石丸亭〜秋の夜噺

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2006年8月31日(木)開催
(東京秋葉原 石丸電気SOFT2)

注目の街、東京秋葉原にある石丸電気SOFT2内に作られた寄席”石丸亭”。人気の落語を身近なものとして、多くの方が気軽に楽しんでいただけるようにと誕生しました。木戸銭わずか500円、ビクター落語CDをご購入された方はご招待、さらに9月29日10月27日と予定されている落語ファン大注目のイベントをレポートします。

“萌えの落語『石丸亭』”

文:星川京児

秋葉原に新しい席、誕生

石丸電気SOFT2入り口にちょうちん。"石丸亭"誕生。
石丸電気SOFT2入り口にちょうちん。”石丸亭”誕生。

いま落語がブームだそうです。落語を題材にしたドラマや、しばらく途絶えていた大看板の襲名があったりと、これまでこの世界にあまり縁のなかった人たちまで巻き込んだ結果とのこと。そういえば浅草や上野では平日の立ち見も珍しくな

い。相変わらず池袋はゆったりしていますが。

イベントスペースが本格的な寄席に変身
イベントスペースが本格的な寄席に変身

そんな折り、また一つ新しい席が誕生。それも今を時めく秋葉原は老舗の石丸電気SOFT2ときた。若手真打ち、期待の二つ目、まさに「萌えー」の新鮮さ。これでは期待するなという方が無理でしょう。とにかく記念すべき幕開きは五街道雲助(ごかいどう くもすけ)門下、期待の星二人。

旬の囃家、五街道佐助

五街道佐助
五街道佐助

まずは五街道佐助(ごかいどう さすけ)で「金明竹(きんめいちく)」。前半の傘や猫の貸し借りの「骨皮(ほねかわ)」と後半の道具を早口で喋る「金明竹」と二つの噺を合わせたもの。前座から真打ちまで多くの噺家が取りあげるネタです。ビクター落語では先代の三遊亭金馬師匠がお手本のような噺を聴かせてくれます。なかには三遊亭円丈師匠のように「名古屋版金明竹」もあってそれなりに工夫も凝らせる爆笑噺。それだけに聴く方もつい比べてしまう。それも寄席でさらりと流すならともかく、ここでは時間がたっぷり。いくら枕で伸ばしてみても、本編がしっかりしていないとちぃと辛い。そこはさすがは芸にうるさい五街道一門。きっちりと笑いをとってくれました。

来年秋には真打ち昇進も決まり、それもあの古今亭志ん生が名乗ったという隅田川馬石を継ぐというから凄い。といっても19回も名前を変えた志ん生が一月だけ使ったという、まるで「代書屋」の露天商経験なみの名跡。十分にシャレも効いています。

とまれ、真打ち目前の二つ目という、まさに旬の噺家であります。

桃月庵白酒の天然のふら

桃月庵白酒
桃月庵白酒

トリは、といっても二人だけですが、三代目桃月庵白酒(とうげつあん はくしゅ)。去年の秋に真打ち昇進したばかりの新鋭。師匠の五街道雲助も変わっていますが、大師匠の金原亭馬生(きんげんてい ばしょう)一門にも聞き慣れない亭号が散見。初音屋、天乃家、鈴の家にむかし家ですよ。孫弟子が桃月庵で、来秋には隅田川とくるのですから……。

さて演目は「転宅(てんたく)」。別名「義太夫がたり」ともいう、先代金馬や小圓朝師匠が得意とした噺です。そのまんま演っても面白いのですが、泥棒とお妾さんのやりとりがあまりくどくちゃいけません。つい騙される泥棒に感情移入したくなるような、ほんわかとした味わいが欲しいところ。この点、白酒師匠には、なんとなく騙されそうな。といって、それが決して致命傷にはならないだろうと思わせる、天然のふら(注)がある。絵的にも柄に合ってます。古典ですが、現代にも十分置き換えられるという説得力があり、将来大化けしそうな予感を持ったいい噺家さんでした。

ひょっとしたらこの『石丸亭』。幕開きから「萌えー」の域は越えているのかもしれません。

注:落語で使われる言葉で、キャラクター、個性といったその人特有の面白味などを指す。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏したり作曲するより製作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサー。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの「世界の民族音楽」でDJを担当したりしながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組製作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念DVD』をはじめ、関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。

(記事公開日:2006年08月31日)