高橋法聖尺八コンサート 竹の響 「秋色の風―日本歌曲と共に―」

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2011年11月 5日(土)開催
(東京銀座・王子ホール)

尺八演奏家の高橋法聖さんの “ 竹の響 ” シリーズ5回目となるコンサート「秋色の風―日本歌曲と共に―」が銀座・王子ホールにて開催されました。ゲストにメゾ・ソプラノ歌手の青山恵子さん、ピアノに原なぎささんを迎え、ポピュラー曲、童謡、日本歌曲を取り上げた、親しみやすくヴァラエティ豊かな2部構成。〔幻の笛〕と題されたコーナーでは、昭和初期に考案された稀少価値の高いオークラウロの演奏が楽しめました。

言葉と音色が一つになった心象風景としての日本

文:星川京児

邦楽器の多様化はいまに始まったことではない。明治以後、歌舞伎や唄ものを離れて、器楽として楽しもうという動きは今日に至るまで綿々と続いている。なかでも、西洋音楽との融合を目指した1960年代以降の作品には、それこそ楽器の極限まで求めるもの、なかには限界を超える、というか、弦楽器を打楽器の様に扱ったり、演奏技術云々ではなく、なにか象徴的なものとして捉えようとするものまででてきた。もちろん、固有の楽器そのままでは対応しきれないとみたか、構造を変えたり、エレキ化するという作業も続けられている。なぜか、他国の楽器で純邦楽を演奏しようとする人が少ない。これは他と比べて日本に顕著な部分でもあるのだが。箏は八十弦から十七弦。近年では二十弦や二十五弦などがあり、後世に復原された八十弦を除いて、それぞれ演奏される場所を得ている。三味線では杵屋佐吉の低音三味線。これはまさにチェロ・サイズ。近年は、裏皮に穴を開けたり張りを弛めたりしてそれぞれ工夫している。

さて、三曲ではないが、もう一つの主役、尺八の改造系というと、これが意外にシンプル。五孔を七孔にしたり、素材を木や新素材にするだけ。身の回りにあるものをなんでも尺八代わりに吹いてみようという人もいるが、これは一歩間違えば寄席芸で、そっちにはまた名人もいる。そんななか、決定版ともいえるのがオークラウロである。大倉喜七郎が昭和初期に発明した多孔尺八。というか、尺八型の歌口を備えた金属製の縦笛にタンポを加えたもの。四世荒木古童、福田蘭童、菊池淡水など綺羅星のような名人(註)が取り上げていたというのだから前途は有望なはずだった。ところが、いまなぜかあまり目にしない。構造的に、微妙なスライド感が出せない代わりにピッチは明確になるという利点があるが、フルートでも代用できるのではと思わせてしまったのだろう。また、その素直なトーンが強みにも弱みにもなってしまう危うさもある。とはいえ、福田蘭童風のなだらかな楽曲には、その素直な音色が向いているので、日本的抒情を表に出した歌曲とは相性が良いのかもしれない。その成果が今回のステージだ。

部から参加した青山恵子は、1975年の「第1回日本歌曲コンクール」1位というベテランで、数々の実績を残してきた日本の叙情歌のスペシャリスト。ピアノの原なぎさも歌曲の伴奏が専門という最強の布陣である。これに高橋法聖の尺八が対峙する。クラシック音楽は、どうしても声を器楽的にしてしまうようなところがあって、歌の世界が遠のいてしまうことがあるのだが、この舞台にはそれがない。発声は時代時代で変わるものといわれ、昨今の歌の中には国籍不明のものもちらほらするが、このトリオは見事に日本の歌の世界に作品を昇華させているといえよう。

「秋色の風」というタイトルも言い得て妙である。歌のテーマと尺八の音色が、たとえ自分は経験していなくとも、そういう“秋”があったと思い起こさせる力を発揮する。言葉のイメージと音色の持つノスタルジーが一つになった、心象風景としての日本。失ってはいけない、心の故郷を思い描くことができる、そんな強い印象を残すものであった。

それにしてもステージ中の話にあったのだが、このオークラウロにフルートと尺八を合わせて「フルハチ」というのは面白いネーミングだ。もっと活用されていい楽器だと思うのだが、いかが。

撮影:西尾信夫(はリハーサル時/=じゃぽ音っと編集部)

四世荒木古童(1902-1943)

琴古流尺八奏者。尺八のほか、雅楽、洋楽、三弦、箏などを学び、研究。

福田蘭童(1905-1976)

琴古流尺八奏者、作曲家。ピアノ伴奏の新しい尺八曲の作曲や、NHK「笛吹童子」などの伴奏音楽の作曲、演奏などでも知られる。

菊池淡水(1902-1989)

尺八演奏者、民謡指導者。民謡尺八をはじめ、幅広い音楽、楽器を手掛け、オークラウロの奏者としてNHK交響楽団と共演した。

プログラム

部〈尺八&ピアノ〉

〔祈り〕

  • アヴェ・マリア(C.F.グノー&J.S.バッハ 作曲)

〔花の想い〕

  • あざみの歌(八州秀章 作曲)
  • 秋桜(さだまさし 作曲)

〔遠い日〕

  • 燕になりたい(作曲者不詳)
  • 遠くへ行きたい(中村八大 作曲)
  • テイク・ファイブ(P.デスモンド 作曲)
  • また君に恋してる(森 正明 作曲)
  • リベル・タンゴ(A.ピアソラ 作曲)

〔幻の笛〕

  • さくら貝の歌(八州秀章 作曲)
  • 想い出づくり(小室 等 作曲)
  • セレナーデ(F.シューベルト 作曲)

部〈歌&尺八&ピアノ〉

〔秋によせる日本の抒情〕──日本歌曲と共に──
メゾ・ソプラノ:青山恵子

  1. 赤とんぼ(三木露風 作詩/山田耕筰 作曲)
  2. 紅葉(高野辰之 作詞/岡野貞一 作曲)
  3. 里の秋(斎藤信夫 作詞/海沼 実 作曲)
  4. 村祭(作詞者不詳/南 能衛 作曲)
  5. 里ごころ(北原白秋 作詩/中山晋平 作曲)
  6. 虫の声(作詩/作曲者不詳)
  7. 白月(三木露風 作詩/本居長世 作曲)
  8. かやの木山の(北原白秋 作詩/山田耕筰 作曲)
  9. 落葉松(野上 彰 作詩/小林秀雄 作曲)
  10. 花盗人(鶴岡千代子 作詩/平井康三郎 作曲)

〈アンコール:あざみの歌(横井 弘 作詞/八州秀章 作曲)〉
〈アンコール:故郷(高野辰之 作詞/岡野貞一 作曲)〉


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プロフィール

高橋法聖

琴古流尺八を太田陵童(盛岡)、東京において加藤正明、後に横山勝也の各氏に師事。また、フルートを岩上正彦、尾藤京子氏に師事する。

〈主な演奏活動〉

  • 1982年の尺八リサイタルに対し岩手県芸術選奨受賞。その後、多くのリサイタルやコンサート活動を行う。
  • 「現代作曲展’82」や日本作曲家協議会JFC東北主催「現代の響き」(1992年)等で多くの現代曲を初演。
  • 洋楽とのセッションも多く、一流ジャズバンドとの共演や特に歌曲を中心とした「詩と音楽の会」主催の「新しい日本の歌」新作発表会(朝日生命ホール)では、2001年までに多数出演をし、平井康三郎作曲の歌曲初演に参加。

〈 “ 竹の響 ” シリーズ〉

  • 高橋法聖尺八コンサート「一瞬を永遠に生きる」(スタジオK:2007年)
  • 高橋法聖尺八コンサート「遠い日の歌」(エプタ・ザール:2008年)
  • 高橋法聖尺八演奏会「吹禅一如」(銀座王子ホール:2009年)
  • 高橋法聖尺八リサイタル「夢幻の如く」(銀座王子ホール:2010年)

〈海外での演奏〉

  • フランス大使館推薦パリ公演、第一回日伊文化交流フェスティバル出演(1986年)
  • オーストラリア世界万国博覧会に日本催事委員会の要請により出演(1988年)
  • アメリカ、オレゴン州の私立大学協会主催により3つの大学で公演(1989年)
  • フランスで開催された世界民族音楽舞踊祭(in SAINTES)、GANNAT音楽フェスティバルへの招待演奏(1998年)

以上を含め、これまでイタリア・オランダ・ドイツ・アメリカ・イギリス・スウェーデン等の各国で数多くの公演を行う。

〈現在〉

らんぽ社竹心会会員、国際尺八研修館所属、現代邦楽会会員、琴古流尺八師範。
東京、盛岡を中心に国内外で演奏活動を行う。

〈ディスコグラフィ〉

  • 「春まだ浅く」〔1992年 日本コロムビア(株)〕
    和楽器による抒情組曲:作曲・構成 平井康三郎
  • 「石川啄木」〔1992年 東芝EMI(株)〕
  • 「初恋」〔1995年 日本コロムビア(株)〕
  • 「遠い日の歌」〔2009年 Northern Lights Records〕
  • 「竹の響」超大管尺八による〔2011年 ムーンドリーム企画〕 他
青山恵子

東京藝術大学声楽科卒業、同大学院博士課程修了。声楽を森山俊雄、須賀靖和、畑中更予、邦楽を西垣勇三、平井澄子、民謡を本條秀太郎、早坂光枝の各氏に師事。1987年声楽では日本初の博士号を、テーマ「日本歌曲の歌唱法の実践的研究」〜伝統音楽との接点〜で取得。博士号取得記念リサイタル「安達ヶ原の鬼女」サントリーホールを開催。その後も洋楽と伝統音楽の歌唱法の融合を研究し、邦楽器伴奏の作品や語り物、モノオペラなど様々なジャンルに取り組み、これらを取り入れたシリーズ「日本の詩コンサート」を定期的に開催。また「仲良し三人プリマ〜白いうた青いうた」コンサート、オペラでは室内歌劇場「浅芽ヶ原」(宮木)、新国立劇場「黒船」(お松)、室内歌劇場「星の王子さま」(狐)、日本歌曲セミナー講師、合唱団ヴォイストレーナーなど広く活動している。2011年2月には、長年ニューヨークにおいて活動する “ ミュージック・フロム・ジャパン(三浦尚之主宰)” の音楽祭に、初の声楽家として招かれた。1975年四谷文子主宰・波の会「第1回日本歌曲コンクール」1位、98年ミュージックペンクラブ「コンサート・パフォーマンス賞」。CDに「青山恵子名歌集〜紡ぎゆく歌ものがたり」、中島はる作曲「白い曼珠沙華」、増本伎共子作曲「あはれ」、新実徳英作曲「白いうた青いうた」、猪本隆作曲「語り歌曲の世界」「悲歌」などがある。島根県出雲市出身。東京室内歌劇場会員。

青山音楽事務所
http://www.saturn.dti.ne.jp/~machida/

原なぎさ

武蔵野音楽大学ピアノ科卒業。1989年より平井康三郎音楽講座の専属伴奏を務めながら、各地にて同氏によるコンサート、公開レッスン等に出演、研鑽を積む。1992年より2000年まで詩と音楽の会主催「新しい日本の歌」発表会に出演。現音、JFCアンデパンダン等の新譜発表にも起用される。「平井康三郎歌曲の世界」(2004年)、「水と影」(小林秀雄歌曲 2006年)をはじめ、日本の作曲家の作品に焦点をあてたコンサートを開き、好評を得るなど、特に日本歌曲の伴奏を中心に活動している。榛名梅の里音楽祭奨励賞受賞、第10・11回カワイクラシックオーディション伴奏部門入賞。東京室内歌劇場器楽会員。日本演奏連盟会員。
ピアノを杉山千賀子、木嶋瑠美子、W・ウェーバージンケに、伴奏法を故 平井康三郎、塚田佳男、川崎操、三上かーりん各氏に師事。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏/作曲よりも制作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサーに。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの『世界の民族音楽』でDJを担当しながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組制作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念 DVD』をはじめ、これまでに関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。

(記事公開日:2011年11月21日)