JIUTA vol.4(東京公演)

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2011年10月15日(土)開催
東京国立博物館・応挙館

第11回邦楽技能者オーディションに合格され、CD『地歌箏曲/岡村慎太郎』を発表した岡村慎太郎さんに、DVD『菊重精峰 作品集』に参加されている菊央雄司さん、ゲスト出演に尺八奏者・藤原道山さんを迎えた「JIUTA vol.4」が大阪の御霊神社と東京の国立博物館応挙館で開催されました。リラックスしたトークショーと真剣勝負の演奏という二部構成による、10月15日に行われた東京公演をレポートします。

楽しく面白い―いい意味で軽みのある洒落たステージ

文:星川京児

 東京国立博物館・応挙館
東京国立博物館・応挙館

箏・三味線・尺八というと、日本の伝統音楽の誇る三種の神器。という割りには生の音を聴いたことがある人は少ない。それでも昭和の中頃まではけっこう身近にあった。落語の「稽古屋」ではないが、小唄、端唄に長唄、各種浄瑠璃。尺八だって古典本曲の教室から民謡まで幅広かったし、嫁入り道具ではないが箏を習う女性もちらほら。それでも地歌、三曲となるとちょっとお目にかかれないものだった。いわゆる習い事の中でも、少しばかり敷居が高かったような気がする。

トークショー 左から菊央雄司、藤原道山、岡村慎太郎
トークショー 左から菊央雄司、藤原道山、岡村慎太郎

これは平成の御代となっても同じ。というか近年はもっと遠ざかったような感すらある。もともと三味線を伴う声楽で、長唄や浄瑠璃だってこれから派生したもの。いわば近代邦楽の大本だ。後に舞がついて地唄舞。器楽として洗練され手事物。これに花鳥風月に代表される日本人の抒情と深く結び付いた文学性を併せ持つ。いわば日本のリート(歌曲)でもあるとは、以前にも触れたことがある。これではなかなか近寄れない。

そこでこの岡村慎太郎と菊央雄司という若手二人による公演「JIUTA」。「地歌」ではなく「JIUTA」としたところにも覚悟といったら大げさだが、意図するものが見えようというもの。まずはこういった会には “ らしからぬ ” 軽妙な挨拶。というかMC、いや小1時間に及ぶお喋りというと身も蓋もないがくっついている。これがなかなかいい。地歌がポップだった時、今は古典と持ち上げられても、本来は聴いて楽しいものであったはずというのが、よく判る。このことは、そのまま彼らが地歌という芸能を継承していることの説明にもなっている。もちろん、彼らの資質も大きく関わっているのだろう。現在(いま)の地歌がどうあるべきかを模索しているのではなかろうか。このアプローチは正解。

まずは、尺八本曲ではお馴染みの「鶴の巣籠(三段獅子)」だが地歌では胡弓本曲から採ったものという。中国の二胡や韓国の奚琴(ヘグム)とは違い、胡弓の薄く幕を掛けたような響きが、ジャワのルバーブ(註1)のように雅な味わいを出している。前説で解説していた三弦の巣籠地や砧地(註2)といった繰り返されるフレーズが胡弓を煽るような効果があってけっこうモダンである。「早舟」はデュオで歌が始まり、後は交互にソロを採る。オノマトペのような言葉遊びとテンポが楽しい。ある意味人気商売だった江戸時代の芸能の力を感じさせる。

〆は、尺八に藤原道山を迎えての「笹の露」。別名 “ 酒 ” というだけに、遊びどころ満載の歌として楽しめるもの。「仏は下戸にや在(おわ)すらん」「劉伯倫(りゅうはくりん)や李太白、酒を飲まねば只の人〜」、最後に「よいよいよいのよいやさ」と閉める。こんな楽しく面白いものを、一部の好事家だけのものにしておくのはもったいない。いい意味で軽みのある洒落たステージであった。

 もう一つ。会場となった応挙館は、その名のとおり円山応挙の襖絵がある風雅な館。絵の方はレプリカらしいが、意外と応挙の持つユーモア感とステージの内容がマッチしていた。10月とは思えない蒸し暑い気候だったが、それでも襖を外して開け放し、三味線のアタックをやんわりと吸収したふくらみのある響きが、彼らの声ともマッチして心地良い時間を過ごさせてくれた。感謝、感謝。

註1
ルバーブ
ガムラン演奏などに使われる擦弦、弓奏楽器

註2
巣籠地、砧地(すごもりじ、きぬたじ)
どちらも地歌、箏曲における小旋律型の名称

当財団発売関連作品


菊重精峰 作品集

VZBG-20(DVD)
2007年5月23日 発売 
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岡村慎太郎(おかむら しんたろう)

佐野奈三江、上木康江の両氏に師事 宮城胡弓を中井猛師に師事

1995年    東京芸術大学音楽学部邦楽科卒業
    在学中宮中桃華楽堂にて御前演奏
1997年    東京芸術大学大学院音楽研究科修了
1998年    東京芸術大学推薦による奏楽堂デビューコンサート「岡村慎太郎リサイタル」開催
    三味線組歌、箏組歌を菊藤松雨師に師事、両巻伝授(2006年)
1999年    NHK邦楽オーディション合格/第34回宮城会筝曲コンクール1位/第6回賢順記念箏曲コンクール奨励賞
2002年    第7回「静岡の名手たち」オーディション合格
2004年    文化庁新進芸術家国内研修制度研修生
2006年    胡弓、箏、ピアノによるトリオでCD「まちぼうけ」発売
    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2007年    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2008年    岡村慎太郎 岡村愛コンサート開催/岡村慎太郎&菊央雄司「JIUTA」開催
2009年    岡村慎太郎&菊央雄司 第二回「JIUTA」開催(東京公演 大阪公演)/「翻案劇 サロメ」(演出:鈴木勝英 主演:篠井英介 出演:森山開次 上條恒彦 江波杏子 音楽:池上眞吾)に参加/エリザベト音楽大学非常勤講師
2010年    (財)日本伝統文化振興財団 邦楽技能者オーディション合格

菊央雄司(きくおう ゆうじ)

1989年    人間国宝四世故菊原初子の後継者五代目菊原光治に入門
1997年    「菊央」の称号を授かる
1999年    龍谷大学経済学部 卒業
    上方の胡弓を菊津木昭師に師事
2000年    長谷検校記念第6回全国邦楽コンクール最優秀賞・文化庁奨励賞受賞/平家琵琶を名古屋の今井勉師に師事
2001年    NHK邦楽オーディション合格
2002年    平成14年度文化庁新進芸術家国内研修員に認定
    NHK教育TV「芸能花舞台」出演
2003年    NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて放送
2004年    大阪舞台芸術新人賞 受賞
2005年    大阪市「咲くやこの花賞」受賞/国立文楽劇場主催「舞踊邦楽公演」出演/初リサイタル開催
2006年    京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員
2007年    (社)当道音楽会にて中勾当の職格を取得/第二回リサイタル開催
2008年    岡村慎太郎&菊央雄司「JIUTA」開催/「GENJI」パリ・オデオン劇場公演参加/NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて「さらし」放送
2009年    NHK-FMラジオ「邦楽のひととき」にて「笹の露」放送/NHK教育TV「芸能花舞台」にて「地歌舞・笹の露」の地方演奏で出演/第三回リサイタル〜地歌の粋人〜を開催
2010年    NHK教育TV「芸能花舞台」にて「地歌舞・ゆき」、「地歌舞・松竹梅」の地方で出演

藤原道山(ふじわら どうざん)

10才より尺八を始める。人間国宝・山本邦山に師事。コロムビアよりCDアルバム「UTA」「yume」「EAST CURRENT」「空-ku-」「壱」「かざうた」「KOBUDO」「風の都」「響」「故郷」をリリース。ホリプロ所属。尺八の可能性を求め様々な音楽を追究し、国内外問わず様々な音楽家・アーティスト・オーケストラ等との共演を行う。コンサート、録音、メディア出演、舞台音楽など多方面にわたって活動中。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏/作曲よりも制作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサーに。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの『世界の民族音楽』でDJを担当しながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組制作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念 DVD』をはじめ、これまでに関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。

(記事公開日:2011年11月12日)