林美音子 地歌リサイタル

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2011年11月 8日(火)開催
(京都府立府民ホール・ALTI(アルティ))

当財団主催の第12回邦楽技能者オーディションに合格、2011年11月2日にCD『柳川三味線/林美音子』を発表した林美音子(はやし みねこ)さんの初リサイタルが、京都府立府民ホール・ALTI(アルティ)にて開催されました。京三味線とも呼ばれる柳川三味線(やながわしゃみせん)、その独特の音色が存分に響きわたった貴重なリサイタルの模様をじゃぽ音っと編集部からレポートいたします。

最古の歴史と伝統、未来へ響いていく京三味線の音色

文:じゃぽ音っと編集部

地歌、浄瑠璃、長唄に端唄に小唄、さらに津軽三味線や民謡と今にいたる日本の芸能や音楽の形成に多大な影響を与えてきた三味線。その起源として沖縄の三弦の楽器(現在の三線〈さんしん〉)が16世紀に畿内へわたり、琵琶奏者の手を経て現在の「三味線」として広まったと考えられている。三味線と一口に言っても種目や流派によってさまざまな大きさや形態があり、さらには演者個々人によっても微妙に異なるほどに繊細な楽器。なかでも京三味線とも呼ばれる柳川三味線(やながわしゃみせん)、その流派である柳川流は、地歌三味線では現存する最古の流派で柳川検校(不明〜延宝8年[1680年])にはじまり、現在は京都でしか伝承されていない。その柳川流の未来を担う若き三味線奏者、林美音子さんの初リサイタルには多くの観客が詰めかけた。

緞帳があがって静まりかえるなか、小さい撥で奏でる林美音子さんひとり、ゆったりと歌いだす「都十二月(みやこじゅうにつき)」。別名「みやこみやげ」とも呼ばれ、京都の年中行事を歌詞に盛り込んだ、お洒落な感覚の古典曲。  暑さ勝りの祇園の会(え)、鉾の囃子はチャンチキチャンチキ」といった囃し詞や三味線の擬音を織り交ぜて、とても聴き心地がよい。次の「葵の上」はその名のとおり源氏物語をもとにした能「葵上」からの謡物。河原崎検校の箏の手を、母であり師である林美恵子さん、歌・柳川三味線は林美音子さんという共演。息がピタリとあった、箏と弾き歌う三味線の合奏が絵巻のようにステージに広がり、源氏物語の幻想的な一幕を浮かび上がらせる。

荒鼠(あれねずみ)
荒鼠(あれねずみ)

休憩後からの「荒鼠(あれねずみ)」はふたりの歌と柳川三味線二挺での共演。冒頭の「都十二月」と同様に作詞、作曲者不詳の古い地歌で、「その場で作った物」という意味に由来する「作物(さくもの)」ならではの遊び心を感じさせる歌。台所を荒らしまわる鼠が大猫に捕まる様子を活写し、  チュウチュでっせ、五百七十七曲がり、猫のねの字も嫌で候」といった語呂のよさや語りを交えた音域の広い歌と、時折擬音を活かし飛び跳ねるように響く三味線の芯の強い音との妙味を存分に味わえた。

京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜
京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜

オーケストラとの共演も多い福田輝久さんの尺八を迎え、初リサイタルを締めくくった「京の韻き(ひびき)〜朝比奈より〜」は金田潮兒作曲による委嘱作品。狂言「朝比奈」に題材をとった勇壮で親しみやすい物語を、「遠音(とおね)がさす」と表現される京三味線を畳み掛けるように響かせ、もの語るように歌う。そこへ枯淡の味わいたっぷりの尺八が寄り添い、物語の場面を引き立てていく。このドラマティックな曲が終わると会場にひときわ大きな拍手が広がった。この曲からは古典のみならず現代音楽を沢井忠夫師に師事した経歴を持つ、林美音子さんの柔軟な面が反映された作品なのではと感じられた。

三味線最古の歴史と伝統を守る柳川流の追究はもとより、その音色は「遠音がさす」ように未来へと響いていくに違いない、意義深い演奏会だった。

関連作品

プロフィール

林 美音子(はやし みねこ)

古典を林美恵子師に師事、柳川三味線の手ほどきを津田道子師に師事、現代音楽を沢井忠夫師に師事。

1994年 日本箏曲連盟「全国箏曲コンクール」児童の部にて優秀賞受賞。
1997年 ポーランド文化芸術省・ポーランド日本大使館の後援による公演。
1998年 ハワイ大学音楽学部の後援による公演。
1999年 日本箏曲連盟「全国箏曲コンクール」一般の部にて優秀賞受賞。
2004年 奈良教育大学音楽文化専修卒
    中国蘇州市外事弁公室国際交流センター招聘による「中日交流音楽会」にて公演。
2010年 文科省・文化庁連携事業による「子供のための優れた舞台芸術体験授業」補助講師。
2011年 日本伝統文化振興財団による「邦楽技能者オーディション」合格。
2011年5月 第17回「くまもと全国邦楽コンクール」にて優秀賞受賞。
2011年11月2日 日本伝統文化振興財団より邦楽技能者オーディション合格者CDを発売。

現在、京都當道会所属。
京都教育大学付属桃山小学校「和楽器授業」講師。

林 美恵子(はやし みえこ)

生田流京都系で、柳川流三味線の奏者。京都當道会の大師範で、京都教育大学の非常勤講師。京都にだけ伝承されている柳川流三味線を継承。八重崎検校の流れを汲む京都下流の三好敦子師に師事。また、柳川流古典を津田道子師に師事。

客演
福田輝久(ふくだ てるひさ)〈尺八〉

古典はもとより多くの作曲家と連携し新作展・リサイタルを重ねてきた。領域を広げるべく、N響・東響・都響・東フィル・新星日響・仙台フィル・瀬戸フィル・ロシアフィル・ルーマニアツルグムレシュ響・新聲国楽団・高雄市国立国楽団・上海音楽学院民族楽団などのオーケストラ・室内楽との共演も数多い。ミュージックフロムジャパン主催アメリカ・カナダリサイタルツアーなどの海外公演や指導も。
2003年邦楽聖会を結成。伝統と刷新をテーマに、音楽監督にパリ在住の作曲家、丹波明氏を迎え東京・フランスにおいて毎年公演。パリ日本文化会館・ティルシットホール・コルセルヴァトワール、各地にて日本音楽や現代の作品の紹介・演奏・レクチャーを務める。日米欧にてCDをリリース。

「京の韻き〜朝比奈より〜」作曲
金田潮兒(かねだ ちょうじ)

1948年生まれ。東京藝術大学大学院在籍中の1970年代初めより、様々な作曲家グループを結成し活発に作品発表活動を行う。主なものとして、73年の「SIX COMPOSERS」を初め「場」、「I am a Composer」等がある。また、1990年代から演奏者との共同企画として「KAZE=風の会」、「新作歌曲の会」、「新しい余韻の会」があり、「邦楽・聖会」にも積極的に参加する。作品は幅広い分野に及び、これまでに「貴船幻影」「重陽の宴」が、柳川三味線のための作品として創作され、林美恵子と門下による地歌箏曲演奏会をはじめ国内外の舞台にて演奏されている。

(記事公開日:2011年12月06日)