第十六回日本伝統文化振興財団賞/第一回中島勝祐創作賞 受賞記念演奏会

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2012年6月 5日(火)開催
(東京・紀尾井ホール)

伝統芸能の未来を担う実演家を毎年1名顕彰する日本伝統文化振興財団賞は、今年で第16回目を迎えました。本年度より創設された中島勝祐(かつすけ)創作賞が加わり、二つの贈呈式と受賞記念演奏会が6月5日東京・紀尾井ホールで開催されました。贈呈式に引き続き行なわれた第一部「受賞披露演奏」と第二部「若き継承者たち」の模様をじゃぽ音っと編集部がお送りいたします。

伝統を未来へ向け継承、発展させたいという思いが一体に

文:じゃぽ音っと編集部

 贈呈式のあと休憩をはさみ、第一部「受賞披露演奏」が始まります。清元「六玉川(むたまがわ)」は、三味線に日本伝統文化振興財団賞受賞者の清元栄吉さん。三味線の名匠、四世清元梅吉師による手付の箏演奏を、第二回の財団賞を受賞され技芸の定評の高い米川敏子さんが担当。笛に福原徹彦さん、小鼓に第十回財団賞受賞者の藤舎呂英さんが助演に加わります。歌舞伎の舞台音楽としての清元とは別に、おもに演奏会で披露されるという「六玉川」は、古歌に詠まれた六つの玉川を旅するという趣向の曲。箏曲など他の種目で同名曲を耳にすることがありますが、ここでは清元の繁栄を祝う言葉で締めくくられています。浄瑠璃の豊かな語りを楽しむと同時に、清元三味線方としての栄吉さんの確かな技量がうかがえ、めでたい雰囲気に酔いしれます。

 続いて清元栄吉さんの作曲家としての一面に焦点を当て披露演奏された「触草~クサニフレレバ」は「創邦21 第四回作品演奏会」にて平成15年5月初演。篳篥、笛、箏、十七弦、三味線二挺という編成による、プロローグ~雨後~呪術~インターリュード~ダンス~彼岸~エピローグの七つの部分からなる組曲で、おだやかな自然の風景からその彼方にある幻想的な情景が広がってゆくかのような、ドラマティックな音の世界に誘われ、観衆からは終演後、盛んな拍手が送られました。

 第一回中島勝祐創作賞を受賞した清元紫葉さん作曲の清元新作〈「山姥(やまんば)」―夕月浮世語(ゆうづきうきよがたり)〉は、全体から一部割愛したショート・ヴァージョンによる演奏となりました。清元紫葉さんを含む三味線二挺、紫葉さんの夫君、清元梅寿太夫さんをはじめとする浄瑠璃語りの三名に笛、小鼓、大鼓、太鼓からなる囃子の総勢九名。能の有名な演目「山姥(やまんば)」をモチーフに、紫葉さんが受賞時にお話されていた「従来の山姥とは違う、孤独な山姥像」を、ゆったりとした序破急(じょはきゅう)の展開で、語りをしっとりと引き立てていきます。古典を基礎にした新たな創作曲を、という中島勝祐創作賞にふさわしい曲と演奏。また普段こうした邦楽の新作や創作曲をホールで耳にする機会が少ないこともあったのでしょうか、祝福とあいまって終演時には会場から拍手がひときわ大きく響いていました。

 10分間の休憩をはさみ、第二部は「若き継承者たち」と題したステージ。出演は、まず民謡界から日本郷土民謡協会所属、若手三人組のユニット、郷みん’S(きょうみんず)。続いて、津軽三味線ユニット吉田兄弟の兄・良一郎さんの学校公演プロジェクトとして発足し、WA=和、SABI=サビ(盛り上がり)という意味から命名されたWASABI(わさび)。

 郷みん’Sは唄、津軽三味線に踊りの三名からなる民謡ユニット。吟詠・浪曲入りの「黒田武士」では槍舞を交え重厚に、「津軽あいや節」を勇壮な津軽三味線の曲弾きから、唄がゆったりと沁みいる古調へつなぎ、最後に華やかな踊りを加えた「津軽よされ節」で若さいっぱいのステージを締めくくりました。

 WASABIは、邦楽界の枠を超えたメンバー編成。津軽三味線の吉田良一郎さんが曲全体の雰囲気を緩急自在に形づくり、尺八が枯淡の音色でメロディを歌うように吹き、太鼓が囁きから轟きまでの音を演出、箏と十七弦が高音から低音までの広い音域を支えるといった趣で、和楽器ならではの多彩な表現を次々に繰り出していきます。こうした自作曲に続けて、おなじみの唱歌「ふるさと」をWASABI流に、日本最古の民謡「こきりこ節」をアップテンポにアレンジした「KOKIRIKO」では観客の手拍子を招き入れ、祝いの舞台を大いに盛り上げました。

 第一部の「受賞披露演奏」は伝統芸能はもとより、古典を基礎とした創作曲の貴重な演奏を楽しみ、第二部の「若き継承者たち」では、進境著しい若手注目グループの演奏が体験できました。伝統を未来へ向けて継承、発展させたいという受賞者、出演者、観客の思いが一体となった受賞記念演奏会となりました。

撮影:後藤真樹、じゃぽ音っと編集部(印)(はリハーサル時に撮影)

プログラム

《第一部》受賞披露演奏

日本伝統文化振興財団賞受賞者 清元栄吉

清元「六玉川」(箏手付 四世清元梅吉/作調 福原徹彦・藤舎呂英)

浄瑠璃:清元志寿子太夫・清元一太夫
三味線:清元栄吉
箏:  米川敏子(第2回財団賞受賞)
笛:  福原徹彦
小鼓: 藤舎呂英(第10回財団賞受賞)

「触草~クサニフレレバ」(作曲 清元栄吉)

篳篥: 中村仁美
笛:  藤舎推峰
三味線:清元栄吉 松永忠一郎
箏:  中川敏裕
十七弦:西 陽子

中島勝祐創作賞受賞者 清元紫葉

清元新作「山姥」―夕月浮世語―(作曲 清元紫葉 作詞 長田午狂 作調 望月喜美)

浄瑠璃:清元梅寿太夫・清元喜美太夫・清元成美太夫
三味線:清元紫葉・清元公寿郎
笛:  福原徹彦
小鼓: 藤舎呂英
大鼓: 望月喜美
太鼓: 藤舎円秀

《第二部》若き継承者たち

郷みん’S(きょうみんず)

おもだか秋子〈唄〉
椿 正範〈津軽三味線〉
松浦奏貴〈踊り〉

「南部俵積み唄」
「淡海節~小諸馬子唄入り~」
「田原坂」
「黒田武士(吟詠・浪曲入り)」
「津軽あいや節(曲弾き)~古調あいや節」
「津軽よされ節」

WASABI(わさび)

吉田良一郎〈津軽三味線〉
元永 拓〈尺八〉
市川 慎〈箏・十七弦〉
美鵬直三朗〈太鼓・鳴り物〉

「東雲」
「烈光」
「航海」
「ふるさと」
「KOKIRIKO」

(記事公開日:2012年06月05日)