日本伝統文化振興財団創立25周年記念公演

「伝統芸能の現在と未来~古典継承の最前線を聴く~」(1)

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2、 琉球舞踊「かせかけ」(古典女踊「綛掛(カシカケ)」)

舞踊 佐辺良和★
地謡 歌・三線 仲村逸夫
箏 池間北斗
笛 入嵩西 諭

(解説・ 三隅治雄)

「琉球舞踊と男芸」

琉球舞踊は、明治維新前まで存続した琉球王国の宮廷が育成し、廃藩置県後、商業演劇の俳優及び踊師匠、舞踊家が次々に継承し、洗練・発展させて来た舞台芸能である。歴史的には、島々の民俗芸能や、神女の群舞に見られるコネリ(手先のわざ)・ナヨリ(しなやかな身のこなし)と呼ぶ振りなどが基になった。十六世紀中国から伝来し改良した三線(サンシン)を士族教養の楽とし、短篇の叙情歌を南方伝来の節に乗せてうたう歌曲を生み、それを伴奏に踊るヤマトの風流踊(ふうりゅうおどり)の構成=出端(では)・中踊・入端(いりは)に倣った汎東アジア的な踊が創造された。演者は士族の子弟で、丸結(マーユイ)髪の未成年男子が若衆踊・女踊を、片髻(かたかしら)髪の成年男子が二歳踊・老人踊を勤めた。太平洋戦争後は女性が主流を占めたが、近年は男芸復活が叫ばれ、国立劇場・県立芸大などが養成を行い、年々優秀な人材を生んでいる。佐辺良和はその逸材の一人である。男芸が創成した女踊は、根本に士道錬成の若衆の気概・品格を秘め、爽やかな色気と凛とした艶を匂わせる。
曲の内容は、機織りの糸巻きに愛を籠めて作業する若妻の姿と心を描く。右肩袖脱ぎの踊手が右手に枠わく(綛糸を巻き返す筒状の道具)、左手に綛かせ(紡いだ糸を巻き取るH形の道具)を持つ。

(詞章)
《出羽(ンジファ)》(干瀬(フィシ)節)
七読と廿読 綛掛けて置きょて
里が蜻蛉羽 御衣よすらね
(歌意)たくさんのきれいな細糸を紡いで綛と枠で巻き整え、蜻蛉の羽のような薄く透き通った着物を愛するお方に着ていただきたくて、糸拵えに出掛けるわたしです。
《中踊(ナカウドゥイ)》(七尺(シチシャク)節)
枠の糸かしに 繰り返し返し
掛けて俤の まさて立ちゅさ
綛掛けて伽や ならぬものさらめ
繰り返し返し 思ど増しゅる
(歌意)糸を巻き取る枠を繰り返し回しているとあなたの面影が立ち昇って心が燃えて来るのです。アア、綛を掛けて気を紛らわせようとしても、何の慰めにもならない。糸を繰り返し回せば回すほど、思いが増すばかり…。
《入羽(イリファ)》(サアサア節)
綛も掛けみちて できゃよ立ち戻ら
里や我が宿に 待ちゅらだいもの
(歌意)綛掛も終わったのでサア帰りましょう。愛しいお方が家で待っていて下さるのですもの。

【プロフィール】
佐辺良和(さなべ よしかず)
《琉球舞踊家、組踊立方》/第19回(2015年)受賞者

1980年沖縄県那覇市生まれ。86年琉球舞踊世舞会会主、又吉世子に師事。99年沖縄県立芸術大学邦楽専攻楽劇コース入学。2005年、同大学大学院音楽芸術研究科舞台芸術専攻修了。08年国立劇場おきなわ第一期組踊研修修了。12年琉球舞踊世舞会師範免許取得。12年韓国総合芸術大学招聘教授(琉球舞踊)を務め、 13年から沖縄県立芸術大学琉球芸能専攻非常勤講師(組踊)。18年琉球舞踊世舞流「良和の会」会主拝受。

「国立劇場おきなわ」など沖縄県内の組踊、琉球舞踊、沖縄芝居公演で活躍するほか、全国各地および海外の公演にも参加する。後進の指導や学校公演にも積極的に取り組んでいる。「沖縄タイムス芸術選賞」新人部門・舞踊グランプリ(2001年)をはじめ受賞多数。伝統組踊保存会伝承者、琉球舞踊保存会伝承者。

3、 上方舞「ゆき」(詞 流石庵羽積 / 曲 峰崎勾当)

上方舞 山村友五郎★
歌・三弦 菊央雄司★
胡弓 川瀬露秋★

(解説)

上方舞は、江戸時代中期から末期にかけて京都・大坂で隆盛した舞踊で、座敷で舞う素踊りの「座敷舞」、特に伴奏に地歌を用いる「地唄舞」が有名です。上方舞四流と呼ばれる流派の内、山村流は最も古く、大坂で発祥しました。初世山村友五郎が歌舞伎番付に振付師としてその名を載せた1806年を創流の年と定めています。友五郎は能から型を取り入れ、座敷で女性にも舞えるように、舞と地歌を結びつけました。それが地歌を用いる舞の始まりであると伝えられています。
《ゆき》は地歌を代表する名曲で、間奏部分は「雪の合方」として様々なジャンルの邦楽作品に転用されています。詞章には、大坂南地の芸妓が出家した後に、過ぎし日の我が身を回想した切ない心情が歌われています。山村流の魂が込められているといわれ、地唄舞としても代表的な演目で、谷崎潤一郎の『細雪』には、四人姉妹の末娘、妙子が山村流「ゆき」を舞う姿が描かれています。
(詞章)
〽花も雪も払へば清き袂かな、ほんに昔の昔のことよ、わが待つ人の我を待ちけん、鴛お鴦しの雄鳥にもの思い羽の、凍るふ衾すまに鳴く音もさぞな、さなきだに、心も遠き夜よ半わの鐘。
〽聞くも淋しき独り寝の、枕に響く霰の音も、もしやといっそ堰きかねて、落つる涙の氷つら柱らより、辛き生命は惜しからねども、恋しき人は罪深く、思はぬことの悲しさに、捨てた浮き、 捨てた憂き世の山かずら。


 

【プロフィール】
山村友五郎(やまむら ともごろう)
《上方舞》/第18回(2014年)受賞者

1964年大阪生まれ。祖母の山村流四世宗家・若、母・糸のもと、幼少より修業する。92年六世宗家山村若を襲名。流祖・友五郎よりの歌舞伎舞踊と、京阪神で発展した座敷舞(地唄舞)という二つの流れを大切に、伝統の維持継承に力を注ぐ。2006年創流二百年祭を開催。14年長男・侑に若の名を譲り、山村友五郎(三代目)を襲名する。

一門の舞踊会「舞扇会」を主催する他、「五耀會」を結成し日本舞踊の普及に努める。文楽、上方歌舞伎、宝塚歌劇、OSKの振付、舞踊指導、門下育成に従事。流儀に伝わる演目と浮世絵や文献から流祖振付の変化舞踊を復元するなど古典復曲にも意欲的に取り組む。国立文楽劇場養成科、宝塚歌劇団日本舞踊講師。大阪芸術大学非常勤講師。01年文化庁芸術祭新人賞、06年芸術選奨文部科学大臣新人賞、07年文化庁芸術祭優秀賞、10年芸術選奨文部科学大臣賞、15年日本芸術院賞など受賞多数。

菊央雄司(きくおう ゆうじ)
《地歌箏曲・平家》/第21回(2017年)受賞者

1977年大阪府生まれ。89年五代目菊原光治に入門、97年「菊央」の称号を授かる。99年上方系胡弓を菊津木昭に師事。2000年平家琵琶を名古屋の今井勉に師事。長谷検校記念第6回全国邦楽コンクール最優秀賞・文化庁奨励賞受賞。02年文化庁新進芸術家国内研修員に認定される。04年大阪舞台芸術新人賞受賞。05年国立文楽劇場主催「舞踊邦楽公演」出演、初リサイタル開催、大阪市「咲くやこの花賞」受賞。06年京都市立芸術大学日本伝統音楽研究センター共同研究員。07年当道音楽会にて中勾当の職格を取得。12年大阪文化祭賞奨励賞受賞。15年平家語り研究会会員となる。同年文楽研修生講師に任命される。16年大阪音楽大学講師となる。

国内外の演奏会、舞踊の会、放送などに出演多数。琴友会会員、公益社団法人当道音楽会会員、平家語り研究会会員、菊央雄司地歌の会主宰。

川瀬露秋(かわせ ろしゅう)
《地歌箏曲・胡弓》/第20回(2016年)受賞者

1967年福岡県久留米市生まれ。7歳より箏、三弦を三原幽香に師事。15歳より生田流箏曲白秋会家元、川瀬白秋の内弟子として箏、三弦、胡弓を学び、87年小林露秋の名を許される。2009年川瀬白秋の養女となり、11年「白秋会50周年記念演奏会」にて「阿古屋」を演奏、川瀬露秋改名披露。15年公益財団法人日本文化藝術財団「創造する伝統賞」受賞。同年「くるめふるさと大使」就任、同10月「第一回・川瀬露秋の会」を開催。

現在、九州系地歌を藤井泰和に師事し、三曲界と共に舞踊の地方、歌舞伎音楽(箏、三弦、胡弓)の演奏、編曲、音楽指導、後見に携わり、国内外にて演奏活動を行う。日本三曲協会理事、生田流協会理事、国立劇場養成課(竹本)講師、白秋会代表。

(記事公開日:2018年12月25日)