。箏の音色の典雅な一面とやや鄙びた素朴な一面を十七絃箏とくすんだ素朴な音色の尺八が着かず離れずの絶妙のアンサンブルを奏でる。

最高のプレゼント

4曲目は「絃(いと)の春秋~箏と三味線のための二重奏曲~」(1995)(地歌三味線―砂崎知子、十三絃箏―吉村七重)。三木氏が古典楽器である十三絃箏と地歌三味線を広く振興させようと書いた作品。今宵のコンサートの仕掛け人砂崎師と吉村師の奏でる和のテイストの心地良いメロディとテンポが私の耳に安らぎを与えてくれる。

5曲目は「箏 譚詩集第一集〈冬〉」(1969)(十三絃箏独奏―福永千恵子)。現代箏曲演奏家でこの曲をリサイタルにかけない人はいないだろうという現代箏曲のバイブル的作品。〈小さな序曲〉〈あこがれ〉〈冬の夜〉〈人形の子守唄〉〈やがて春が〉の5章に別れ、十三絃箏が冬の安らぎと春への憧れをきめこまやかに歌い語る。私はこの曲を聴くとヴィヴァルディの「四季」の〈冬〉のラルゴを重ね合わす。

終目は「三つのフェスタル・バラード」(1954/1975)(二十絃箏Ⅰ―砂崎知子、二十絃箏Ⅱ―木村玲子、二十絃箏Ⅲ―宮越圭子、十七絃箏―石垣清美)。三木氏が十七歳まで過ごした徳島市の風景・風俗を綴った作品、この敢えて拭おうとしない土着的な匂いが三木氏に数多の邦楽作品の書かせたルーツだと私は思う。二十絃箏と十七絃の華麗なアンサンブルが高いテンションで響きわたり聴衆を魅了する。

今宵の出演者は沢井箏曲院・正派合奏団・日本音楽集団・宮城合奏団など現代邦楽をレパートリーとするアンサンブルで鍛え抜かれたスペシャリストばかり、彼女達が一堂に会して巨匠の作品を精魂籠めて演奏する姿に客席は大満足。終演後舞台に上り出演者に囲まれた三木氏は「私は幸せ者でございます……」と声を詰まらせる。齢八十を過ぎて病と闘う氏にとって今宵の演奏会は最高のプレゼントとなったに違いない。

終演後、舞台で三木氏を囲んで

リハーサル(を除く)にて撮影
写真撮影:大森美樹

プロフィール

三木稔

ライフワークである「三木稔、日本史オペラ連作」は箏が重要な役割をする《春琴抄》《あだ》《じょうるり》《静と義経》《隅田川+くさびら》《源氏物語》と《ワカヒメ》《愛怨》に次ぎ《幸せのパコダ》で2010年夏世界にも例のない9連作が完成。6月の第8作《愛怨》ドイツ初演は各紙が絶賛、8回満員の記録。東西管弦楽を結ぶ「鳳凰三連」はニューヨークフィル等が演奏した《急の曲 Symphony for Two Worlds》を含み、欧米で一万回以上演奏されている《Marimba Spiritual》など室内楽・打楽器作品の多くは国際的なレパートリーとなっている。合唱曲・歌曲も多いが、日本音楽集団(1964)創立以来数十年邦楽器群、特に新箏(21絃)作品に献身した。他に三木オペラ舎(旧歌座)、結アンサンブル、オーケストラアジア、オーラJ、アジア アンサンブル、北杜国際音楽祭を創立し、例のない創造・プロデュース活動を国際的に展開。著書:「日本楽器法」(英語版・中国語版も)、「オペラ《源氏物語》ができるまで」。CD:「三木稔選集Ⅰ~Ⅶ」他。芸術祭大賞・紫綬褒章などのほか、2009年第20回「福岡アジア文化賞」の「芸術・文化賞」を日本人として初受賞。

福田輝久(客演)

1949年長野県。1986年頃よりソロ活動を始める。作曲家とのコラボレーションによる新作展・リサイタルを重ね尺八の表現領域を見つめて来た。オーケストラ・室内楽・管弦楽器・民族楽器との新作共演を国内外で行う。2001年ISCM「世界音楽の日々」横浜大会ファイナルコンサートにて英国ジョン・パルマ―の超難曲「尺八と室内楽の為のKOAN」に高い評価を得る。2003年フランス公演を機に尺八・三味線・箏による「邦楽聖会」を結成、音楽監督に丹波明氏を迎え「伝統と刷新」をテーマに毎年東京・フランスにて公演、古典から現代作品を示す。CDは日米欧にてリリース。中村梅山・宮田耕八朗・トムチェイピンに学び黒田良夫・丹波明の親炙に浴す。尺八聖流を立ち上げる。

石垣清美

5歳より生田流箏曲を学び、後に沢井忠夫に師事。1977年初代石垣征山と第1回箏・尺八ジョイント・リサイタルを開催以来、国内外各地で回を重ねる。1985年から9年間、熊谷守一美術館にて年4回ジョイント・コンサートを開催。平成元年度「石垣清美 箏独奏会」、平成3年度「石垣征山・石垣清美 ジョイント・リサイタルvol.5」の成果により、文化庁芸術祭賞を受賞。コロムビアよりCD「石垣清美 箏・十七絃の世界」「沢井忠夫デュオ作品集」「石垣清美・沢井忠夫をうたう」他発売。国際交流基金の派遣などによりアメリカ、東南アジア、アルゼンチン、スペイン、中東、他を訪問。洗足学園音楽大学教授。桐朋学園芸術短期大学講師。沢井箏曲院教授。邦楽音心会主宰。NHK邦楽技能者育成会、京都女子大学卒業。

木村玲子

正派音楽院卒。NHK邦楽技能者育成会を経て日本音楽集団、歌座、オーケストラアジア、アジアアンサンブル等で活動。現在オーラJ同人。1976年パンムジークコンクール第1位。1990年三木稔氏に箏譚詩集第4集を委嘱初演する。三木稔作品による第4回リサイタルで1994年度文化庁芸術祭賞受賞。1998年ワシントンDCフリーアギャラリーホールでのリサイタル。2000年三木稔オペラ源氏物語の初演など国内外で高い評価をうける。国連50周年コンサート他欧州ツアー、オペラ春琴抄等海外での公演多数。NYフィル、読響、都響など内外主要オーケストラとの共演。今秋三木稔シリアスシリーズ全5曲を集めたCDをリリース。正派邦楽会所属。

砂崎知子

東京藝術大学邦楽科卒業、同大学院修了。東京大学講師、大阪音楽大学教授を歴任。国内外において活発な演奏活動を展開し、リサイタルは30回を数える。1987年文化庁芸術祭賞受賞。1989年ビクターよりソロアルバム発売。また、「琴ヴィヴァルディ四季」(東芝EMI)など、クラシックの名曲を箏だけで演奏した画期的なCDも手掛けている。近年は作曲活動にも力を入れ作品集(家庭音楽会出版部)も発売。現在、箏曲宮城社大師範。全国小中学生、高校生箏曲コンクール審査員。2007年~2009年の間に国内24ヵ所で全国ツアー公演を開催。その他テレビ、ラジオ等で活躍中。

福永千恵子

東京藝術大学邦楽科卒業。パンムジークフェスティバル東京’79にて一位ドイツ大使賞受賞。1980年より国内外で現代作品を中心としたリサイタルを開催。国立劇場主催怜楽公演にて正倉院復元楽器による数々の弦楽器の演奏担当。2007年、東海大学卒業生により結成された、KOTO2KAIと共に沢井忠夫作品集による連続コンサート全9回〔音・燦らかに〕を開催。CD「福永千恵子BEST TAKE」「やさしく学べる 箏教本」(汐文社)発売。現在 東海大学教授、東京藝術大学非常勤講師。沢井箏曲院所属。

宮越圭子

1974年正派音楽院研究科修了。同院にて箏を中島靖子・後藤すみ子、三絃を井上道子・三宅倫子他に師事。同年NHK邦楽技能者育成会卒、日本音楽集団入団。以後、国内外で数多くのコンサートに出演の他、三木稔のオペラ「あだ」・歌楽「うたよみざる」の二十絃箏、「春琴抄」の三絃、市川猿之助スーパー歌舞伎の音楽の十七絃の担当など幅広く活躍する。1987年・1988年・1997年に十七絃リサイタルを開催。豊かな音楽性や表現力、確かなテクニックには定評があり、特に十七絃箏におけるアンサンブル技術では高い評価を得ている。現在、正派音楽院助教授、正派邦楽会大師範(芸名宮越雅虹)、日本音楽集団団員、正派合奏団団員、桐韻会会員、創造学園大学非常勤講師、トリオ響同人。2005年「宮越圭子17絃の世界」をリリース。

吉村七重

従来の伝統的な古典箏曲、十三絃箏の演奏と同時に、1971年以後新しい表現を求めて二十絃箏を手掛ける。多くの作曲家の協力を得て新たな可能性を拓く二十絃箏の世界を展開、新作初演は100曲を数える。現代音楽祭他海外からの招聘も多く、日本を代表する箏演奏家として日本文化の紹介、国際交流に大きく貢献している。本年、平成21年度芸術選奨文部科学大臣賞、第19回朝日現代音楽賞受賞に輝く。1992年文化庁芸術祭賞、1993年第三回出光音楽賞他多数受賞。古典から委嘱作品による現代音楽まで多くのソロCDを日本(カメラータ・トウキョウ、ビクター伝統文化振興財団他)やアメリカ(Celestial harmonies)からリリース。日本現代箏曲研究会を主宰し、若手演奏家の育成に努めている。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

「新作箏歌 星合曲」

鈴木真為演奏会第二回 歌・箏・三絃による〈言の庭(ことのにわ)〉

2010年10月24日(日)開催
(東京・紀尾井小ホール)

昨年、当財団の第10回邦楽技能者オーディションに合格し、CD作品を発表。これからの活躍が大いに期待される山田流箏曲演奏家、鈴木真為さんの第二回演奏会が東京・紀尾井小ホールで開催されました。数多くの助演者を迎え、古典曲、CD収録曲、新作箏歌を披露し、観衆を魅了したコンサートの模様をお伝えします。

 

古典曲、新作曲を包み込んだ「言の庭(ことのにわ)」

文:じゃぽ音っと編集部

山田流箏曲の新進演奏家、鈴木真為さんの第2回目となる演奏会が行なわれた。日本音楽には浄瑠璃に代表される「語りもの」と箏曲に代表される「歌いもの」の流れがあり、箏を「弾き歌う」箏曲、とりわけ「歌」が大きな比重を占める山田流箏曲は江戸時代後期に江戸を中心に広まったもの。鈴木さんが演奏会タイトルを「言の庭(ことのにわ)」と銘打ったように、“言=ことば”、“庭=四季が織り成す自然の情景”を古典曲と新作箏歌を交えて広く包み込んだ演奏会となった。

まず最初に演奏されたのは「初音曲」。光源氏波乱の生涯、いっときのおだやかな情景が描かれた源氏物語「初音」の巻に材を取り、古典文学の深遠なテーマ「もののあわれ」の境地を巧みに表した、流祖山田検校、唯一の箏組歌として知られる。彼女にとっての「箏の弾き歌いの原点」という思いを示したオープニングが終わると、聴衆から盛んな拍手が寄せられた。

続く「秋の曲」は、古今和歌集に着目した吉沢検校が箏曲の復興を志し江戸時代後期に作曲した「古今組」と呼ばれる5曲のなかのひとつで、その格調の高い旋律や精緻な手事を味わう。山登松和師を助演に迎え、和歌を織り込んだ歌と二面の箏が描き出す雅な情景にしばし聴き入る。

歌・箏に草間路代師、歌・三絃に谷珠美師を迎えた三曲目「桜狩」は、今年1月に発表されたCD「山田流箏曲 鈴木真為」に収録されている。山田検校の作品のなかで合の手が最も長いといわれる名曲が紡ぎ出す、粋な情景を華やかに披露。収録時の編成による貴重な生演奏となった。

終曲は「新作箏歌 星合曲」(田村博巳構成、寺嶋陸也作曲)。古代中国発祥といわれる牽牛織姫の物語に材を取り、寂蓮、山上憶良の歌や神楽歌を挿入した箏歌。雅楽に使われる和琴の節を表現する調弦(低い六弦分に相当)を指ではじき、残りの七弦はそれ以外に充てるという変則的な調弦。その箏と歌にしっとり寄り添う幽玄な笛の音が情趣をいっそう駆り立てる。照明を落とした舞台に浮かび上がる、左右一対の燭台の火は天の川対岸の二つの星を示し、そのあいだの天の川でひとり、箏を弾き歌う姿は、星に願いをこめて催されていた在りし日の祭祀の幻想的な情景へと聴き手をいざなう。それはコンサートの締めくくりを飾るのにふさわしい一幕となった。

原点から出発し、新作箏歌で閉幕した演奏会。歌を大切にする山田流箏曲演奏家のひとりとして、「ことば」と「四季が織り成す自然の情景」をテーマに見据えた活動は、新しい世代の波となっていくように感じられた。

関連作品

プロフィール

鈴木真為
1978年 東京都生まれ。幼少より母から箏の手ほどきを受ける。
1994年 山田流箏曲を谷珠美師に師事。
1997年 東京藝術大学音楽学部邦楽科山田流箏曲専攻入学。在学中、箏・三絃を故増渕任一朗師、井口法能師、山勢松韻師、岸辺美千賀師、箏組歌を鳥居名美野師、亀山香能師、合奏研究を野坂操壽師に師事。副科として長唄を東音浅見文子師、清元を清元志佐雄太夫師、常磐津を常磐津文字太夫師、謡曲観世流を野村四郎師に師事。
2000年 安宅賞受賞。
2001年 アカンサス音楽賞受賞。東京藝術大学同声会主催新人演奏会出演者に選ばれる。同時に同声会賞受賞。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程山田流箏曲専攻入学。在学中、箏・三絃を故増渕任一朗師、井口法能師、地歌三絃を芦垣美穂師、関連箏曲を萩岡松韻師に師事。
2002年 河東節(三味線)を人間国宝山彦千子師に師事。
箏とフルートのDuo「Lips」を結成。以降国内外各地でコンサートを行う。これまでにCD「Lips」「光色—hikariiro—」をリリース(Waternet.SG.Inc)。
2003年 東京藝術大学大学院音楽研究科学位論文『山田検校〈熊野〉〜歌唱表現を中心に〜』にて修士号取得。
東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程山田流箏曲専攻修了。
東京藝術大学推薦によりデビューリサイタル開催(旧東京音楽学校奏楽堂)。
NHK-FM「邦楽のひととき」初出演。
2004年 河東節(浄瑠璃)を人間国宝山彦節子師に師事。
2005年 テレビ朝日「題名のない音楽会21」出演。
山田流箏曲と生田流箏曲のDuo「真結」を結成。以後年二回、目白庭園赤鳥庵を中心に演奏会を開催。
第十二回賢順記念全国箏曲コンクール銀賞受賞。
2006年 山彦節子師に山彦真為の名を許される。
第二十二回「明日をになう新進の舞踊邦楽鑑賞会」に出演(国立文楽劇場)。
2007年 鈴木真為演奏会第一回〈歌・箏・三絃による言の庭〉開催(国立能楽堂研修能舞台)。
2009年 第十五回長谷検校記念全国邦楽コンクール優秀賞受賞。
第十回日本伝統文化振興財団邦楽技能者オーディション合格。
民俗と都市の芸能「江戸の囃子と箏歌」出演(静岡音楽館AOI)。
韓国国立芸術総合大学校主催公演・世界無形文化財招聘シリーズに出演。
2010年 CD「山田流箏曲 鈴木真為」リリース(日本伝統文化振興財団)。
NHK邦楽オーディション合格。

谷珠美邦楽研究グループ、珠の会、箏曲新潮会、財団法人古曲会各所属。 Lips同人。真結同人。

「雲井曲(くもいのきょく)」

第八回山木七重リサイタル〜富本浄瑠璃の研究〜

2010年10月14日(木)開催
(東京・紀尾井小ホール)

山田流箏曲御三家のひとつ、山木派家元・六代山木千賀師の息女、山木七重さん。第八回目を数えるリサイタルのテーマは「富本浄瑠璃の研究」。江戸浄瑠璃のひとつ、富本節が山田流箏曲に移曲され今に伝わる大変貴重な曲を中心に、持てる力を存分に発揮し会場を沸かせたコンサートの模様をお送りします。

文:笹井邦平

山田流に残った富本浄瑠璃

山田流箏曲の山木七重さんの8回目のリサイタルは〈富本浄瑠璃の研究〉というテーマで、箏組歌1曲と山田流に残っている富本浄瑠璃2曲を採り上げる。

七重さんは山田流御三家(山木・山勢・山登)の一つの山木派家元・六代山木千賀師の息女、幼少より父・千賀師や伯母・山木賀世師に手解きを受け、東京藝術大学大学院の修士課程を修了して演奏活動を続けている新進気鋭の演奏家。

〈富本浄瑠璃〉(富本節)は江戸中期寛延元年(1748)に初代富本豊前掾(しょだいとみもとぶぜんのじょう)が常磐津節から独立して創始した新浄瑠璃で、その後豊前掾の実子二代目富本豊前太夫が活躍したが、富本節から清元節が興って人気を得ると次第に衰退の一路を辿り今日伝承されている曲数は限られているが、江戸浄瑠璃を巧みに摂取して興隆した山田流箏曲に幾つか残されている。

読人の恋心を綴る

序曲は八橋検校作曲・箏組歌「雲井曲(くもいのきょく)」を七重さんの箏弾き歌いで演奏。〈箏組歌〉は通常六首の和歌を組み合わせた歌詞を箏の伴奏のみで弾き歌いをする楽曲、各歌の旋律は異なるが拍数は1歌が64拍子(128拍)という同じ長さになっている。

金屏風一双を背に緋毛氈の山台に乗った黒の正装の七重さんは練り上げた声音と巧みな音遣いで和歌に籠められた読人の恋心を綴り、クリアな爪音とマッチしてシンプルながら奥深い組歌のエキスを聴かせる。

家の秘曲を大切に

2曲目は「桜七本(さくらななもと)」を七重さんの箏と東明吟泉師の三絃で合奏。幕末から明治期に活躍した四代山木千賀が富本節から移曲したもので、富本には原曲が伝承されておらず山木派のみに伝わる秘曲。富本節の繁栄を祝した歌詞に四季折々の花の名を読み込んだ浄瑠璃を富本節特有の広音域で艶麗な節回しで七重さんが語り、吟泉師の音締の良い三絃がしっとりとした味わいを醸す。この曲を家の財産として後世に残そうとする七重さんの気概が伝わってくる。

力量を発揮

トリは「六玉川(むたまがわ)」(箏—山木七重・武藤松圃、三絃—山登松和、小鼓—望月秀幸、笛—藤舎推峰)を賑やかに合奏。やはり四代千賀が富本節「草枕露の玉歌和」(三世鳥羽屋里長作曲)を移曲したもので、山城の国から陸奥の国までの六つの玉川を歌詞に読み込んで道行物に仕立てた作品。〈虫の合方〉〈砧の合方〉〈晒の合方〉などを巧みに織り込んで軽快なテンポで賑やかな曲想となっている。男性陣の助演を受けて紅一点の七重さんの華のある歌と箏の音が冴える。

箏曲人のテキストたる箏組歌と家に伝わる秘曲、そして艶のある江戸浄瑠璃をこれまでの修行を礎に七重さんはその力量を余すところなく発揮し、終演後ホールの出口で挨拶する顔には涙が溢れていた。

プロフィール

山木七重

幼い頃より箏の手ほどきを父六代山木千賀に、三絃の手ほどきを伯母山木賀世より受ける。

平成6年 亀山香能師に師事。
平成8年 東京藝術大学音楽学部邦楽科山田流箏曲専攻入学。
在学中安宅賞受賞。
平成12年 東京藝術大学卒業。藤井千代賀師に師事。
平成14年 第一回リサイタル邦楽の友社主催「古典の景色」スタート、その後2年間に3回リサイタルを開催。
平成15年 平成15年度文化庁新進芸術家国内研修制度研修員(研修中、河東節を山彦百子師 一中節を宇治紫野師 地唄三味線を芦垣美穂師に師事)。
NHK-FM「邦楽のひととき」にて藤井千代賀師と共に出演。CD「山木七重 古典の景色」リリース。
平成16年 第十一回全国箏曲祭賢順コンクールにて銀賞受賞。
平成17年 紀尾井小ホールにて「平成15年度文化庁新進芸術家国内研修制度修了記念山木七重リサイタル」を開催
東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程 山田流箏曲専攻入学。
日本芸術院授賞式にて萩岡松韻師と共に御前演奏。
平成18年 テレビ朝日「題名のない音楽会21二千回放送記念・佐渡裕「〜蝶々夫人の魅力」にて箏ソリストとしてオーケストラと共演。
CSイーピー放送「心と技の日本遺産」第3話『弦の道』に出演。
平成19年 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程山田流箏曲専攻修了。修士論文「四代山木千賀作品について―六代山木千賀所蔵資料を中心として―」
河東節を山彦良波師に師事、山彦七重の名を許される。
平成19年度文化庁芸術祭参加公演「第六回山木七重リサイタル」を紀尾井小ホールにて開催。
平成20年 NHK邦楽オーディション合格。
「第七回山木七重リサイタル」を紀尾井小ホールにて開催。
平成21年 「山木七重ライブvol7.5」をことぶ季亭にて開催。
平成22年 荻江節を荻江里泉師に師事、荻江七重の名を許される。
現在 (株)邦楽の友社専属
池袋西武コミュニティカレッジ講師。
錦糸町読売文化センター講師。
箏曲新潮会会員 山田流箏曲協会会員
(社)日本三曲協会会員。
笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

「偲ぶ草〈しのぶぐさ〉」

山田流箏曲 萩岡松韻の世界V〜三世萩岡松韻の作品を聴く

2010年10月 5日(火)開催
(東京・紀尾井小ホール)

数多くの曲を生み出した三世萩岡松韻。その父の名を受け継いだ四代目萩岡松韻師による「三世萩岡松韻の作品を聴く」会が10月5日東京・紀尾井小ホールで開催されました。演目はすべて父である三世萩岡松韻作曲によるもの。歌の素晴らしさはもちろんのこと、打物や笛が加わり、江戸情緒がたっぷり味わえる会となりました。

文:笹井邦平

父の足跡を振り返る

山田流箏曲の四代目萩岡松韻師が父の三世萩岡松韻師の作曲作品演奏会を開催。三世松韻師は長男の現松韻師が芸大在学中の21歳の時に50歳で早世され、現松韻師はその年齢を既に超えていることにやや戸惑いを覚え、父の作品を通して演奏してその足跡を振り返るという趣旨でこの演奏会を開催した。

追善曲として

「偲ぶ草〈しのぶぐさ〉」
「偲ぶ草〈しのぶぐさ〉」

序曲は追善の意味を籠めて杉田嘉次作詞「偲ぶ草」〈昭和42年〉(唄-萩岡松韻ほか16名、箏-萩岡未貴ほか9名、箏低音-萩岡信乃ほか2名)。歌舞伎座で開催された〈二世萩岡松韻追善演奏会〉で初演された曲で、歌詞には萩岡松韻の名前を織り込み、合の手には二世松韻師作曲の「八橋」の旋律を採り入れ、三世の孫に当たる現松韻師の息女未貴さん・信乃さん姉妹が箏を弾き親子二代による追善となる。

「菊慈童〈きくじどう〉」
「菊慈童〈きくじどう〉」

2曲目は杉田嘉次作詞「菊慈童」〈昭和44年〉(箏-萩岡松韻・渡辺岡華・萩岡信乃、三弦-萩岡未貴、笛-藤舎推峰)。能の「菊慈童」に想を得た作品、不老不死を祝うテーマで中盤の〈楽(がく)の合方〉という山田流独自の厳かな器楽の間奏が能取物の雰囲気を漂わす。
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ウェットと言祝ぎと

「月」
「月」

3曲目は杉田嘉次作詞「月」〈昭和40年〉(箏-萩岡松韻、三弦-稀音家祐介、笛-中川善雄、小鼓-堅田喜三久)。「満月も良いが寝屋から独りで眺める傾く月も情緒がある」とややウェットな感性を歌っている。松韻師の細く美しい甲声(かんごえ・高音)の歌と箏・三弦・笛・小鼓による手事のような華やかな合の手が秋の夜のむせ返るような風情を醸す。

「萩の花妻〈はぎのはなづま〉」
「萩の花妻〈はぎのはなづま〉」

4曲目は杉田嘉次作詞「萩の花妻」〈昭和36年〉(唄-萩岡未貴ほか15名、箏-萩岡松韻ほか10名、三弦-今藤長龍郎・萩岡信乃、十七弦-武藤松圃ほか2名)。タイトルは『万葉集』で大伴旅人が秋の七草の中で萩はことさら鹿が好むことから「萩は鹿の花妻」と詠んだことに由来し、萩岡家の弥栄をテーマとしている。終盤の箏・三弦・十七弦のダイナミックな掛け合いの合の手が言祝ぎ気分を盛り上げる。
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長唄のエキスを採り入れて

「卒塔婆小町〈そとばこまち〉」
「卒塔婆小町〈そとばこまち〉」

5曲目は観世榮夫構成「卒塔婆小町」〈昭和43年〉(唄-萩岡松韻・今藤郁子、箏-山登松和・田中奈央一、三弦-杵屋五三助、尺八-藤原道山)。能の「卒塔婆小町」から抜粋した詞章を再構成した作品。老女となった小野小町と高野山の僧との対話で綴られていて、松韻師の僧と今藤郁子師の小町との問答が面白く、絶世の美女と謳われながら老いさらばえた姿を晒す小町に人の世の光と陰が見え隠れして味わい深い歌が山田流らしい物語的要素の濃い大作となっている。

「やれかかし」
「やれかかし」

トリは杉田嘉次作詞「やれかかし」〈昭和37年〉(唄-萩岡松韻、三弦Ⅰ-杵屋五三助・稀音家祐介、三弦Ⅱ-武藤松圃、三弦Ⅲ-今藤長龍郎、箏-萩岡未貴・萩岡信乃、打物-堅田喜三久ほか、笛-藤舎推峰)。芭蕉の門人・凡兆の「物の音 ひとりで倒れる 案山子かな」という俳句に想を得た作品。三絃・箏・打物・笛が秋の風情を醸し、豊年を祝う村祭りの囃子が心地良く賑やかに締め括る。

後半の4曲は三弦を長唄の三味線方が勤め、笛・小鼓も加わって、江戸音楽の要素を巧みに採り入れた山田流箏曲の中でも特に長唄のエキスをふんだん遣った萩岡派らしい特色を全面に押し出している。

撮影:友正写真館

 

演目

偲ぶ草〈しのぶぐさ〉(杉田嘉次 作詞 三世萩岡松韻 作曲)

唄:萩岡松韻
唄:加藤萩紀、市川萩倭、竹内萩凰、小池萩麗春、岩田萩美音、益田萩邦泉、菊地萩賀代、中尾萩昭里、増田萩治栄、矢代萩也栄、深山萩小和、雨宮萩寿和、木村岡美希、武藤岡紫圃、時田岡悠美圃、佐藤岡惠俏
箏:萩岡未貴、安藤萩久瑪、斉藤萩豊楓、竹山萩史惠、佐野萩有希、吉田萩奏美、鵜飼萩紗英、老沼萩実咲、高松萩芳紀、長谷川萩光紀
箏低音:萩岡信乃、大畑豊梢、加賀豊昌恵

菊慈童〈きくじどう〉(杉田嘉次 作詞 三世萩岡松韻 作曲)

箏:萩岡松韻、渡辺岡華、萩岡信乃 三弦:萩岡未貴 笛:藤舎推峰

月(杉田嘉次 作詞 三世萩岡松韻 作曲)

箏:萩岡松韻 三弦:稀音家祐介 笛:中川善雄 小鼓:堅田喜三久(人間国宝)

萩の花妻〈はぎのはなづま〉(杉田嘉次 作詞 三世萩岡松韻 作曲)

唄:萩岡未貴
唄:渡辺岡華、萩原萩櫻子、住吉萩智巳、最上萩智佳、田中萩多恵、楠 岡美花、鹿野田岡富華、萩野岡幸昭、亀井岡文昭、山口岡洋倭、佐藤岡明華、金井岡正華、高梨岡禮邦泉、嶋田岡峰和喜、廣田岡紗優里
箏:萩岡松韻
箏:上野萩京峰、大池萩珀立、渡辺萩美園、大沼萩波寿、高橋萩寿々、栗山萩延園、野崎萩千尋、永村萩千弦、安達萩麗朱、渡辺萩翠孝
三弦:今藤長龍郎、萩岡信乃
十七弦:武藤松圃、栗山萩由貴、日向豊都

卒塔婆小町〈そとばこまち〉(観世榮夫 構成 三世萩岡松韻 作曲)

唄:萩岡松韻、今藤郁子 箏:山登松和、田中奈央一 三弦:杵屋五三助 尺八:藤原道山

やれかかし(杉田嘉次 作詞 三世萩岡松韻 作曲)

唄:萩岡松韻
三弦Ⅰ:杵屋五三助、稀音家祐介 三弦Ⅱ:武藤松圃 三弦Ⅲ:今藤長龍郎
箏:萩岡未貴、萩岡信乃
打物:堅田喜三久(人間国宝) 望月左武郎、仙波元章、堅田良道
笛:藤舎推峰

関連作品

山田流 絲のひびき/萩岡松韻(1)

VZCG-144(CD)
1998年4月22日 発売 
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山田流 絲のひびき/萩岡松韻(2)

VZCG-145(CD)
1998年5月21日 発売 
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山田流 絲のひびきⅢ

VZCG-231(CD)
2001年5月21日 発売 
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プロフィール

四代目 萩岡松韻
1957年 三世萩岡松韻の長男として生まれる
1962年 初舞台(五才)祖父二世萩岡松韻より手ほどきを受ける
1966年 長唄を十四世杵屋六左衛門下の杵屋六梅代師に入門
1970年 中能島慶子師に入門。中能島欣一師に師事
1980年 四代目 萩岡松韻を継承
伊勢神宮にて奉納演奏をする
1981年 東京芸術大学 音楽学部 邦楽科 卒業
1982年 四代目 萩岡松韻 名披露目演奏会を国立大劇場にて開催
1996年 河東節の人間国宝 山彦節子師に入門
1998年 山彦節子師より十寸見東信の芸名を許される
2002年 第二十三回松尾芸能賞邦楽新人賞を受賞
「第一回萩岡松韻りさいたる」にて文化庁芸術祭優秀賞受賞
2003年 「第二回萩岡松韻りさいたる」(文化庁芸術祭参加)を国立劇場にて開催
2004年 東京芸術大学音楽学部邦楽科助教授(准教授)就任
2005年 第五十五回芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞
「第三回萩岡松韻りさいたる」(文化庁芸術祭参加)を国立劇場にて開催
2008年 東京芸術大学 音楽学部 邦楽科 教授就任
「芸大リサイタル・萩岡松韻の世界」(芸大奏楽堂)開催
「萩岡松韻の世界 in 大阪」(文化庁芸術祭参加)を国立文楽小劇場にて開催
2009年 第二十九回伝統文化ポーラ優秀賞受賞
「第四回萩岡松韻りさいたる」を国立劇場にて開催
現在 山田流箏曲萩岡派宗家 萩岡會会長 東京芸術大学教授 日本三曲協会常任理事
山田流箏曲協会副会長 東京芸術大学同声会理事 正派音楽院講師
現代邦楽作曲家連盟監事 曠の会同人
笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

第十四回 日本伝統文化振興財団賞贈呈式

2010年5月27日(木)開催
(アイビーホール青学会館)

当財団が主催し、今年で第14回を数える日本伝統文化振興財団賞。将来のいっそうの活躍が期待される優秀なアーティストを毎年一名顕彰し、副賞としてDVDを制作。その技芸を国内外に向けて広く紹介しています。今年の受賞者は大和楽 三味線方の大和櫻笙さん。将来性に大きな期待が寄せられての受賞となった贈呈式の模様をお送りいたします。

日本の伝統文化、伝統芸能の将来を担う優秀なアーティストを顕彰

文:じゃぽ音っと編集部

わが国の伝統文化の保存、振興、普及を目的する日本伝統文化振興財団が、将来を担う優秀なアーティストを顕彰している財団賞。第14回の受賞者は大和楽の三味線方、大和櫻笙さん。古典を基盤とするすぐれた演奏成果、新たな創作への取り組みに大きな期待が寄せられての受賞。さらに副賞としてDVDの制作と発表が予定されている。

藤本草理事長の挨拶
藤本草理事長の挨拶

「日本の伝統芸能、伝統文化の世界を少しでもより広げていきたい。これからの自国の文化をどう育てるか、ということへの思いを深くしていただければ」と語る藤本草理事長の挨拶で会は幕開きとなる。各界から松村惠司氏(文化庁文化財鑑査官)、花柳寿南海氏(日本舞踊、人間国宝)、浮島とも子氏(参議院議員)、城内実氏(衆議院議員)の祝辞、また小宮山泰子氏(衆議院議員)からのメッセージも添えられた。

三枝孝榮氏による選考経緯紹介
三枝孝榮氏による選考経緯紹介

これまでに14回を重ね、さまざまな伝統芸能分野から多士済々の顔ぶれとなってきた財団賞受賞者。今回の受賞者、大和櫻笙さんは大和楽、三味線方のアーティスト。「大和楽」はホテルオークラなどの創始者で実業家、大倉喜八郎氏の嫡子で音楽研究家として知られた大倉喜七郎氏が昭和初期に創始。洋楽風の要素を取り入れた、芸能史においては“新邦楽”という位置づけだが、現代の日本舞踊界において欠かせない音楽である。選考委員を代表して三枝孝榮氏が選考経緯を紹介する。大和櫻笙さんについて「非常に繊細な音、間のうまさはもちろんのこと、藤間勘十郎さんと会を作っておやりになっていること、また作曲を数多く手がけられていること、大和楽の担い手として三代目の家元を襲名する予定であること」と語り、「さまざまなジャンルの方のなかから、長時間を費やし、とくに将来性を大きく考え選考させていただきました」と力説する。

「私がこの賞で何よりもうれしかったことは、昭和の初めからというまだ歴史の短い大和楽が、古典邦楽と同様に評価をしていただけたということ。これからも多くの方々に愛される大和楽を目指していきたいと思います」と受賞の言葉を語った大和櫻笙さん。昨年の受賞者、遠藤千晶さん(生田流箏曲)より花束の贈呈。その後、披露演奏が始まった。

曲は自身の作曲による「櫻舟(さくらぶね)」。昨年作曲したという初めての器楽曲で、忍ぶ恋仲の一夜をテーマにした作品。大和櫻笙さんが男性を描写する低音三味線、笘舟(とまぶね)こと藤間勘十郎さんが女性を描写する高音三味線。この二つの楽器を中心に、鼓、笛、箏を配した総勢5名での演奏。

力強く豊かな響きの低音三味線と寄り添うような高音三味線。鼓、箏のそれぞれの音の特質を生かした優雅で和やかな前奏部のあと、笛が加わり、勇壮でダイナミックなアンサンブルへ舞い上がる。その後ふたたび静まり返る夜の空気と男女の切ない余韻を思わせ、演奏はしっとりと終わる。旋律や楽器こそ日本の古典音楽に根ざしているが、楽器の特性を生かした自由なアンサンブルやドラマティックな構成に明快さがあり、日本舞踊とともに海外でも大いにアピールできる可能性を秘めている。

披露演奏 大和楽「櫻舟(さくらぶね)」
三味線 大和櫻笙、笘舟(藤間勘十郎)
鼓 藤舎千穂
笛 藤舎推峰
箏 川瀬露秋

無形文化遺産である自国の伝統文化を守るだけではなく、あらたな創造によって将来へ継承していくことが確かに示された演奏に、海外公館約20カ国からの大使、公使を含む多くの出席者からひときわ大きな拍手が贈られた。

プロフィール

大和櫻笙

やまと おうしょう

1977年東京都生まれ。父は大和楽二代目家元・大和久満(長唄三味線方、芳村伊十七)。初舞台は2歳。10歳より今藤郁子に師事。16歳より故・東音田島佳子に師事。92年、大和楽を創設した大倉家より「大和櫻笙」の名を許される。96年、東京藝術大学音楽学部邦楽科に長唄三味線で入学。在学中に浄観賞を受賞。2000年同大学を卒業後、本格的に大和楽三味線の修業を始める。05年、岩井梅我、清元清美太夫と「若翔會」を結成。同年日本橋劇場にて公演。 08年、藤間流八世宗家家元・藤間勘十郎と「櫻舟」を結成。翌年内幸町ホールにて公演。10年2月、第二回「櫻舟」を同ホールにて開催。同年、大和櫻笙「大和楽勉強会」を主催。内幸町ホールにて公演。2014年に大和楽三代目家元を襲名予定。現在は主に日本舞踊の地方として国立劇場、歌舞伎座などに出演するほか、テレビ、ラジオ、映画音楽にも出演。主な作曲作品は『初恋』(詞・島崎藤村)、『御殿の櫻』(詞・金子みすゞ)、『日高櫻恋俤』(詞・苫舟)、『おちょぼ』(詞・苫舟)、『櫻舟』(器楽曲)など

「桜ファンタジーII」 左より長瀬淑子(箏) 亀山香能(十七弦) 中彩香能(三弦) 川村葵山(尺八)。終演後、「桜」を全員で歌う。

Sound of 和楽 series3

2010年4月16日(金)開催
(東京表参道・コンサートサロン「パウゼ」)

“音楽を和やかに気軽に楽しむ”という趣旨で開かれている全6回シリーズのコンサート、Sound of 和楽。第3回は春にちなみ、日本が生んだ稀代の天才音楽家、宮城道雄作の「春の海」をはじめとする親しみやすいプログラム。優れた演奏が聴けるのはもちろん、丁寧でやさしい解説も交えた、上質なひとときの模様をお送りいたします。

日本音楽の世界を知り、気軽に楽しむことができるコンサート

文:じゃぽ音っと編集部

東京、表参道に面するコンサートサロン「パウゼ」。街路樹やブティックが道沿いに立ち並ぶ、おしゃれな街にふさわしいこのサロンで、箏曲家、亀山香能師が主催するSound of 和楽が開催された。シリーズ3回目のテーマは“春”。季節の移ろいとともに暮らす日本人にとって、とりわけ春への思いは強い。日本の伝統芸能や音楽にもその思いは今に伝えられている。

気軽に上質な音楽に親しみ、和やかに楽しむことができるこのシリーズ。今回、武蔵野音楽大学教授・薦田治子氏の丁寧な解説や演者との和やかな会話とともに、古今の日本音楽の、目配りが効いた演目の数々を堪能することができた。

演目のイントロダクションとなった「春の海」は一聴するだけでお正月や和の雰囲気を連想させる。天才音楽家、宮城道雄が鞆の浦(註)をイメージし、主旋律と伴奏という西洋音楽の手法を取り入れ、昭和4年に尺八と箏の二重奏で発表した名作。その後ヴァイオリンのルネ・シュメーを主旋律のパートに迎えたヴァージョンで世に広まった。

「臼の声」左より鈴木真為、中彩香能(箏)、樋口千清代(三弦)、川村葵山(尺八)
「臼の声」左より鈴木真為、中彩香能(箏)、樋口千清代(三弦)、川村葵山(尺八)

まずヴァイオリンと箏の二重奏。優美なヴァイオリンの音色ときらびやかな箏の音色が相対しながら調和していくアンサンブルは、西洋音楽になじみ深くなった昨今の日本人の耳にも自然としみこんでゆく。そのあと、尺八でのヴァージョンの最初の部分が演奏され、期せずしてそれぞれの楽器の持ち味が楽しめた。

西洋音楽に対し、日本古来の伝統のアンサンブルは箏曲の古典「臼の声」で聴く。当財団の邦楽技能者オーディションに合格、CDを発表したばかりの山田流箏曲の演奏家、鈴木真為を含む若手4人での合奏。西洋の主旋律、伴奏を分けるのとは異なり、それぞれの音と声が対等にあり、それぞれの色彩を出しあいながら、ひとつの合奏の形を作り上げていく。季節の移ろいをテーマにした弾き歌いの歌詞だが、「うす」の言葉をちりばめ、情景描写に加え、恋愛感情も織り交ぜた粋なもの。

休憩をはさんだのち、中能島欣一の「清流」。箏という楽器の特性を知り尽くした中能島が、箏独奏でありながら両手で弦を爪弾く重奏のような形で、水の雫や川の流れを掬い上げた傑作。こちらは亀山香能師の箏独奏。水のさまざまな様態の、巧みで精緻な描写にうっとりと聴き入った。

最後に、春といえばやはり「桜」。「桜ファンタジーII」では、四つの楽器――三弦、尺八と箏、十七弦のアンサンブルにより、主旋律と伴奏、高音から低音までをカヴァーし、ダイナミックな響きが表出する。おなじみの情趣あるメロディに、変奏部分が加わって、会場は和の響きで爛漫となる。いったん終演後、ステージに出演者全員が集い、その伴奏にあわせ聴衆ととも「桜」を合唱するという心温まる趣向。

春を感じながら、さまざまなアンサンブルの形が披露された今回のコンサート。この“Sound of 和楽”は、邦楽に馴染みがないと感じている方でも、繊細で奥行きのある日本音楽の世界を知り、気軽に楽しむことができる貴重なシリーズだと言えるだろう。


鞆の浦(とものうら)
広島県福山市。最近では架橋計画をめぐり、さまざまな論議を呼んでいる。

関連作品

亀山香能/時を紡いで

VZCG-562(CD)
2005年7月21日 発売 
assocbutt_or_buy._V371070157_


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時を紡いでⅡ/亀山香能

VZCG-614(CD)
2006年12月20日 発売 
assocbutt_or_buy._V371070157_


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プログラム

宮城道雄作曲「春の海」

箏 長瀬淑子 Vl 千原泰子

藤尾勾当原曲・三世山登松齢移曲作曲「臼の声」

箏 鈴木真為 中彩香能
三弦 樋口千清代 尺八 川村葵山

中能島欣一作曲「清流」

箏 亀山香能

玉木宏樹作・編曲「桜ファンタジーII」

箏 長瀬淑子 十七弦 亀山香能
三弦 中彩香能 尺八 川村葵山

雲井曲

山勢松韻演奏会

2010年3月28日(日)開催
(東京・国立劇場 小劇場)

山田流箏曲の人間国宝、六代山勢松韻師の演奏会が、2010年3月28日国立劇場にて開催されました。花の季節の到来を告げるかのような盛況ぶりで、磨き抜かれた松韻師の技芸に多数の聴衆が酔いしれました。多彩な演目、豪華な助演者が揃った演奏会の模様をお届けします。

幅広さと奥行きの深さに、芸系の重さをも感じられた有意義な一日

文:じゃぽ音っと編集部

 桜の花がほころび始めた3月下旬。山田流箏曲演奏家、山勢松韻師の演奏会が国立劇場(小劇場)で開催された。まだいくぶん肌寒い日にもかかわらず、松韻師の久しぶりとなる会には、春を待ちわびていたかのように大勢の聴衆が詰め掛けた。

雲井曲
雲井曲

 江戸時代初期(17世紀)に八橋検校が創始した箏曲。その組歌や段物を伝承した生田検校が生田流と称して京都や大阪、名古屋を中心に発展。さらに18世紀後半の江戸で山田検校が浄瑠璃などの語りものを取り入れた新たな箏曲分野を開拓した。この山田検校の直門にあたる山登家、山木家、山勢家を中心に発展した山田流は、明治、大正、昭和を経て今に至っている。この御三家のひとつ山勢家の六代目が現在の山勢松韻師なのである。

 山勢師の演奏による八橋検校の箏組歌「雲井曲」から会はスタート。第五歌から、「巾の調」に山勢麻衣子氏が加わり、青を基調とした幻想的な照明とあいまって、繊細な恋の心模様を紡ぐ古雅の趣に酔いしれる。

 第二曲は「熊野(ゆや)」。京都の春、平宗盛の花見の宴で舞う熊野。東国に住む母の病への思いを歌にした熊野に心を打たれ、熊野の帰国を許す宗盛――能の演目として知られるこの曲は、花見の宴などの場面の描写と無常観を漂わせる幽遠な風情が聴きどころ。岸辺美千賀師と一中節の都了中師の助演により、浄瑠璃の語りもの的な要素が強調され、山田流ならではの味わいがいっそう増した舞台となった。

 第三曲は、生田流箏曲演奏家野坂操壽師と琴古流尺八演奏家徳丸十盟師を迎えた三曲合奏「宇治巡り」。松浦検校作曲による“松浦四つ物”のひとつで、高度な技巧が必要な難曲として知られる。名高い宇治茶の銘を重ねていく、「物尽くし」と呼ばれる歌詞で、粋で洒脱な味わい。三つの楽器が奏でる、細やかで華やかな演奏に心躍る。

 ラストを締めくくったのは、山勢松韻師も師事した中能島欣一の作曲、高野辰之作詞による「八幡船(ばはんせん)」。かつて朝鮮や中国、南海地域で猛威をふるった“倭寇船”を日本では八幡船といい、中世歌謡や発表当時(戦前の昭和時代)の歌謡を引用する工夫が凝らされた、スケールの大きい作風。唄の松韻師を座の中心に据え、唄5名、箏6面、十七弦、三弦、尺八の総勢15名からなり、緻密で迫力のあるアンサンブルが楽しめた。さまざまな条件から実際に聴ける機会がきわめて少ない、こうした作品にスポットが当てられたことは特筆に値することだろう。

 幻想的な深青の照明に包まれた光景で終演。聴衆からの大きな拍手が広い会場に鳴り響いていた。

 伝統の重みを感じるオープニング、春の季節を感じる演目、心躍る華やかな逸品、さらに演奏機会の少ない楽曲……。練りに練られた聴き応えのある演目がそろい、箏曲が持つ音楽的な幅広さと歴史に裏打ちされた奥行きの深さをあらためて感じた、じつに有意義な会となった。

プログラム

雲井曲

箏:山勢松韻 巾の調:山勢麻衣子

熊野

箏:山勢松韻、岸辺美千賀 三絃:都了中

宇治巡り

箏:野坂操壽 三絃:山勢松韻 尺八:徳丸十盟

八幡船(ばはんせん)

唄:山勢松韻 箏高音:中能島弘子
唄:武田祥勢、加藤貞勢、渡邊好勢、三橋乙勢、金子未衣勢
箏高音:奥山益勢、利根川倫勢、城ヶ﨑明雪勢
箏中音:山勢麻衣子、仲山純勢 十七絃:高畠一郎 三絃:東音宮田由多加 尺八:徳丸十盟

関連作品

山田流箏曲 六代 山勢松韻集(5枚組)

VZCG-8286〜8290(CD)
2004年3月28日 発売 
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