日本伝統文化振興財団創立25周年記念公演

「伝統芸能の現在と未来~古典継承の最前線を聴く~」(1)

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当財団設立から25年目を迎えた本年、発起人の皆様の呼びかけに200名を超える各界の方々がお集まり下さいまして、去る7月19日東京白金八芳園内で「日本伝統文化振興財団創立二十五周年を祝う会」が催されました。また当財団の記念事業と致しまして、「伝統芸能の現在と未来〜古典継承の最前線を聴く〜」を、平成30年度(第73回)文化庁芸術祭協賛、公益財団法人新日鉄文化財団助成公演として、11月6日東京千代田区の紀尾井ホールで開催致しました。公演当日は、彬子女王殿下のご臨席を賜り、また20数か国の在日大使館から、大使・公使などたくさんの海外外交官の方々がご出席下さいました。

ビクターを基金元として平成5年に設立されました当財団は、発足以来今日まで日本の伝統文化の記録・保存を主業務として、四半世紀にわたり録音・映像作品の刊行を続け、これまで2000タイトルを超える伝統芸能ディスクの多くを廃盤にすることなく現在も世に送り続けています。また、こうした記録・保存事業の推進と共に、伝統芸能の幅広い分野のすべてを対象に、それぞれのジャンルの将来を担う若い世代の演奏家を毎年選出し、その優れた技芸を記録したCD、DVDを公刊する「日本伝統文化振興財団賞」を設立し、22年間にわたり毎年1名顕彰して参りました。

この度の記念公演には、様々な伝統芸能ジャンルから選ばれた22名の受賞者中から19名の方々が出演され、全10種目の芸能ジャンルで優れた技芸をご披露下さいました。まさに、古典芸能の「ガラコンサート」と呼ぶに相応しい本公演の一端を、演目解説、詞章、出演者プロフィールなどのレポートを通じて、皆様にご紹介申し上げたいと存じます。

なおこの場をお借りして、財団四半世紀の歩みを振り返り、今後の新たな目標へと向かう節目の催しとして企画致しました本公演の開催に際し、ご協賛を賜りました文化庁様、ご助成を賜りました新日鉄住金文化財団様、ご出演下さいました財団賞受賞者の皆様、特別出演を賜りました人間国宝の新内仲三郎様、竹本駒之助様をはじめ助演者の皆様、本公演の開催にご尽力を賜りましたたくさんの方々に心より厚く御礼を申し上げます。

 

公益財団法人日本伝統文化振興財団

理事長 藤本 草

 


「伝統芸能の現在と未来 ~古典継承の最前線を聴く~」

2018年11月6日(火)18時開演 紀尾井ホール

【プログラム】

  1. 狂言「柿山伏」
  2. 琉球舞踊「かせかけ」(古典女踊「綛掛」)
  3. 上方舞「ゆき」
  4. 新内「日高川 飛込みの場」
  5. 清元「鳥刺」
  6. 女流義太夫「本朝廿四孝 十種香の段」
  7. 地歌「根曳の松」
  8. 大和楽「おせん」
  9. 箏曲「楓の花」
  10. 長唄「勧進帳」

プレゼンター 野川美穂子(東京藝術大学音楽学部講師)

野川美穂子

【公演内容】

(文中敬称略。★財団賞受賞者)

第1部(5演目)

1、 狂言「柿山伏」

シテ(山伏) 山本泰太郎★
アド(柿主) 山本則孝

(解説)

狂言は、能と共に約650年の歴史を持つ、現存する世界最古の舞台芸術のひとつで、同じ猿楽から発展しましたが、歌舞を中心とした能とは異なり、対話を中心とした科白劇となりました。大がかりな舞台装置は用いず、言葉や仕草によってすべてを表現します。狂言の大きな特徴は「笑い」で、中世の庶民の日常や説話などを題材に人間の習性や本質を鋭く切り取り、「笑い」や「おかしみ」に転じます。様々な登場人物が織りなす普遍的な人間の姿を描きます。2008年、能とともに世界無形文化遺産に登録されました。

《柿山伏》は狂言演目として最もポピュラーな作品のひとつで、あらすじは次の通りです。「修行を終えた山伏が家路の途中でのどが乾いてしまいます。ふと見あげると柿がたわわに実っていることに気づき、木に登って柿を食べて渇きを癒やしますが、柿の木の持ち主に無断で柿を取っていたことに気づかれます。持ち主から木の上にいるのは人ではない、と言われるままに鳴き真似をしますが、最後に鳥なら飛ぶものと言われ、飛び降りて怪我をしてしまいます。」
自分の罪を隠そうとする人の姿を描きつつ、権威の象徴としての山伏への風刺も込められた作品です。

【プロフィール】
山本泰太郎(やまもと やすたろう)
《能楽師狂言方大蔵流》/第15回(2011年)受賞者

1971年埼玉県狭山市生まれ。故・山本則直長男。父及び山本東次郎に師事。76年景英後援会にて狂言「靭猿(うつぼざる)」の小猿で初舞台を踏む。88年国立能楽堂開場五周年記念にて「千歳(せんざい)」を披く。91年山本会別会にて「三番三(さんばそう)」を披く。92年研究会別会にて語「那須」を披く。94年国立能楽堂狂言の会にて「獅子聟(ししむこ)」を披く。96年山本会別会追善公演にて「釣狐(つりぎつね)」を披く。2005年山本会別会にて「花子(はなご)」を披く。11年1月、平成22年度(第65回)文化庁芸術祭において、「第29回花影会における『月見座頭』の演技」により芸術祭優秀賞を受賞。

(記事公開日:2018年12月25日)