「落語」タグアーカイブ

『石丸亭』初春女流競艶

2007年1月11日(木)開催
(東京秋葉原 石丸電気SOFT2)

昨年8月にスタートした秋葉原の落語イベント”石丸亭”。木戸銭500円、または対象落語CDを石丸電気でご購入の方はご招待という、気軽に落語が楽しめる大好評イベント(今後のスケジュールはこちら)で、早くも5回目、新年1月11日に開催されたのは”初春女流競艶”。新進気鋭の女性2名、柳亭こみちさん(落語)、神田ひまわりさん(講談)を迎えた石丸亭をレポートします。

初春や秋葉に萌え出た花二つ

文:星川京児

【萌え】の本拠地で、初春女流競演

老若男女が開演を待ち構える
老若男女が開演を待ち構える

なにより「初春女流競艶」というタイトルがいいですね。これに「若手、新進」と付けてもいいのではないでしょうか。こみちさんがマクラで、ヴィジュアル系ではないと断っていましたが、どうしてお二方とも十分に美しい、と思います。

寄席仕様の石丸電気SOFT2入口
寄席仕様の石丸電気SOFT2入口

【萌え】の本拠地、秋葉原石丸亭でも違和感はありません。昨今増えてきたとはいえ、まだまだ露出の少ない女流落語家、講釈師。若さと美貌という【華】を活かすのを躊躇する必要はありますまい。

先が楽しみな柳亭こみち

愛くるしく刈り込む柳亭こみち
愛くるしく刈り込む柳亭こみち

柳亭こみちは昨年11月に二ツ目昇進なったばかりの、まさに新進気鋭の若手落語家。一所懸命ななかにも、どこかとぼけた味わいがあるのは、大師匠の小三治師を思わせます。

演題は「湯屋番」。若手から大看板まで、取り上げられることの多い噺ですが、それだけに噺家の個性が際だつともいえましょう。居候の苦労というか、図々しさというか、お馴染みのくすぐりから、番台の妄想シーンまで、一気に駆け上がる。動きも大きいし、どちらかというと主人公の若旦那に近い、若さと体力を要求されるものです。それに、昔の速記本など読むと、かなりどぎつい描写や、艶っぽい場面もありますが、そこは女流ならではの愛くるしさを武器に、楽しく刈り込んで、こみち流に仕上げていました。「初天神」「雛鍔(ひなつば)」のように子供の出てくる噺だけでなく、道楽者の若旦那も女流に向いているのかなあと思わせただけでも立派な収穫。先が楽しみです。

神田ひまわりの【読む】快感

黒紋付袴姿とひっつめ髪の神田ひまわり
黒紋付袴姿とひっつめ髪の神田ひまわり

神田ひまわりは名前からも判るように、神田一門の講釈師。師の神田山陽他界の後に、五代目柳亭痴楽に入門。協会は違えども期せずして柳亭対決と相成ったわけであります。

ということもあって、演じ方は落語風のバラエティ路線かと思いきや、これがフォーマットの決まった本寸法。女流の多い神田一門のなか、いかに個性を打ち出すかの結果がこの方向なら、まずは正解といえましょう。

採り上げた「五貫裁き」は落語でもよく高座にかかる大岡裁きもの。一般的に落語では「一文惜しみ」として演じられていて、あの昭和の名人圓生も得意にしてました。立川談志、志の輔の師弟は、談志が直接習った一龍斎貞丈に則って「五貫裁き」を使っているだけでなく、勧善懲悪を超越した独自の視点が痛快でした。上方でも桂南光がそのタイトルで演ってましたが、これまた関西弁ならではの不思議な緩(ゆる)さが心地よい。けっこう、演る人が表に出る噺のようです。

ひまわり版「五貫裁き」は、きっちり、オーソドックスに演じております。武張った奉行所シーンは当然として、軽妙な大家の太郎兵衛と初五郎の掛け合いなどのコントラスト。釈台を叩く張扇の響きもテンポよく、まさに語る、話すではなく【読む】を楽しむ快感。女流には珍しい黒紋付袴姿とひっつめ髪が、しっかり世界を創りあげています。

初春らしい、ほんわかとした空気が寄席を包み込んで、とてもいい御年玉でありました。

星川京児(ほしかわ きょうじ)

1953年4月18日香川県生まれ。学生時代より様々な音楽活動を始める。そのうちに演奏したり作曲するより製作する方に興味を覚え、いつのまにかプロデューサー。民族音楽の専門誌を作ったりNHKの「世界の民族音楽」でDJを担当したりしながら、やがて民族音楽と純邦楽に中心を置いたCD、コンサート、番組製作が仕事に。モットーは「誰も聴いたことのない音を探して」。プロデュース作品『東京の夏音楽祭20周年記念DVD』をはじめ、関わってきたCD、映画、書籍、番組、イベントは多数。