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第十六回日本伝統文化振興財団賞/第一回中島勝祐創作賞 受賞記念演奏会

2012年6月 5日(火)開催
(東京・紀尾井ホール)

伝統芸能の未来を担う実演家を毎年1名顕彰する日本伝統文化振興財団賞は、今年で第16回目を迎えました。本年度より創設された中島勝祐(かつすけ)創作賞が加わり、二つの贈呈式と受賞記念演奏会が6月5日東京・紀尾井ホールで開催されました。贈呈式に引き続き行なわれた第一部「受賞披露演奏」と第二部「若き継承者たち」の模様をじゃぽ音っと編集部がお送りいたします。

伝統を未来へ向け継承、発展させたいという思いが一体に

文:じゃぽ音っと編集部

 贈呈式のあと休憩をはさみ、第一部「受賞披露演奏」が始まります。清元「六玉川(むたまがわ)」は、三味線に日本伝統文化振興財団賞受賞者の清元栄吉さん。三味線の名匠、四世清元梅吉師による手付の箏演奏を、第二回の財団賞を受賞され技芸の定評の高い米川敏子さんが担当。笛に福原徹彦さん、小鼓に第十回財団賞受賞者の藤舎呂英さんが助演に加わります。歌舞伎の舞台音楽としての清元とは別に、おもに演奏会で披露されるという「六玉川」は、古歌に詠まれた六つの玉川を旅するという趣向の曲。箏曲など他の種目で同名曲を耳にすることがありますが、ここでは清元の繁栄を祝う言葉で締めくくられています。浄瑠璃の豊かな語りを楽しむと同時に、清元三味線方としての栄吉さんの確かな技量がうかがえ、めでたい雰囲気に酔いしれます。

 続いて清元栄吉さんの作曲家としての一面に焦点を当て披露演奏された「触草~クサニフレレバ」は「創邦21 第四回作品演奏会」にて平成15年5月初演。篳篥、笛、箏、十七弦、三味線二挺という編成による、プロローグ~雨後~呪術~インターリュード~ダンス~彼岸~エピローグの七つの部分からなる組曲で、おだやかな自然の風景からその彼方にある幻想的な情景が広がってゆくかのような、ドラマティックな音の世界に誘われ、観衆からは終演後、盛んな拍手が送られました。

 第一回中島勝祐創作賞を受賞した清元紫葉さん作曲の清元新作〈「山姥(やまんば)」―夕月浮世語(ゆうづきうきよがたり)〉は、全体から一部割愛したショート・ヴァージョンによる演奏となりました。清元紫葉さんを含む三味線二挺、紫葉さんの夫君、清元梅寿太夫さんをはじめとする浄瑠璃語りの三名に笛、小鼓、大鼓、太鼓からなる囃子の総勢九名。能の有名な演目「山姥(やまんば)」をモチーフに、紫葉さんが受賞時にお話されていた「従来の山姥とは違う、孤独な山姥像」を、ゆったりとした序破急(じょはきゅう)の展開で、語りをしっとりと引き立てていきます。古典を基礎にした新たな創作曲を、という中島勝祐創作賞にふさわしい曲と演奏。また普段こうした邦楽の新作や創作曲をホールで耳にする機会が少ないこともあったのでしょうか、祝福とあいまって終演時には会場から拍手がひときわ大きく響いていました。

 10分間の休憩をはさみ、第二部は「若き継承者たち」と題したステージ。出演は、まず民謡界から日本郷土民謡協会所属、若手三人組のユニット、郷みん’S(きょうみんず)。続いて、津軽三味線ユニット吉田兄弟の兄・良一郎さんの学校公演プロジェクトとして発足し、WA=和、SABI=サビ(盛り上がり)という意味から命名されたWASABI(わさび)。

 郷みん’Sは唄、津軽三味線に踊りの三名からなる民謡ユニット。吟詠・浪曲入りの「黒田武士」では槍舞を交え重厚に、「津軽あいや節」を勇壮な津軽三味線の曲弾きから、唄がゆったりと沁みいる古調へつなぎ、最後に華やかな踊りを加えた「津軽よされ節」で若さいっぱいのステージを締めくくりました。

 WASABIは、邦楽界の枠を超えたメンバー編成。津軽三味線の吉田良一郎さんが曲全体の雰囲気を緩急自在に形づくり、尺八が枯淡の音色でメロディを歌うように吹き、太鼓が囁きから轟きまでの音を演出、箏と十七弦が高音から低音までの広い音域を支えるといった趣で、和楽器ならではの多彩な表現を次々に繰り出していきます。こうした自作曲に続けて、おなじみの唱歌「ふるさと」をWASABI流に、日本最古の民謡「こきりこ節」をアップテンポにアレンジした「KOKIRIKO」では観客の手拍子を招き入れ、祝いの舞台を大いに盛り上げました。

 第一部の「受賞披露演奏」は伝統芸能はもとより、古典を基礎とした創作曲の貴重な演奏を楽しみ、第二部の「若き継承者たち」では、進境著しい若手注目グループの演奏が体験できました。伝統を未来へ向けて継承、発展させたいという受賞者、出演者、観客の思いが一体となった受賞記念演奏会となりました。

撮影:後藤真樹、じゃぽ音っと編集部(印)(はリハーサル時に撮影)

プログラム

《第一部》受賞披露演奏

日本伝統文化振興財団賞受賞者 清元栄吉

清元「六玉川」(箏手付 四世清元梅吉/作調 福原徹彦・藤舎呂英)

浄瑠璃:清元志寿子太夫・清元一太夫
三味線:清元栄吉
箏:  米川敏子(第2回財団賞受賞)
笛:  福原徹彦
小鼓: 藤舎呂英(第10回財団賞受賞)

「触草~クサニフレレバ」(作曲 清元栄吉)

篳篥: 中村仁美
笛:  藤舎推峰
三味線:清元栄吉 松永忠一郎
箏:  中川敏裕
十七弦:西 陽子

中島勝祐創作賞受賞者 清元紫葉

清元新作「山姥」―夕月浮世語―(作曲 清元紫葉 作詞 長田午狂 作調 望月喜美)

浄瑠璃:清元梅寿太夫・清元喜美太夫・清元成美太夫
三味線:清元紫葉・清元公寿郎
笛:  福原徹彦
小鼓: 藤舎呂英
大鼓: 望月喜美
太鼓: 藤舎円秀

《第二部》若き継承者たち

郷みん’S(きょうみんず)

おもだか秋子〈唄〉
椿 正範〈津軽三味線〉
松浦奏貴〈踊り〉

「南部俵積み唄」
「淡海節~小諸馬子唄入り~」
「田原坂」
「黒田武士(吟詠・浪曲入り)」
「津軽あいや節(曲弾き)~古調あいや節」
「津軽よされ節」

WASABI(わさび)

吉田良一郎〈津軽三味線〉
元永 拓〈尺八〉
市川 慎〈箏・十七弦〉
美鵬直三朗〈太鼓・鳴り物〉

「東雲」
「烈光」
「航海」
「ふるさと」
「KOKIRIKO」

第十六回日本伝統文化振興財団賞贈呈式/第一回中島勝祐創作賞 贈呈式

2012年6月 5日(火)開催
(東京・紀尾井ホール)

伝統芸能の未来を担う実演家を毎年1名顕彰する日本伝統文化振興財団賞 は、今年で第16回目を迎えました。第16回日本伝統文化振興財団賞は、清元栄吉氏《清元節 三味線方》が受賞されました。また本年度より新たに中島勝祐(かつすけ)創作賞 が創設され、第一回目の受賞作品は清元紫葉(きよもと・しよう)氏作曲の『清元新作「山姥」―夕月浮世語―』(「やまんば」―ゆうづきうきよがたり―)に決定しました。この二つの賞の贈呈式の模様をじゃぽ音っと編集部がレポートいたします。

今年からは中島勝祐創作賞が併設、清元節の両名が受賞

文:じゃぽ音っと編集部

今年の第十六回日本伝統文化振興財団賞は、昨年の東日本大震災チャリティ公演「伝統芸能の夕べ」として開催した第十五回につづき、東京・紀尾井ホールでの開催となりました。「かけがえのない伝統文化を未来に遺すために、このひたすらな思いが大きく広がり、常に自然と共にある我々すべての生きる力となりますことを心から祈念してご挨拶といたします」と藤本草理事長。続いて文化庁文化財部文化財鑑査官の大和智氏、衆議院議員小宮山泰子氏、衆議院議員斉藤鉄夫氏といった、文化行政に縁の深い来賓の祝辞が寄せられました。

財団賞選考経緯紹介では列席した選考委員を代表し、山川直治氏が「清元栄吉さんの〈触草~クサニフレレバ〉には芸大作曲科時代からの模索もあったのでしょう、汎アジア的な楽想で各楽器をよくとらえて表現していると思います。今後も活躍の場を広げられ、演奏・作曲の両面で表現を深められていくことを期待しています」とお話されました。

贈呈式で受賞された清元栄吉さんは「大学の作曲科を卒業したときにはこの世の中をどうやって生きていくか、邦楽界のことをまったく知らない私を清元榮三郎師匠が本当に親のように育ててくださいました。また流儀の末席に加えてくださり、ずっと育んでくださったお家元の清元延寿太夫様、また今藤政太郎様をはじめ『創邦21』のお仲間があって、ずっと創作活動を続けることができたと思います。数えきれない師匠先生方にお世話になり、おかげで今がございまして、これからいっそう努めたい」とお話され、会場に拍手が鳴り響きました。

次に本年度より創設された中島勝祐創作賞の贈呈式。

審査委員を代表した久保田敏子氏は「つねづね中島先生がおっしゃっていたのは、古典も大事だけれど創作もとても大事なんだよ、若い人たちの創作意欲をどうしたら掻き立てられるかとおっしゃって、僭越ながらなんとか援助したいんだと相談を持ちかけられました」と賞創設についてのお話をされ、「審査員には作曲者作詞者はもちろん演奏者の名前さえも伏せ、音だけを真剣に聴き、感想を持ち寄り、最終的に採点で一番上位を得られたのが清元紫葉さんでいらっしゃいました。どこがよかったかと申しますと、中島勝祐さんがお元気だったらきっとこんなふうな感じの曲をおすすめになるだろうという、そういう雰囲気を十二分にもった曲でとても落ち着いたいい演奏であり、素晴らしい曲でありました」と選考理由を披露していただきました。

受賞された清元紫葉さんは「『山姥』は平成13年に若柳妙之助先生のご依頼で作らせていただいた曲です。お能に造詣の深い長田午狂先生の作詞で、従来の山姥と違って孤独な山姥像でして、曲調は古典にのっとったものですけれど、お囃子をはじめ、助演の方々の演奏が素晴らしく、今回もみなさまのお力を借りて、山姥の世界観を描く演奏ができたらとベストを尽くしたい」と語り、「中島先生とは舞踊界でご一緒させていただき、ジャンルは違いますがよくお声をかけてくださり、私の作曲したものを聴いてくださった折には感想やアドバイスをくださり、それが身に沁みる思いでした。今回もきっと中島先生が天国から『もっとがんばりなさいよ』とエールを送ってくださった気がしています。今回財団賞の清元栄吉さんは高輪派で、私は清元派と二派ございまして、一昨年両家元の88年ぶりの演奏会をきっかけに、新体制の清元協会の第一回演奏会が今年8月に決まっておりまして、さらに清元節の創設200年、そういった折に栄吉さんと二人で受賞できたこと、本当にうれしく思っています」と締めくくって、観客からの大きな拍手となりました。

撮影:後藤真樹、じゃぽ音っと編集部(印)

おもだか秋子 民謡(うた)の道 出版記念リサイタル

2012年1月 7日(土)開催
(富士見市民文化会館・キラリ☆ふじみ メインホール)

姓の表記を漢字の「澤瀉」から「おもだか」とあらためて心機一転、2011年11月ソロ・アルバム第3弾『民謡(うた)の道』(CDカセット)を発表したおもだか秋子さん(「民謡」と書いて「うた」と読みます)。17歳でプロデビューし今年10周年を迎えたおもだかさんのアルバム出版記念リサイタルが、全国から豪華なゲストを迎え、盛大に行なわれました。新春にふさわしい華やかなリサイタルの模様をじゃぽ音っと編集部がお伝えします。

集大成であり、今後の飛躍を予感させるリサイタル

文:じゃぽ音っと編集部

くっきりとした日本晴れになった新春の2012年1月7日。埼玉県にある富士見市民文化会館・キラリ☆ふじみメインホールには1時間前から開場を待つ観客の長い列が続き、おもだか秋子さんのリサイタルが早く始まらないかという熱気に溢れていた。今回のリサイタルは二部構成。豪華なゲスト出演者にも期待が膨らむ。

開始を告げる司会の声に、尺八の音色が会場にしみわたるように広がり、最新アルバム『民謡(うた)の道』収録曲「泣き坂追分」が始まる。信州信濃国にある追分のせつない情景を細やかにしっとりと、つづく「秋田小原節」の芯が強くのびやかな声に圧倒される。「ふるさとの唄〜現地直送〜」のコーナーでは、隠岐の島 五箇民謡振興会のみなさん、秋田で修行された浅野意玖子さん、茨城から谷本恵美子さん、猛吹雪の山形から髙橋兼一さん、仙台からは歌手活動50周年の荒昇吾さんが登場。このおもだかさんに縁の深い出演者により、各地のふるさとの便りを聞いてホッとするような、温かい雰囲気のステージが繰り広げられた。新世代の民謡ユニット・郷みん’S(きょうみんず)は、おもだか秋子さんの唄・太鼓に津軽三味線の椿正範さん、踊りに松浦奏貴さん。さらに今回は尺八の名手・米谷和修さんが加わり、「黒田武士」でスタート。郷みん’Sのメンバー各自の実力は若手とはいえすでに切れ味鋭い一級品で、なおかつ結成から4年を経た三人の息はぴったり。その相乗効果で賑やかな「牛深ハイヤ節」は絶好調、つづく津軽民謡の三曲で元気溌剌に締めくくった。

第一部 縁

第二部冒頭の「三弦〜音遊び〜」は、おもだかさんの多彩な才能のひとつである三弦にスポットを当てる。南国沖縄の三線(さんしん)、江戸のお座敷唄で細棹三味線、北国の勇壮な津軽三味線と三種類の三弦を自在に操り、唄と三味線で日本を南から北へと旅していくかのよう。つづいて唄・津軽三味線の澤田勝秋さん、唄・太鼓の木津茂理さんによる民謡ユニット、つるとかめが登場(当財団からCD発売中)。澤田勝女の名を持つおもだかさんの師匠として「このままずっとのびていって」という澤田勝秋さんの心温まるメッセージを交え、華やかな太鼓と津軽三味線、二人の唄がこだまし、会場は大いに沸く。おもだかさんの母、多田隆章次さんの優しくたおやかな唄に、おもだかさんがしとやかに踊を、弟の澤瀉誠さんが尺八で加わった「宇和島さんさ」が披露される一幕があり、おもだかさん第一の師匠、郷土民謡隆章派宗家の柴田隆章さんの奥行きと深みのある歌唱を含むステージにすっかり見入り聴き入り、終演後は割れんばかりの拍手。リサイタルのしめくくりにおもだか秋子さん『民謡(うた)の道』より「喜代節」と「宮城長持唄」。さらにつるとかめの二人と郷みん’Sの三人、この二つの強力ユニットによる大迫力の「津軽三下り」共演というサプライズまで飛び出し、会場は沸きに沸いた。

〈第二部 匠〉につづきます。

第1回 中彩香能 箏・三絃リサイタル

2011年10月 3日(月)開催
東京銀座・王子ホール

新進演奏家の中彩香能(なか あやかの)さん初のリサイタルが10月3日銀座・王子ホールで開催されました。 古典から出発し、今では古典曲も現代曲も大好きだと語る中彩香能さん。賛助出演に亀山香能師(箏)、藤原道山師(尺八)、水野佐知香師(ヴァイオリン)を迎え、幅広い演目と圧倒的な演奏で聴衆を沸かせた公演をお伝えします。

文:笹井邦平

古典曲と現代曲 両刃の剣

山田流箏曲・現代三味線の中彩香能さんが初リサイタルを開催。中さんは十歳より山田流箏曲を母・亀山香能師に師事し、東京藝術大学卒業後現代三味線を学ぶため洗足学園音楽大学大学院修士課程に入学して西潟昭子師に師事して現代邦楽を学んだ。

その後第5回東京邦楽コンクールで第1位となり、2010年には神奈川フィルハーモニー管弦楽団とソリストとして協奏曲を共演するなど、古典曲・現代曲を中心に演奏活動を続ける新進気鋭の演奏家である。

研鑽の跡が見える古典曲

「四季によせて」

プログラムはまず中能島慶子作曲「四季によせて」(箏-中彩香能)。春夏秋冬を詠み込んだ和歌を歌詞とした箏の弾き歌いで、歌・手事ともに勢いがあり歌詞が明瞭で音切れも良く、響きの良いホールに綺麗に流れる。

「新ざらし」
「新ざらし」

2曲目は北沢勾当作詞・深草検校作曲・中能島欣一編曲「新ざらし」(箏-亀山香能、三絃-中彩香能)。〈さらし〉とは布を水に晒して日光に当て漂白する作業、布を洗う音や水の音が〈さらし〉という音形となって随所に現れる。中能島師の編曲はその華麗なカデンツァが特色で、中能島師から直接指導を受けた母・亀山師のリードで呼吸(いき)の合った箏・三絃の掛け合いの火花を散らす。

ここまでが古典曲で中さんが古典に真摯に取り組んだ的確な研鑽の跡がうかがわれる。

ダイナミックな現代曲

「明鏡」
「明鏡」

3曲目は杵屋正邦作曲「明鏡」(三絃-中彩香能、尺八-藤原道山)。中さんが西潟昭子師に最初に教わった三味線の現代曲、正邦師の愛弟子である西潟師から習得した演奏は中さん・藤原師ともに音色がクリアで切れがあり、まさに現代邦楽のお手本のような明解な演奏に客席が静まり返る。

奔手(ほんじゅ)
奔手(ほんじゅ)

4曲目は三木稔作曲「奔手(ほんじゅ)」(三絃-中彩香能)。〈奔放な撥さばき〉という意味合いのタイトルで、作曲者の言によれば山口県の秋芳洞を訪れた時豪雨の後の奔放な水流に感銘を受けて書き上げた-という。メロディラインが急速と緩やかさを繰り返すダイナミックかつ奔放な曲想を中さんは巧みな撥捌きでバリバリ弾きまくる。

「TANGO-AKIKO」
「TANGO-AKIKO」

終曲は玉木宏樹作曲「TANGO-AKIKO」(三絃-中彩香能、ヴァイオリン-水野佐知香)。作曲家でヴァイオリニストの玉木宏樹氏が西潟昭子師の委嘱で書いた作品、三味線とヴァイオリンとの絶妙なアンサンブルが聴き処、中さんが洗足学園音楽大学の大学院コンサートで演奏した時に助演をお願いした同大学教授の水野佐知香師との共演が初リサイタルの掉尾を飾る。

タンゴといっても古典的なタンゴではなく、アルゼンチンタンゴの作曲家・バンドネオン奏者でタンゴを元にクラシック・ジャズの要素を融合させ独自の演奏形態を産み出したアストル・ピアソラ風のノリの良いタンゴ。表情豊かにダイナミックに奏でる水野師との緻密で豪快なアンサンブルが客席を唸らせる。

一ヶ月の空白が活躍の基盤

二十代半ばで初リサイタルができる中さんは恵まれた環境にいる訳だが、自分の意志で稽古を始めたものの中学の反抗期には稽古を中断して箏・三味線に全く触らない期間があった。しかし、亀山師は娘の意思を尊重し無理強いすることはなかった。そのうちに中さんは心に隙間の空いたような物足りなさを感じ一ヶ月して稽古を再び始めた。この一ヶ月の空白が彼女を音楽にいっそう引き寄せ今日の活躍の基盤となったのだろうと私は想う。

撮影:鳥居誠

中彩香能(なか・あやかの)

東京都出身。本名:中香里。幼少より山田流箏曲を母・亀山香能に、ピアノを鈴木ゆみ氏に師事、現在にいたる。現代三味線を西潟昭子師に、河東節三味線を人間国宝・山彦千子師に師事、現在にいたる。2005年5月菊原光治師より三味線組歌の巻を伝授。長唄三味線を杵家弥七佑美師に師事。東京藝術大学邦楽科箏曲山田流専攻卒業。在学中、萩岡松韻師、井口法能師、鈴木厚一師らに師事、宮城賞受賞。洗足学園音楽大学大学院修士課程器楽専攻和楽器三味線コース修了。同大学院にて前田音楽奨励賞受賞、前田記念奨学金奨学生に選ばれる。2009年2月、ニューヨーク・ボストンにて演奏。2010年2月、各部門の首席奏者による「大学院グランプリ特別演奏会」に出演。2009年10月、大学院コンサートシリーズ「コンチェルトの夕べ」において原田幸一郎指揮・洗足学園ニューフィルハーモニック管弦楽団と、2010年3月、金聖響指揮・神奈川フィルハーモニー管弦楽団と、ソリストとして協奏曲を共演。洗足学園音楽大学大学院修了式にて、総代を務める。

2008年第5回東京邦楽コンクール第1位(日本伝統文化振興財団賞)
2010年第16回くまもと全国邦楽コンクール奨励賞受賞
2010年NHK邦楽技能者オーディション合格

桐香会・奏心会・新潮会・中能島会などに所属。洗足学園音楽大学講師。はいから和楽器教室大井町・高円寺両校講師。現在、古典を中心とした演奏活動を展開すると同時に、和楽器と洋楽器のコラボレーションを積極的に行っている。

亀山香能(かめやま・こうの)

山田流箏曲を人間国宝・中能島欣一師に師事。東京藝術大学卒業、大学院修了。同大学非常勤講師を勤める。2011年までに16回のリサイタル開催。第13回リサイタルにて文化庁芸術祭優秀賞受賞。CD「時を紡いで」(1〜3集) 現在、国内外の演奏及びTV、ラジオなどに出演。また、ライブ活動、レクチャーコンサートなどにも力を注ぐ。現代邦楽研究所講師。白百合学園中学・高校、日大豊山女子中学・高校箏曲講師。

藤原道山(ふじわら・どうざん)

人間国宝・山本邦山に師事。東京藝術大学卒業、大学院修了。安宅賞、江戸川区文化功績賞、松尾芸能賞新人賞を受賞。CD15枚及DVDをリリース。古典と共にピアノ、チェロとのユニット「KOBUDO-古武道」結成など多方面にわたって活動中。現在、都山流尺八楽会大師範。邦山会、日本三曲協会、江戸川邦楽邦舞の会会員。山本邦山尺八合奏団団員。胡弓の会「韻」、「曠の会」同人。ホリプロ所属。東京藝術大学非常勤講師。

水野佐知香(みずの・さちか)

東京藝術大学卒業。数々の国内外の音楽コンクールで入賞。ソリスト、室内楽奏者として定評があり、オーケストラとの共演多数。各地のコンクールの審査員も務め、門下生からは多くのコンクール入賞者、国内が活躍する演奏家を輩出し、教育者としても信頼が厚い。多くのCDをリリースし、玉木宏樹氏が編曲したヴァイオリンデュオの楽譜監修も手掛け、また、海外でのリサイタル、マスタークラスにも招聘され好評を得ている。現在洗足学園音楽大学教授、ヴィルトゥオーゾ横浜代表。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

林美音子 地歌リサイタル

2011年11月 8日(火)開催
(京都府立府民ホール・ALTI(アルティ))

当財団主催の第12回邦楽技能者オーディションに合格、2011年11月2日にCD『柳川三味線/林美音子』を発表した林美音子(はやし みねこ)さんの初リサイタルが、京都府立府民ホール・ALTI(アルティ)にて開催されました。京三味線とも呼ばれる柳川三味線(やながわしゃみせん)、その独特の音色が存分に響きわたった貴重なリサイタルの模様をじゃぽ音っと編集部からレポートいたします。

最古の歴史と伝統、未来へ響いていく京三味線の音色

文:じゃぽ音っと編集部

地歌、浄瑠璃、長唄に端唄に小唄、さらに津軽三味線や民謡と今にいたる日本の芸能や音楽の形成に多大な影響を与えてきた三味線。その起源として沖縄の三弦の楽器(現在の三線〈さんしん〉)が16世紀に畿内へわたり、琵琶奏者の手を経て現在の「三味線」として広まったと考えられている。三味線と一口に言っても種目や流派によってさまざまな大きさや形態があり、さらには演者個々人によっても微妙に異なるほどに繊細な楽器。なかでも京三味線とも呼ばれる柳川三味線(やながわしゃみせん)、その流派である柳川流は、地歌三味線では現存する最古の流派で柳川検校(不明〜延宝8年[1680年])にはじまり、現在は京都でしか伝承されていない。その柳川流の未来を担う若き三味線奏者、林美音子さんの初リサイタルには多くの観客が詰めかけた。

緞帳があがって静まりかえるなか、小さい撥で奏でる林美音子さんひとり、ゆったりと歌いだす「都十二月(みやこじゅうにつき)」。別名「みやこみやげ」とも呼ばれ、京都の年中行事を歌詞に盛り込んだ、お洒落な感覚の古典曲。  暑さ勝りの祇園の会(え)、鉾の囃子はチャンチキチャンチキ」といった囃し詞や三味線の擬音を織り交ぜて、とても聴き心地がよい。次の「葵の上」はその名のとおり源氏物語をもとにした能「葵上」からの謡物。河原崎検校の箏の手を、母であり師である林美恵子さん、歌・柳川三味線は林美音子さんという共演。息がピタリとあった、箏と弾き歌う三味線の合奏が絵巻のようにステージに広がり、源氏物語の幻想的な一幕を浮かび上がらせる。

荒鼠(あれねずみ)
荒鼠(あれねずみ)

休憩後からの「荒鼠(あれねずみ)」はふたりの歌と柳川三味線二挺での共演。冒頭の「都十二月」と同様に作詞、作曲者不詳の古い地歌で、「その場で作った物」という意味に由来する「作物(さくもの)」ならではの遊び心を感じさせる歌。台所を荒らしまわる鼠が大猫に捕まる様子を活写し、  チュウチュでっせ、五百七十七曲がり、猫のねの字も嫌で候」といった語呂のよさや語りを交えた音域の広い歌と、時折擬音を活かし飛び跳ねるように響く三味線の芯の強い音との妙味を存分に味わえた。

京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜
京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜

オーケストラとの共演も多い福田輝久さんの尺八を迎え、初リサイタルを締めくくった「京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜」は金田潮兒作曲による委嘱作品。狂言「朝比奈」に題材をとった勇壮で親しみやすい物語を、「遠音(とおね)がさす」と表現される京三味線を畳み掛けるように響かせ、もの語るように歌う。そこへ枯淡の味わいたっぷりの尺八が寄り添い、物語の場面を引き立てていく。このドラマティックな曲が終わると会場にひときわ大きな拍手が広がった。この曲からは古典のみならず現代音楽を沢井忠夫師に師事した経歴を持つ、林美音子さんの柔軟な面が反映された作品なのではと感じられた。

三味線最古の歴史と伝統を守る柳川流の追究はもとより、その音色は「遠音がさす」ように未来へと響いていくに違いない、意義深い演奏会だった。

関連作品

プロフィール

林 美音子(はやし みねこ)

古典を林美恵子師に師事、柳川三味線の手ほどきを津田道子師に師事、現代音楽を沢井忠夫師に師事。

1994年 日本箏曲連盟「全国箏曲コンクール」児童の部にて優秀賞受賞。
1997年 ポーランド文化芸術省・ポーランド日本大使館の後援による公演。
1998年 ハワイ大学音楽学部の後援による公演。
1999年 日本箏曲連盟「全国箏曲コンクール」一般の部にて優秀賞受賞。
2004年 奈良教育大学音楽文化専修卒
    中国蘇州市外事弁公室国際交流センター招聘による「中日交流音楽会」にて公演。
2010年 文科省・文化庁連携事業による「子供のための優れた舞台芸術体験授業」補助講師。
2011年 日本伝統文化振興財団による「邦楽技能者オーディション」合格。
2011年5月 第17回「くまもと全国邦楽コンクール」にて優秀賞受賞。
2011年11月2日 日本伝統文化振興財団より邦楽技能者オーディション合格者CDを発売。

現在、京都當道会所属。
京都教育大学付属桃山小学校「和楽器授業」講師。

林 美恵子(はやし みえこ)

生田流京都系で、柳川流三味線の奏者。京都當道会の大師範で、京都教育大学の非常勤講師。京都にだけ伝承されている柳川流三味線を継承。八重崎検校の流れを汲む京都下流の三好敦子師に師事。また、柳川流古典を津田道子師に師事。

客演
福田輝久(ふくだ てるひさ)〈尺八〉

古典はもとより多くの作曲家と連携し新作展・リサイタルを重ねてきた。領域を広げるべく、N響・東響・都響・東フィル・新星日響・仙台フィル・瀬戸フィル・ロシアフィル・ルーマニアツルグムレシュ響・新聲国楽団・高雄市国立国楽団・上海音楽学院民族楽団などのオーケストラ・室内楽との共演も数多い。ミュージックフロムジャパン主催アメリカ・カナダリサイタルツアーなどの海外公演や指導も。
2003年邦楽聖会を結成。伝統と刷新をテーマに、音楽監督にパリ在住の作曲家、丹波明氏を迎え東京・フランスにおいて毎年公演。パリ日本文化会館・ティルシットホール・コルセルヴァトワール、各地にて日本音楽や現代の作品の紹介・演奏・レクチャーを務める。日米欧にてCDをリリース。

「京の韻き〜朝比奈より〜」作曲
金田潮兒(かねだ ちょうじ)

1948年生まれ。東京藝術大学大学院在籍中の1970年代初めより、様々な作曲家グループを結成し活発に作品発表活動を行う。主なものとして、73年の「SIX COMPOSERS」を初め「場」、「I am a Composer」等がある。また、1990年代から演奏者との共同企画として「KAZE=風の会」、「新作歌曲の会」、「新しい余韻の会」があり、「邦楽・聖会」にも積極的に参加する。作品は幅広い分野に及び、これまでに「貴船幻影」「重陽の宴」が、柳川三味線のための作品として創作され、林美恵子と門下による地歌箏曲演奏会をはじめ国内外の舞台にて演奏されている。

高橋法聖尺八コンサート 竹の響 「秋色の風―日本歌曲と共に―」

2011年11月 5日(土)開催
(東京銀座・王子ホール)

尺八演奏家の高橋法聖さんの “ 竹の響 ” シリーズ5回目となるコンサート「秋色の風―日本歌曲と共に―」が銀座・王子ホールにて開催されました。ゲストにメゾ・ソプラノ歌手の青山恵子さん、ピアノに原なぎささんを迎え、ポピュラー曲、童謡、日本歌曲を取り上げた、親しみやすくヴァラエティ豊かな2部構成。〔幻の笛〕と題されたコーナーでは、昭和初期に考案された稀少価値の高いオークラウロの演奏が楽しめました。

言葉と音色が一つになった心象風景としての日本

文:星川京児

邦楽器の多様化はいまに始まったことではない。明治以後、歌舞伎や唄ものを離れて、器楽として楽しもうという動きは今日に至るまで綿々と続いている。なかでも、西洋音楽との融合を目指した1960年代以降の作品には、それこそ楽器の極限まで求めるもの、なかには限界を超える、というか、弦楽器を打楽器の様に扱ったり、演奏技術云々ではなく、なにか象徴的なものとして捉えようとするものまででてきた。もちろん、固有の楽器そのままでは対応しきれないとみたか、構造を変えたり、エレキ化するという作業も続けられている。なぜか、他国の楽器で純邦楽を演奏しようとする人が少ない。これは他と比べて日本に顕著な部分でもあるのだが。箏は八十弦から十七弦。近年では二十弦や二十五弦などがあり、後世に復原された八十弦を除いて、それぞれ演奏される場所を得ている。三味線では杵屋佐吉の低音三味線。これはまさにチェロ・サイズ。近年は、裏皮に穴を開けたり張りを弛めたりしてそれぞれ工夫している。

さて、三曲ではないが、もう一つの主役、尺八の改造系というと、これが意外にシンプル。五孔を七孔にしたり、素材を木や新素材にするだけ。身の回りにあるものをなんでも尺八代わりに吹いてみようという人もいるが、これは一歩間違えば寄席芸で、そっちにはまた名人もいる。そんななか、決定版ともいえるのがオークラウロである。大倉喜七郎が昭和初期に発明した多孔尺八。というか、尺八型の歌口を備えた金属製の縦笛にタンポを加えたもの。四世荒木古童、福田蘭童、菊池淡水など綺羅星のような名人(註)が取り上げていたというのだから前途は有望なはずだった。ところが、いまなぜかあまり目にしない。構造的に、微妙なスライド感が出せない代わりにピッチは明確になるという利点があるが、フルートでも代用できるのではと思わせてしまったのだろう。また、その素直なトーンが強みにも弱みにもなってしまう危うさもある。とはいえ、福田蘭童風のなだらかな楽曲には、その素直な音色が向いているので、日本的抒情を表に出した歌曲とは相性が良いのかもしれない。その成果が今回のステージだ。

部から参加した青山恵子は、1975年の「第1回日本歌曲コンクール」1位というベテランで、数々の実績を残してきた日本の叙情歌のスペシャリスト。ピアノの原なぎさも歌曲の伴奏が専門という最強の布陣である。これに高橋法聖の尺八が対峙する。クラシック音楽は、どうしても声を器楽的にしてしまうようなところがあって、歌の世界が遠のいてしまうことがあるのだが、この舞台にはそれがない。発声は時代時代で変わるものといわれ、昨今の歌の中には国籍不明のものもちらほらするが、このトリオは見事に日本の歌の世界に作品を昇華させているといえよう。

「秋色の風」というタイトルも言い得て妙である。歌のテーマと尺八の音色が、たとえ自分は経験していなくとも、そういう“秋”があったと思い起こさせる力を発揮する。言葉のイメージと音色の持つノスタルジーが一つになった、心象風景としての日本。失ってはいけない、心の故郷を思い描くことができる、そんな強い印象を残すものであった。

それにしてもステージ中の話にあったのだが、このオークラウロにフルートと尺八を合わせて「フルハチ」というのは面白いネーミングだ。もっと活用されていい楽器だと思うのだが、いかが。

撮影:西尾信夫(はリハーサル時/=じゃぽ音っと編集部)

四世荒木古童(1902-1943)

琴古流尺八奏者。尺八のほか、雅楽、洋楽、三弦、箏などを学び、研究。

福田蘭童(1905-1976)

琴古流尺八奏者、作曲家。ピアノ伴奏の新しい尺八曲の作曲や、NHK「笛吹童子」などの伴奏音楽の作曲、演奏などでも知られる。

菊池淡水(1902-1989)

尺八演奏者、民謡指導者。民謡尺八をはじめ、幅広い音楽、楽器を手掛け、オークラウロの奏者としてNHK交響楽団と共演した。

プログラム

部〈尺八&ピアノ〉

〔祈り〕

  • アヴェ・マリア(C.F.グノー&J.S.バッハ 作曲)

〔花の想い〕

  • あざみの歌(八州秀章 作曲)
  • 秋桜(さだまさし 作曲)

〔遠い日〕

  • 燕になりたい(作曲者不詳)
  • 遠くへ行きたい(中村八大 作曲)
  • テイク・ファイブ(P.デスモンド 作曲)
  • また君に恋してる(森 正明 作曲)
  • リベル・タンゴ(A.ピアソラ 作曲)

〔幻の笛〕

  • さくら貝の歌(八州秀章 作曲)
  • 想い出づくり(小室 等 作曲)
  • セレナーデ(F.シューベルト 作曲)

部〈歌&尺八&ピアノ〉

〔秋によせる日本の抒情〕──日本歌曲と共に──
メゾ・ソプラノ:青山恵子

  1. 赤とんぼ(三木露風 作詩/山田耕筰 作曲)
  2. 紅葉(高野辰之 作詞/岡野貞一 作曲)
  3. 里の秋(斎藤信夫 作詞/海沼 実 作曲)
  4. 村祭(作詞者不詳/南 能衛 作曲)
  5. 里ごころ(北原白秋 作詩/中山晋平 作曲)
  6. 虫の声(作詩/作曲者不詳)
  7. 白月(三木露風 作詩/本居長世 作曲)
  8. かやの木山の(北原白秋 作詩/山田耕筰 作曲)
  9. 落葉松(野上 彰 作詩/小林秀雄 作曲)
  10. 花盗人(鶴岡千代子 作詩/平井康三郎 作曲)

〈アンコール:あざみの歌(横井 弘 作詞/八州秀章 作曲)〉
〈アンコール:故郷(高野辰之 作詞/岡野貞一 作曲)〉


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プロフィール

高橋法聖

琴古流尺八を太田陵童(盛岡)、東京において加藤正明、後に横山勝也の各氏に師事。また、フルートを岩上正彦、尾藤京子氏に師事する。

〈主な演奏活動〉

  • 1982年の尺八リサイタルに対し岩手県芸術選奨受賞。その後、多くのリサイタルやコンサート活動を行う。
  • 「現代作曲展’82」や日本作曲家協議会JFC東北主催「現代の響き」(1992年)等で多くの現代曲を初演。
  • 洋楽とのセッションも多く、一流ジャズバンドとの共演や特に歌曲を中心とした「詩と音楽の会」主催の「新しい日本の歌」新作発表会(朝日生命ホール)では、2001年までに多数出演をし、平井康三郎作曲の歌曲初演に参加。

〈 “ 竹の響 ” シリーズ〉

  • 高橋法聖尺八コンサート「一瞬を永遠に生きる」(スタジオK:2007年)
  • 高橋法聖尺八コンサート「遠い日の歌」(エプタ・ザール:2008年)
  • 高橋法聖尺八演奏会「吹禅一如」(銀座王子ホール:2009年)
  • 高橋法聖尺八リサイタル「夢幻の如く」(銀座王子ホール:2010年)

〈海外での演奏〉

  • フランス大使館推薦パリ公演、第一回日伊文化交流フェスティバル出演(1986年)
  • オーストラリア世界万国博覧会に日本催事委員会の要請により出演(1988年)
  • アメリカ、オレゴン州の私立大学協会主催により3つの大学で公演(1989年)
  • フランスで開催された世界民族音楽舞踊祭(in SAINTES)、GANNAT音楽フェスティバルへの招待演奏(1998年)

以上を含め、これまでイタリア・オランダ・ドイツ・アメリカ・イギリス・スウェーデン等の各国で数多くの公演を行う。

〈現在〉

らんぽ社竹心会会員、国際尺八研修館所属、現代邦楽会会員、琴古流尺八師範。
東京、盛岡を中心に国内外で演奏活動を行う。

〈ディスコグラフィ〉

  • 「春まだ浅く」〔1992年 日本コロムビア(株)〕
    和楽器による抒情組曲:作曲・構成 平井康三郎
  • 「石川啄木」〔1992年 東芝EMI(株)〕
  • 「初恋」〔1995年 日本コロムビア(株)〕
  • 「遠い日の歌」〔2009年 Northern Lights Records〕
  • 「竹の響」超大管尺八による〔2011年 ムーンドリーム企画〕 他
青山恵子

東京藝術大学声楽科卒業、同大学院博士課程修了。声楽を森山俊雄、須賀靖和、畑中更予、邦楽を西垣勇三、平井澄子、民謡を本條秀太郎、早坂光枝の各氏に師事。1987年声楽では日本初の博士号を、テーマ「日本歌曲の歌唱法の実践的研究」〜伝統音楽との接点〜で取得。博士号取得記念リサイタル「安達ヶ原の鬼女」サントリーホールを開催。その後も洋楽と伝統音楽の歌唱法の融合を研究し、邦楽器伴奏の作品や語り物、モノオペラなど様々なジャンルに取り組み、これらを取り入れたシリーズ「日本の詩コンサート」を定期的に開催。また「仲良し三人プリマ〜白いうた青いうた」コンサート、オペラでは室内歌劇場「浅芽ヶ原」(宮木)、新国立劇場「黒船」(お松)、室内歌劇場「星の王子さま」(狐)、日本歌曲セミナー講師、合唱団ヴォイストレーナーなど広く活動している。2011年2月には、長年ニューヨークにおいて活動する “ ミュージック・フロム・ジャパン(三浦尚之主宰)” の音楽祭に、初の声楽家として招かれた。1975年四谷文子主宰・波の会「第1回日本歌曲コンクール」1位、98年ミュージックペンクラブ「コンサート・パフォーマンス賞」。CDに「青山恵子名歌集〜紡ぎゆく歌ものがたり」、中島はる作曲「白い曼珠沙華」、増本伎共子作曲「あはれ」、新実徳英作曲「白いうた青いうた」、猪本隆作曲「語り歌曲の世界」「悲歌」などがある。島根県出雲市出身。東京室内歌劇場会員。

青山音楽事務所
http://www.saturn.dti.ne.jp/~machida/

原なぎさ

武蔵野音楽大学ピアノ科卒業。1989年より平井康三郎音楽講座の専属伴奏を務めながら、各地にて同氏によるコンサート、公開レッスン等に出演、研鑽を積む。1992年より2000年まで詩と音楽の会主催「新しい日本の歌」発表会に出演。現音、JFCアンデパンダン等の新譜発表にも起用される。「平井康三郎歌曲の世界」(2004年)、「水と影」(小林秀雄歌曲 2006年)をはじめ、日本の作曲家の作品に焦点をあてたコンサートを開き、好評を得るなど、特に日本歌曲の伴奏を中心に活動している。榛名梅の里音楽祭奨励賞受賞、第10・11回カワイクラシックオーディション伴奏部門入賞。東京室内歌劇場器楽会員。日本演奏連盟会員。
ピアノを杉山千賀子、木嶋瑠美子、W・ウェーバージンケに、伴奏法を故 平井康三郎、塚田佳男、川崎操、三上かーりん各氏に師事。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏/作曲よりも制作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサーに。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの『世界の民族音楽』でDJを担当しながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組制作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念 DVD』をはじめ、これまでに関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。

zen yamato

2011年10月24日(月)開催
(東京・津田ホール)

今年で結成5年を迎えた尺八・善養寺惠介師、山田流箏曲・山登松和師の古典にこだわるユニット、Zen Yamato。東京・津田ホールでの公演は、箏の名手・亀山香能師、尺八の徳丸十盟師という豪華な賛助出演を迎えて開催されました。多数の聴衆が詰めかけ、終演後は惜しみない拍手に包まれた公演の模様を邦楽評論家の笹井邦平さんのレポートでお送りします。

文:笹井邦平

最高のデュオ

会名のzenとは尺八演奏家・善養寺惠介師、yamatoとは山田流箏曲演奏家・山登松和師で、つまりこの2人のジョイントコンサートである。

2人は東京藝術大学の1年違いの先輩後輩、善養寺師は昨今の箏曲リサイタルには殆ど出演している売れっ子。山登師は山田流箏曲で山勢派・山木派とともに〈御三家〉と云われる名門山登派の七代家元、やはり昨今の演奏会では助演でよく舞台に立っていた。つまりこの2人は実力・人気を兼ね備えた今が旬の最高のデュオなのである。

江戸時代のポピュラーソング

「雲井弄斎」
「雲井弄斎」

序曲は八橋検校作曲・中組「雲井弄斎(くもいろうさい)」(箏-山登松和、尺八-善養寺惠介)。箏曲演奏家の必須テキストである〈箏組歌〉に付随する組歌で、曲名の〈雲井〉とは箏の調弦法の〈雲井調子〉のこと、〈弄斎〉とは江戸時代に流行った小歌謡の一種で、「ノウ」や「サユエ」などと囃子言葉が入り、純然たる〈箏組歌〉よりやや砕けたテイスト。といっても〈組歌〉と尺八を合わせるのは大御所が顔をしかめるかもしれぬが、このユニットは結成以来〈箏組歌〉と尺八のジョイントにチャレンジしているので違和感はない。

山登師のかっちりした爪音と善養寺師の深みのある尺八の音色がそれを証明し、山登師の哀調を帯びた サユエ」という囃子言葉に庶民の生活の匂いが漂う。

ハイテンションのアンサンブル

「千鳥曲」
「千鳥曲」

2曲目は吉沢検校作曲「千鳥曲」(箏-山登松和、尺八-徳丸十盟・善養寺惠介)。作曲者が『古今和歌集』の和歌を採り入れて四季を綴った「春の曲」「夏の曲」「秋の曲」「冬の曲」にこの「千鳥曲」を加えた5曲を〈古今組〉といい、「千鳥曲」のみ後歌は『金葉和歌集』から採っている。

今回は善養寺師のアイディアで尺八古典本曲「鹿の遠音」のように尺八2管でメロディラインを吹き分けて箏と合奏する-という斬新なスタイル。その白羽の矢が立ったのが善養寺師の先輩で藝大時代ともに山口五郎師に師事した徳丸十盟師。着かず離れずの微妙な流れを構築する2管の尺八に挟まれた山登師は凛とした歌とクリアな爪音でこの二人に対峙し、そのハイテンションのアンサンブルが波音や千鳥の鳴き声といった長閑な海辺の景色を鮮やかに映し出す。

「根曳の松」
「根曳の松」

3曲目は松本一翁作詞・三つ橋勾当作曲「根曳の松」(箏-亀山香能、三絃-山登松和、尺八-善養寺惠介)。掉尾は最高格の祝儀物で飾る。最高というのは音楽的完成度はむろんだが難易度も最高で演奏家なら一度弾いてみたい憧れの曲。平安時代正月初子(はつね)の日に野に出て小松を引き抜いて長寿を祝う〈子の日の遊び〉に因む初春の情景を綴った曲、聴かせ処は三つある手事で箏・三絃・尺八ともに最高の技術が要求される。そのパートナーに山登師はこの曲のスペシャリスト亀山師を選んだ。この二人の火花を散らすバトルに善養寺師は前2曲とは異なる1歩引いたスタンスで撥弦楽器の間を縫いハイレベルな三曲合奏を聴かせる。

バイタリティ溢れるユニット

3曲ともに古典に対する敬意の念とチャレンジ精神が同居し、21世紀を生き抜く古典としての価値観を見出そうとする意気込みが漲る。その想いを最高の技術と逞しい創造力で叶えようとする-zen yamatoとはそんなバイタリティ溢れるユニットである。

写真:オガワブンゴ(リハーサル時の撮影)

プロフィール

善養寺惠介

1964年生まれ。6歳より父昭三と岡崎自修師(いずれも神如道門人)に虚無僧尺八の手ほどきを受ける。

1982年 神如正師に師事。
1990年 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。
学部、大学院を通じて人間国宝、山口五郎師に師事。
1998年 国際尺八フェスティバル(コロラド州ボルダー)に招待演奏家として参加。
1999年 第1回独演会『虚無尺八』開催、今までに9回を重ねる。
2000年 尺八教則本「はじめての尺八」(音楽之友社刊)を執筆。
2002年 第6回ビクター財団賞「奨励賞」受賞。世界銀行主催、世界宗教者国際会議(於イギリス カンタベリー大聖堂)にて招待演奏。
2008年 第8回リサイタル『善養寺惠介尺八演奏会』(トッパンホール)にて文化庁芸術祭賞新人賞を受賞。
2009年 第9回リサイタル『虚無尺八』(トッパンホール)にて文化庁芸術祭優秀賞を受賞。

そのほか、国際交流基金派遣などによるヨーロッパ、アジア各地での公演多数。東京藝術大学非常勤講師を務めた後、現在は関東各地(東京、埼玉、群馬)の尺八教授活動も行っている。百錢会主宰、有明教育芸術短期大学、NHK文化センター町田・川越・高崎・横浜講師。

山登松和

1966年生まれ。4歳より山田流箏曲山登派五代家元山登愛子(祖母)に箏の手ほどきを受ける。以後、中能島欣一師に箏、鳥居名美野師に箏・三弦を師事する。

1989年 東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。安宅賞受賞。
河東節三味線を山彦さわ子師に師事。
荻江節三味線を荻江さわ師に師事。
1991年 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程修了。
1994年 国際交流基金派遣専門家として、アフリカ(4ヵ国)公演に参加。
1995年 東京藝術大学非常勤講師を務める(96、01、02年)。
河東節浄瑠璃を山彦節子師に師事。
山彦登の名を許される。
1999年 山登派七代家元山登松和を襲名。
国立劇場小劇場にて襲名披露演奏会。
2001年 第5回ビクター財団賞「奨励賞」受賞。
2002年 第1回山登松和の会(紀尾井小ホール)にて文化庁芸術祭優秀賞受賞。
2003年 荻江さわ師より荻江登の名を許される。
2006年 第2回山登松和の会(国立劇場小劇場)
2008年 第29回松尾芸能賞新人賞受賞。
2009年 第3回山登松和の会(紀尾井小ホール)

山登会主宰、公益社団法人日本三曲協会理事、山田流箏曲協会理事、跡見学園中学・高等学校箏曲講師。

亀山香能(かめやま・こうの)

6歳より海老名久駕師、12歳より野口美喜緒師に師事。

1960年 東京新聞主催、文部省・日本放送協会後援「邦楽コンクール」にて三曲児童部2位入賞。
1969年 東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。在学中、箏・三弦を人間国宝・中能島欣一師に師事。
皇居内桃華楽堂にて御前演奏。NHKラジオ初出演。以降NHKラジオ「邦楽のひととき」「邦楽百番」、NHKテレビ「日本の調べ」「芸能花舞台」をはじめNHK・BSにも度々出演、現在に至る。
1972年 東京藝術大学大学院修士課程修了。この年より78年まで東京藝術大学に助手として勤務。以降非常勤講師を務める。
1973年 中能島欣一師より名号(香能)教授許さる。
1976年 NHK依頼により、首相(福田赳夫)官邸にて演奏。
1979年 第1回リサイタルを開催(以降2009年までに15回のリサイタルを開催)。
イギリス・Duraban大学東洋音楽研究所主催「東洋音楽祭」に鳥居名美野師と参加演奏。
1983年 NHKテレビ「箏のお稽古」で人間国宝・六代山勢松韻師のアシスタントを一年にわたり務める。
1985年 河東節三味線を山彦さわ子師に師事。
1993年 仙台にて「中能島欣一作品の夕べ」リサイタル開催。
1998年 国際交流基金よりドイツ、イタリア、ベルギーにて演奏(国際交流会)。
2000年 オーストラリアのメルボルン、キャンベラ、シドニー三都市にて演奏(国際交流会)。
2002年 この年より年3回のペースで「亀山香能Talk&Live」を開催し現在に至る(〜15回)。
2004年 津田ホールにて開催された「BIWAKOTOFUE」に、福原徹氏、中川鶴女氏と共に出演する。「中能島欣一生誕100年記念」のタイトルにて、つくば 市、甲府市、仙台市、千葉市、盛岡市でライブ公演を行う。この年より年3回のペースで、地方ライブ公演を開催し、現在に至る。
2005年 第13回リサイタルにて文化庁芸術祭優秀賞受賞。CD「時を紡いで」リリース(1〜3集)。
2009年 邦楽TT支援ボランティア企画(白石市能楽堂)「箏の調べ」―能と山田流箏曲―に出演。“SOUND of 和楽”(年2回の6回シリーズ)を開始。

現在、国内外の演奏及びテレビ、ラジオ、歌舞伎座などに出演活躍。学校コンクールの審査員をつとめ、後進の指導及び日本音楽普及のためのワークショップ、レクチャーコンサートなどにも力を注ぐ。
桐香会主宰、奏心会代表、日本音楽国際交流会幹事、洗足学園音楽大学現代邦楽研究所講師、(財)音楽文化創造委員。明治薬科大学、日本豊山女子中学・高校、白百合学園中学・高校の箏曲講師。
箏組歌会、BIWAKOTOFUE、新潮会、北区三曲三和会、三曲若葉会、中能島会、山田流箏曲協会、日本三曲協会所属。

徳丸十盟(とくまる・じゅうめい)

東京都出身。幼少より父に琴古流尺八の手ほどきを受ける。

1984年 東京芸術大学音楽学部邦楽科尺八専攻卒業。
1987年 同大学院修士課程修了。
在学中より山口五郎師に師事、卒業後直門となり師範の許しを得る。
1986年 NHK邦楽オーディション合格。
1993年 トルコ・ハンガリーを巡演。同年、師・山口五郎と共にインド国内を巡演。
1994年 アフリカ各国(タンザニア・ガーナ・南アフリカ・スーダン)を巡演。
1996年 アメリカ国内を巡演。
1998年 世界尺八フェスティバル(米国コロラド州ボルダー)招待演奏。ロシア・カザフスタンを巡演。ドイツ・イタリア・ベルギーを巡演。
2000年 第1回ビクター邦楽技能者オーディションに合格。
2003年 ウズベキスタンで演奏。
2004年 イタリア・パドヴァ市にて本曲リサイタルを開催。
2005年 フランス・パリのユネスコ本部で60周年記念コンサートにて演奏。
2006年 イギリス・ロンドンにて演奏。
2007年 ロシア国内を巡演。
2008年 世界尺八フェスティバル(オーストラリア・シドニー)招待演奏。
2011年 徳丸十盟インド尺八巡礼。同年、ドイツ国内演奏旅行。

2007年(第1回)、08年(第2回)、10年(第3回)徳丸十盟尺八演奏会開催。

1989〜2005年 数期に渡り、東京藝術大学非常勤講師を務める。
平成19年度(第58回)芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。平成20年度江戸川区文化奨励賞受賞。
琴古流尺八雅道会主宰、日本三曲協会参与、琴古流協会評議員、読売文化センター・産経学園講師。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

JIUTA vol.4(東京公演)

2011年10月15日(土)開催
東京国立博物館・応挙館

第11回邦楽技能者オーディションに合格され、CD『地歌箏曲/岡村慎太郎』を発表した岡村慎太郎さんに、DVD『菊重精峰 作品集』に参加されている菊央雄司さん、ゲスト出演に尺八奏者・藤原道山さんを迎えた「JIUTA vol.4」が大阪の御霊神社と東京の国立博物館応挙館で開催されました。リラックスしたトークショーと真剣勝負の演奏という二部構成による、10月15日に行われた東京公演をレポートします。

楽しく面白い―いい意味で軽みのある洒落たステージ

文:星川京児

 東京国立博物館・応挙館
東京国立博物館・応挙館

箏・三味線・尺八というと、日本の伝統音楽の誇る三種の神器。という割りには生の音を聴いたことがある人は少ない。それでも昭和の中頃まではけっこう身近にあった。落語の「稽古屋」ではないが、小唄、端唄に長唄、各種浄瑠璃。尺八だって古典本曲の教室から民謡まで幅広かったし、嫁入り道具ではないが箏を習う女性もちらほら。それでも地歌、三曲となるとちょっとお目にかかれないものだった。いわゆる習い事の中でも、少しばかり敷居が高かったような気がする。

トークショー 左から菊央雄司、藤原道山、岡村慎太郎
トークショー 左から菊央雄司、藤原道山、岡村慎太郎

これは平成の御代となっても同じ。というか近年はもっと遠ざかったような感すらある。もともと三味線を伴う声楽で、長唄や浄瑠璃だってこれから派生したもの。いわば近代邦楽の大本だ。後に舞がついて地唄舞。器楽として洗練され手事物。これに花鳥風月に代表される日本人の抒情と深く結び付いた文学性を併せ持つ。いわば日本のリート(歌曲)でもあるとは、以前にも触れたことがある。これではなかなか近寄れない。

そこでこの岡村慎太郎と菊央雄司という若手二人による公演「JIUTA」。「地歌」ではなく「JIUTA」としたところにも覚悟といったら大げさだが、意図するものが見えようというもの。まずはこういった会には “ らしからぬ ” 軽妙な挨拶。というかMC、いや小1時間に及ぶお喋りというと身も蓋もないがくっついている。これがなかなかいい。地歌がポップだった時、今は古典と持ち上げられても、本来は聴いて楽しいものであったはずというのが、よく判る。このことは、そのまま彼らが地歌という芸能を継承していることの説明にもなっている。もちろん、彼らの資質も大きく関わっているのだろう。現在(いま)の地歌がどうあるべきかを模索しているのではなかろうか。このアプローチは正解。

まずは、尺八本曲ではお馴染みの「鶴の巣籠(三段獅子)」だが地歌では胡弓本曲から採ったものという。中国の二胡や韓国の奚琴(ヘグム)とは違い、胡弓の薄く幕を掛けたような響きが、ジャワのルバーブ(註1)のように雅な味わいを出している。前説で解説していた三弦の巣籠地や砧地(註2)といった繰り返されるフレーズが胡弓を煽るような効果があってけっこうモダンである。「早舟」はデュオで歌が始まり、後は交互にソロを採る。オノマトペのような言葉遊びとテンポが楽しい。ある意味人気商売だった江戸時代の芸能の力を感じさせる。

〆は、尺八に藤原道山を迎えての「笹の露」。別名 “ 酒 ” というだけに、遊びどころ満載の歌として楽しめるもの。「仏は下戸にや在(おわ)すらん」「劉伯倫(りゅうはくりん)や李太白、酒を飲まねば只の人〜」、最後に「よいよいよいのよいやさ」と閉める。こんな楽しく面白いものを、一部の好事家だけのものにしておくのはもったいない。いい意味で軽みのある洒落たステージであった。

 もう一つ。会場となった応挙館は、その名のとおり円山応挙の襖絵がある風雅な館。絵の方はレプリカらしいが、意外と応挙の持つユーモア感とステージの内容がマッチしていた。10月とは思えない蒸し暑い気候だったが、それでも襖を外して開け放し、三味線のアタックをやんわりと吸収したふくらみのある響きが、彼らの声ともマッチして心地良い時間を過ごさせてくれた。感謝、感謝。

註1
ルバーブ
ガムラン演奏などに使われる擦弦、弓奏楽器

註2
巣籠地、砧地(すごもりじ、きぬたじ)
どちらも地歌、箏曲における小旋律型の名称

当財団発売関連作品


菊重精峰 作品集

VZBG-20(DVD)
2007年5月23日 発売 
assocbutt_or_buy._V371070157_


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岡村慎太郎(おかむら しんたろう)

佐野奈三江、上木康江の両氏に師事 宮城胡弓を中井猛師に師事

1995年    東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業
    在学中宮中桃華楽堂にて御前演奏
1997年    東京芸術大学大学院音楽研究科修了
1998年    東京芸術大学推薦による奏楽堂デビューコンサート「岡村慎太郎リサイタル」開催
    三味線組歌、箏組歌を菊藤松雨師に師事、両巻伝授(2006年)
1999年    NHK邦楽オーディション合格/第34回宮城会筝曲コンクール1位/第6回賢順記念箏曲コンクール奨励賞
2002年    第7回「静岡の名手たち」オーディション合格
2004年    文化庁新進芸術家国内研修制度研修生
2006年    胡弓、箏、ピアノによるトリオでCD「まちぼうけ」発売
    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2007年    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2008年    岡村慎太郎 岡村愛コンサート開催/岡村慎太郎&菊央雄司「JIUTA」開催
2009年    岡村慎太郎&菊央雄司 第二回「JIUTA」開催(東京公演 大阪公演)/「翻案劇 サロメ」(演出:鈴木勝英 主演:篠井英介 出演:森山開次 上條恒彦 江波杏子 音楽:池上眞吾)に参加/エリザベト音楽大学非常勤講師
2010年    (財)日本伝統文化振興財団 邦楽技能者オーディション合格

菊央雄司(きくおう ゆうじ)

1989年    人間国宝四世故菊原初子の後継者五代目菊原光治に入門
1997年    「菊央」の称号を授かる
1999年    龍谷大学経済学部 卒業
    上方の胡弓を菊津木昭師に師事
2000年    長谷検校記念第6回全国邦楽コンクール最優秀賞・文化庁奨励賞受賞/平家琵琶を名古屋の今井勉師に師事
2001年    NHK邦楽オーディション合格
2002年    平成14年度文化庁新進芸術家国内研修員に認定
    NHK教育TV「芸能花舞台」出演
2003年    NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて放送
2004年    大阪舞台芸術新人賞 受賞
2005年    大阪市「咲くやこの花賞」受賞/国立文楽劇場主催「舞踊邦楽公演」出演/初リサイタル開催
2006年    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2007年    (社)当道音楽会にて中勾当の職格を取得/第二回リサイタル開催
2008年    岡村慎太郎&菊央雄司「JIUTA」開催/「GENJI」パリ・オデオン劇場公演参加/NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて「さらし」放送
2009年    NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて「笹の露」放送/NHK教育TV「芸能花舞台」にて「地歌舞・笹の露」の地方演奏で出演/第三回リサイタル〜地歌の粋人〜を開催
2010年    NHK教育TV「芸能花舞台」にて「地歌舞・ゆき」、「地歌舞・松竹梅」の地方で出演

藤原道山(ふじわら どうざん)

10才より尺八を始める。人間国宝・山本邦山に師事。コロムビアよりCDアルバム「UTA」「yume」「EAST CURRENT」「空-ku-」「壱」「かざうた」「KOBUDO」「風の都」「響」「故郷」をリリース。ホリプロ所属。尺八の可能性を求め様々な音楽を追究し、国内外問わず様々な音楽家・アーティスト・オーケストラ等との共演を行う。コンサート、録音、メディア出演、舞台音楽など多方面にわたって活動中。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏/作曲よりも制作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサーに。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの『世界の民族音楽』でDJを担当しながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組制作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念 DVD』をはじめ、これまでに関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。

第12回藤井昭子演奏会

2011年10月17日(月)開催
東京・紀尾井小ホール

数ある地歌古曲のなかでも、ひときわ「歌」に重みを持つ、三つの曲「出口の柳」「玉川」「松風」が演奏された第12回藤井昭子演奏会が10月17日紀尾井小ホールで開催されました。現在にいたる地歌の豊かな伝承の幅と奥行きを感じ取ることができる、味わい深い演奏会の模様をお届けします。

藤井昭子の近年の進境を垣間見た一夜

文:悠 雅彦

「出口の柳」
三弦本手:藤井昭子(右)
三弦替手:安藤啓子(左)

音楽のどのジャンルでも優れた古典は聴く者に何かを投げかけてくる。さまざまな示唆に富む教訓を授けてくれることさえ少なくない。地歌の背後にある広大な歴史がすなわち日本の〈ウタ〉の歴史そのものであることを展観した去る5月31日の「古典芸能の夕べ」(日本伝統文化振興財団主催)で、米川敏子との地歌「残月」に格調高い味わいを醸しだした藤井昭子だが、この夜の演奏では三味線音楽として誕生した歴史を経て、〈歌いもの〉として発展した地歌の幅の広さと奥行きの深さを暗示した演目と気配りに強く印象づけられた。

「玉川」 三弦:藤井昭子
「玉川」
三弦:藤井昭子

さて、今宵の演目。近世初期の歌祭文に由来するという「出口の柳」(杵屋長五郎作曲)、次いで歌枕で名高い六つの玉川を折り込んだ「玉川」(穂積頼毋作詞、国山勾当作曲)、同題名の能に由来する豊かな情緒が漂う「松風」(作者不詳)という、ふだん聴く機会のない伝承曲ばかり。最初の2曲が初体験だった私には、とりわけ三味線を縫うように高音を駆使する前者は難曲と聴こえた。相方は安藤啓子。いつになく緊張した面持ちの藤井の表情から察すると、単に幕開け曲というだけではなく、歌詞をリズミックに運ぶ独特の目まぐるしい合いの手といい、演奏者に試練を課す曲なのだろう。

「玉川」◆ 三弦:藤井昭子(左) 胡弓:高橋翠秋(右)
「玉川」◆
三弦:藤井昭子(左)
胡弓:高橋翠秋(右)

高橋翠秋の胡弓との「玉川」は2つの点で聴きものだった。まず胡弓の手付けが高橋自身の作で、第一人者らしいテクニックをあしらった胡弓と、うた沢を思わせる藤井の歌と糸の情緒が溶け合って生み出す妙趣が格別。さらにカデンツァの手事も胡弓の優美な表現と情を隈どるような藤井の三味線の鋭い撥さばきから浮かび上がる、真摯な演奏家たちのチャレンジ精神が耳をとらえる。それにしても高橋は素敵なアレンジャーだった。

「松風」 三弦:藤井昭子(右) 箏:渡辺明子(左)
「松風」
三弦:藤井昭子(右)
箏:渡辺明子(左)

休憩後の「松風」でやっと藤井に笑顔が戻った。それだけ「出口の柳」と「玉川」での彼女の緊張感は恐らく頂点にあったのかもしれない。箏の相方〈地歌Live〉などでも親しく共演している渡辺明子ゆえか。地歌の魅力である簡潔なうた表現が活きいきと輝く。久し振りに心躍らせる熱演で、その気持のよい波動が客席をも解放区にするかのよう。ちょうど舞台と客席がひとつに溶け合ったかのような愉悦に満たされたひとときだった。観阿弥と世阿弥親子の作と伝えられる能のストーリーは須磨に流された在原行平をめぐる海女の松風・村雨姉妹の恋物語。半狂乱となる姉松風の燃えさかる恋慕の情が、両者の息のあった演奏から迸るようにも聴こえるところが面白い。

良質な演奏からこぼれる美しい記憶というべきか。3曲のどれひとつとっても、唄と演奏の端々に感じられる母の藤井久仁江師や祖母阿部桂子師の薫陶から得た教えを一点一画も疎かにせぬ、藤井昭子の誠実な演奏ぶりと前進を忘れぬ強い意志、そして温かな人柄。三弦と唄に全精力を傾注する藤井昭子の近年の進境を垣間見た一夜であった。

写真:亀有スタジオ(◆はリハーサル時に撮影)

関連作品

プロフィール

撮影:森 豊
撮影:森 豊
藤井昭子(ふじい あきこ)

幼少より祖母阿部桂子、母藤井久仁江に箏の手ほどきを受け、四才で初舞台。
八才より阿部、藤井両師に三弦の手ほどきを受ける。

1986年 山本邦山、藤井久仁江両師と共に米国各地巡演。以後現在まで文化庁、国際交流基金等の派遣等により欧米各地で演奏。
1988年 NHKオーディション合格、初放送出演。
1995年 第一回リサイタル開催。以後現在まで全十二回開催。
2001年 第一回「地歌ライブ」を開催。以後、二ヶ月毎に定期開催、現在まで全五十五回開催。
2002年 国立劇場にて母、兄と「三楽会」を開催。
2003年 第七回日本伝統文化振興財団賞受賞。CDアルバム制作。
母、兄と第二回「三楽会」を開催。
2004年 第五十九回文化庁芸術祭新人賞受賞。
2006年 「藤井昭子地歌演奏会」をロンドンで開催。ロンドン大学でワークショップ。
2008年 全英語解説による「地歌 Jiuta」公演を開催。以後、現在まで全四回開催。
「藤井昭子地歌演奏会オランダ、ベルギー公演」開催。
世界尺八フェスティバル(シドニー)招聘演奏。
第二十八回伝統文化ポーラ賞奨励賞受賞。
2010年 「地歌ライブ」第五〇回記念公演開催。
2011年 文化庁芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。
ドイツ四都市での「地歌箏曲ドイツ公演二〇一一」出演。

現在、九州系地歌箏曲演奏家として、演奏会・放送等の出演ほか、
後進の指導にも当たっている。生田流協会理事、祖母阿部桂子が創立した銀明会副会長。

〈賛助出演(出演順)〉

安藤啓子(あんどう けいこ)

幼少より、前川和貴子(阿部桂子高弟)に箏、三弦を学ぶ。

1977年 藤井久仁江に入門。後に内弟子となり、阿部桂子、藤井久仁江に師事。
現在、藤井泰和に師事。
1988年 NHK邦楽オーディション合格。
1999年 長谷検校記念第五回全国邦楽コンクール奨励賞。
2008年 長谷検校記念第十四回全国邦楽コンクール優秀賞。
2010年 第一回リサイタル開催。

現在、九州系地歌箏曲演奏家として教授・演奏活動を行う傍ら、NHK-FM等への放送出演も行っている。

高橋翠秋(たかはし すいしゅう)

1968年 生田流筝曲家元川瀬白秋より師範免状取得。
1993年 国立劇場主催公演「明日をになう新進の舞踊邦楽鑑賞会」出演。
1998年 「高橋翠秋 胡弓の栞」リサイタル開催。
2002年 ジュネーブにて「舞と三曲の夕べ」出演。
2004年 チューリッヒ、ルクセンブルグでの地歌舞公演出演。
2010年 「高橋翠秋 胡弓の栞」の演奏に対し、文化庁芸術祭優秀賞受賞。

これまで、川瀬白秋師と共に歌舞伎黒簾音楽、舞踊地方としての演奏活動、「みなづき会」メンバーとして三曲演奏活動を行うほか、「ソウルオリンピック記念公演」「カンヌ音楽祭」等多くの海外公演、NHKテレビ「いろはに邦楽」胡弓講師などへの出演多数。
作曲作品に「桜姫」「雪月花」「舞姫」(「日本音楽抄」)、「ひな流し」「幻」「ひなの宵」(舞踊曲)等がある。日本芸術文化振興会(国立劇場)歌舞伎音楽研修講師。

渡辺明子(わなたべ あきこ)

幼少より母菊地千恵子の手ほどきを受け、阿部桂子、藤井久仁江、藤井泰和に師事。

1969年 NHK邦楽技能者育成会卒業。
2006年 「藤井昭子地歌演奏会」ロンドン公演に出演。
2008年 「藤井昭子オランダ・ベルギー公演」に出演。
世界尺八フェスティバル(シドニー)招聘演奏。

現在、九州系地歌箏曲演奏家として、演奏会・放送等の出演に活動の場を広げている。

悠 雅彦(ゆう まさひこ)

1937年神奈川県逗子市生まれ。音楽評論家。早稲田大学文学部英文学科卒。月刊「スイングジャーナル」にジャズ評論を執筆開始。1975年自主レーベル「Why not」を創設、ニューヨークで録音を開始。朝日新聞にジャズ・コンサート評を執筆。女子美術大学講師、音響技術専門学院講師、洗足学園音楽大学講師をつとめる。1997年〜2011年文化庁「舞台芸術」助成審査委員、「芸術祭」審査委員 、芸術選奨審査委員をつとめる。著書に『ジャズ進化・解体・再生の歴史』『僕のジャズ・アメリカ』『モダン・ジャズ群像』、共書に『ジャズCDの名鑑』『ECM catalog』がある。

JAZZ TOKYOホームページ:http://www.jazztokyo.com

第十五回日本伝統文化振興財団賞贈呈式/歴代受賞者による 古典芸能の夕べ

2011年5月31日(火)開催
(東京・紀尾井ホール)

平成8年の設立以来、今年で第15回を迎えた日本伝統文化振興財団賞。賞の贈呈式とあわせ、東日本大震災チャリティ公演「古典芸能の夕べ」として本年度受賞者、大蔵流狂言方の山本泰太郎氏をはじめ、歴代すべての受賞者が出演し、人間国宝・竹本駒之助師の賛助出演、司会に元NHKアナウンサーの葛西聖司氏を迎えて開催されました。

未来への希望、日本の伝統芸能

文:じゃぽ音っと編集部

 伝統芸能の明日を担う演奏家を毎年一名顕彰している日本伝統文化振興財団賞は今年で15年目。これまでに受賞した顔ぶれは長唄、生田流箏曲、清元、義太夫、山田流箏曲、尺八、地歌、能楽、邦楽囃子、大和楽と幅広いジャンルにわたっています。チャリティ公演の前に今年の受賞者、大蔵流狂言方の山本泰太郎氏への贈呈式が行なわれました。

 「無形文化のすぐれた後継者を顕彰する財団賞の贈呈式では、例年、式の後にさまざまな邦楽・伝統芸能に関わっていらっしゃる方をお招きして、交流会を催してまいりました。邦楽の世界はジャンルを越えた横のつながりが少ないので、当財団では皆様の交流の一助をこうしたかたちで担ってきたわけですが、本年は、それに代えて、東日本大震災への支援を目的としたチャリティ公演を開催させていただくことになりました。歴代の受賞者全員がご出演くださり、大変ありがたいことです」と語る藤本草理事長の挨拶でスタートし、山本泰太郎氏が壇上に登場。来賓の関裕行氏(文化庁文化財部部長)、斉藤鉄夫氏(衆議院議員)と松あきら氏(参議院議員)からの心温まる祝辞が寄せられました。

 選考委員の紹介ののち、委員を代表して田中英機氏が「ノミネートされたあらゆる日本の伝統芸からの顔ぶれに選考は難儀いたしました」「大勢の方々に観たり聴いたり、感じとっていただくDVDがプレゼントされます」と選考経緯を紹介しつつお話をされ、賞を受けた山本泰太郎氏は「泉下の父(故山本則直氏)もきっと喜んでくれていると存じます。これもひとえにご推薦くださいました先生方のおかげと衷心より感謝申し上げます。不惑の年齢になりましたが、この賞を励みになおいっそうの精進を重ねてまいりたいと存じます」と引き締った面持ちで語りました。

葛西聖司氏◆
葛西聖司氏◆

 公演は第一部ののち、休憩をはさみ第二部という構成。司会をつとめた伝統芸能への造詣が深い元NHKアナウンサー葛西聖司氏は、愛情にあふれた語り口で会場を湧かせます。幕開きは能「翁」の後半、狂言方が演じる「三番三(さんばそう)」で本年度第15回受賞の山本泰太郎氏(三番三)、亀井広忠氏(大鼓:第8回受賞)ほか全九名の舞台。大地を踏みしめ、平穏と豊穣への祈念がこもった舞台に会場は万雷の拍手。次に昨年第14回の受賞者、大和楽三味線方の大和櫻笙氏と藤舎呂英氏(第10回受賞)の鳴物ほかによる大和楽「お祭り」。唄、三味線、笛と鳴物の総勢十四名で祭囃子をモチーフに明るく華やいだ雰囲気をダイナミックに表現します。

ギャラリー(「三番三」狂言方〜山本泰太郎(第15回受賞))

長唄「其面影二人椀久」〜唄:杵屋直吉(第1回受賞/写真上段中央左)、松永忠次郎(第12回受賞/写真上段左) 三味線:今藤長龍郎(第9回受賞/写真上段中央右) 小鼓:藤舎呂英(第10回受賞/写真下段左)
長唄「其面影二人椀久」〜唄:杵屋直吉(第1回受賞/写真上段中央左)、松永忠次郎(第12回受賞/写真上段左) 三味線:今藤長龍郎(第9回受賞/写真上段中央右) 小鼓:藤舎呂英(第10回受賞/写真下段左)

 地歌「残月」は作曲者の峰崎勾当が早逝した愛弟子を追善したと伝わるもの。歌・箏の米川敏子氏(第2回受賞。受賞時は前名の米川裕枝)と歌・三弦の藤井昭子氏(第7回受賞)がつむぎ出す濃密な場に一瞬たりとも目と耳が離せない一幕に。後半の最後は長唄舞踊曲「其面影二人椀久」。ドラマティックな長唄屈指の大曲で、杵屋直吉氏(唄:第1回受賞)、松永忠次郎氏(唄:第12回受賞)、今藤長龍郎氏(三味線:第9回受賞)、藤舎呂英氏(小鼓:第10回受賞)ほか全十四名の想念がひとつに結集し、緩急あざやかな演奏が力強くこだまし、コンサートの締めくくりを飾るのにふさわしいものとなりました。

将来有望な人材をさまざまな分野から顕彰してきた歴史がこのようなチャリティ・コンサートとしてひとつの実を結んだ日本伝統文化振興財団賞。この日ご来場された大勢のお客様には、日本の伝統芸能が未来への希望となることが強く実感されたのではないでしょうか。

なお、終演後には出演者の皆様が揃ってロビーに出て義援金の呼びかけを行い、多くの方からご協力をいただきました。今回のチャリティ公演で当財団から日本赤十字社へ寄付させていただいた義援金については、別途報告記事にてご案内しております。

撮影:亀有スタジオ(◆印)

財団ニュース(2011年6月21日)
チャリティ公演「古典芸能の夕べ」についてのご報告

じゃぽ音っとブログ(2011年6月1日)
御礼「古典芸能の夕べ」

「じゃぽ音っとブログ」より“ #charity531 出演者紹介 ”

プログラム

《第一部》

一、「三番三」
  三番三:山本泰太郎(本年度 第15回受賞
  面箱:山本凛太郎
  後見:山本東次郎、山本則俊
  笛:松田弘之
  小鼓:鵜澤洋太郎、田邊恭資、飯冨孔明
  大鼓:亀井広忠(第8回受賞
二、大和楽「お祭り」
  唄:大和左京、大和礼子、大和久路、大和久悠、大和久萌
  三味線:大和櫻笙(第14回受賞)、大和久織、大和久涛、大和久翔、(低音)大和久喜子
  笛:福原寛
  鳴物:藤舎呂英(第10回受賞)、藤舎千穂、堅田喜三郎
三、三弦・箏・尺八三重奏「さらし幻想曲」
  三弦:山登松和(第5回受賞
  箏:遠藤千晶(第13回受賞
  尺八:善養寺惠介(第6回受賞
四、一調「百萬」
  謡:片山九郎右衛門(第11回受賞
  大鼓:亀井広忠(第8回受賞

《第二部》

五、義太夫「菅原伝授手習鑑」寺子屋の段から「いろは送り」
  浄瑠璃:竹本駒之助(人間国宝)
  三味線:鶴澤津賀寿(第4回受賞
六、清元「お祭り」
  浄瑠璃:清元美寿太夫、清元清美太夫
  三味線:清元美治郎(第3回受賞
  上調子:清元栄吉
七、地歌「残月」
  歌・箏:米川敏子(第2回受賞
  歌・三弦:藤井昭子(第7回受賞
八、長唄「其面影二人椀久」
  唄:杵屋直吉(第1回受賞)、松永忠次郎(第12回受賞)、杵屋巳之助、杵屋喜太郎
  三味線:今藤長龍郎(第9回受賞)、松永忠一郎、今藤政十郎、今藤龍市郎
  小鼓:藤舎呂英(第10回受賞)、梅屋右近、堅田喜三郎
  太鼓:福原百之助
  笛:福原寛