Sound of 和楽 series3
2010年4月16日(金)開催
(東京表参道・コンサートサロン「パウゼ」)
“音楽を和やかに気軽に楽しむ”という趣旨で開かれている全6回シリーズのコンサート、Sound of 和楽。第3回は春にちなみ、日本が生んだ稀代の天才音楽家、宮城道雄作の「春の海」をはじめとする親しみやすいプログラム。優れた演奏が聴けるのはもちろん、丁寧でやさしい解説も交えた、上質なひとときの模様をお送りいたします。
日本音楽の世界を知り、気軽に楽しむことができるコンサート
文:じゃぽ音っと編集部
東京、表参道に面するコンサートサロン「パウゼ」。街路樹やブティックが道沿いに立ち並ぶ、おしゃれな街にふさわしいこのサロンで、箏曲家、亀山香能師が主催するSound of 和楽が開催された。シリーズ3回目のテーマは“春”。季節の移ろいとともに暮らす日本人にとって、とりわけ春への思いは強い。日本の伝統芸能や音楽にもその思いは今に伝えられている。
気軽に上質な音楽に親しみ、和やかに楽しむことができるこのシリーズ。今回、武蔵野音楽大学教授・薦田治子氏の丁寧な解説や演者との和やかな会話とともに、古今の日本音楽の、目配りが効いた演目の数々を堪能することができた。
演目のイントロダクションとなった「春の海」は一聴するだけでお正月や和の雰囲気を連想させる。天才音楽家、宮城道雄が鞆の浦(※註)をイメージし、主旋律と伴奏という西洋音楽の手法を取り入れ、昭和4年に尺八と箏の二重奏で発表した名作。その後ヴァイオリンのルネ・シュメーを主旋律のパートに迎えたヴァージョンで世に広まった。
まずヴァイオリンと箏の二重奏。優美なヴァイオリンの音色ときらびやかな箏の音色が相対しながら調和していくアンサンブルは、西洋音楽になじみ深くなった昨今の日本人の耳にも自然としみこんでゆく。そのあと、尺八でのヴァージョンの最初の部分が演奏され、期せずしてそれぞれの楽器の持ち味が楽しめた。
西洋音楽に対し、日本古来の伝統のアンサンブルは箏曲の古典「臼の声」で聴く。当財団の邦楽技能者オーディションに合格、CDを発表したばかりの山田流箏曲の演奏家、鈴木真為を含む若手4人での合奏。西洋の主旋律、伴奏を分けるのとは異なり、それぞれの音と声が対等にあり、それぞれの色彩を出しあいながら、ひとつの合奏の形を作り上げていく。季節の移ろいをテーマにした弾き歌いの歌詞だが、「うす」の言葉をちりばめ、情景描写に加え、恋愛感情も織り交ぜた粋なもの。
休憩をはさんだのち、中能島欣一の「清流」。箏という楽器の特性を知り尽くした中能島が、箏独奏でありながら両手で弦を爪弾く重奏のような形で、水の雫や川の流れを掬い上げた傑作。こちらは亀山香能師の箏独奏。水のさまざまな様態の、巧みで精緻な描写にうっとりと聴き入った。
最後に、春といえばやはり「桜」。「桜ファンタジーII」では、四つの楽器――三弦、尺八と箏、十七弦のアンサンブルにより、主旋律と伴奏、高音から低音までをカヴァーし、ダイナミックな響きが表出する。おなじみの情趣あるメロディに、変奏部分が加わって、会場は和の響きで爛漫となる。いったん終演後、ステージに出演者全員が集い、その伴奏にあわせ聴衆ととも「桜」を合唱するという心温まる趣向。
春を感じながら、さまざまなアンサンブルの形が披露された今回のコンサート。この“Sound of 和楽”は、邦楽に馴染みがないと感じている方でも、繊細で奥行きのある日本音楽の世界を知り、気軽に楽しむことができる貴重なシリーズだと言えるだろう。
※註
鞆の浦(とものうら)
広島県福山市。最近では架橋計画をめぐり、さまざまな論議を呼んでいる。
●関連作品
●プログラム
■宮城道雄作曲「春の海」
箏 長瀬淑子 Vl 千原泰子
■藤尾勾当原曲・三世山登松齢移曲作曲「臼の声」
箏 鈴木真為 中彩香能
三弦 樋口千清代 尺八 川村葵山
■中能島欣一作曲「清流」
箏 亀山香能
■玉木宏樹作・編曲「桜ファンタジーII」
箏 長瀬淑子 十七弦 亀山香能
三弦 中彩香能 尺八 川村葵山
(記事公開日:2010年04月16日)