日本伝統文化振興財団創立25周年記念公演

「伝統芸能の現在と未来~古典継承の最前線を聴く~」(2)

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3、 大和楽「おせん」(詞 邦枝完二 / 曲 宮川寿朗)

唄 大和左京、大和久悠、大和久萌
三味線 大和櫻笙★、大和久喜子、大和久貴
蔭囃子 藤舎呂英★社中

大和楽は、1933年に大倉喜七郎(1882~1963)が創始した新たな邦楽のジャンルで、日本の伝統音楽の精髄を取り出すことを目的とし、三味線音楽の長所に洋楽の発声法や和声などを採り入れた自由な形式によって発展しました。当時の大倉財閥総帥であり、多方面の芸術にも造詣が深かった喜七郎自身も大和楽の作詞・作曲・演奏を行っています。作品には優美な楽曲が多く、現在も舞踊界でその多くが取り上げられています。
《おせん》は、江戸谷中の笠森稲荷の茶屋「鍵屋」の看板娘で、実在した「笠森お仙(1751~1826)」をモデルにした作品です。その当時、江戸三大美人と謳われたその艶姿は浮世絵となり、小説の主人公や芝居にも取り上げられました。曲の結びの「廻る」の部分は何とも大和楽調であり、聞きどころになっています。

(詞章)

〽行水のおせん描いた紅筆を、水に落とした夕間暮れ、廻り灯籠がくるりと廻る、江戸の昔を今の世の〽夢の雪岱(せったい)あで姿、帯は空どけ柳ごし 〽咲いた桔梗のひと片ひらが、仇に散ったか蚊帳の影 〽蝙蝠来い、暗燈の光をちょいと見てこい 〽道行のおせん隠した青すだれ、萩に流れる蚊遣りをよそに、廻り灯籠がくるりと廻る。


【プロフィール】
大和櫻笙(やまと おうしょう)
《大和楽三味線方》/第14回(2010年)受賞者

1977年東京都生まれ。父は大和楽二代目家元・大和久満(長唄三味線方、芳村伊十七)。初舞台は2歳。92年大和楽を創設した大倉家より大和櫻笙の名を許される。96年東京藝術大学音楽学部邦楽科に長唄三味線で入学。在学中に浄観賞を受賞。2000年同大学を卒業後、本格的に大和楽三味線の修業を始める。08年藤間流八世宗家家元・藤間勘十郎と「櫻舟」を結成。12年大和楽三代目家元を襲名。14年より「櫻響會」を主催。19年4月26日に「大和楽創設85周年記念演奏会」を国立劇場にて開催予定。

主に日本舞踊の地方として国立劇場などに出演するほか、テレビ、ラジオ、映画音楽にも出演。主な作曲作品は「初恋」「御殿の櫻」「日高櫻恋俤」「おちょぼ」「櫻舟」「バロン」など。キングレコードよりCD「大和楽・華」他、12枚をリリース。

4、 箏曲「楓の花」(詞 尾崎宍夫 / 曲 松阪春栄)

歌・箏(替手) 米川敏子★
歌・箏(本手) 遠藤千晶★

現代まで伝承されている箏曲=近世箏曲は、江戸時代初期の八橋検校(1614~85)がその当時まで使用されていた箏の音律を都節音階に改め、箏組歌や段物など優れた楽曲を創作したことを端緒とする箏伴奏の歌曲です。江戸時代を通じて平家琵琶や地歌とともに男性盲人音楽家が伝承を担いました。また、明治維新(1868)以降も創作活動が盛んに行われ、「春の海」で知られる天才箏曲家宮城道雄(1894~1956)をはじめとする数多くの演奏家の活躍によって、現在まで箏曲は最も人口の多い伝統音楽ジャンルとなっています。

《楓の花》は、京都の松阪春栄が1897年頃に作曲した高低二部の箏の合奏曲で、当時盛んに作曲されていた明治新曲と呼ばれる作品群のひとつです。詞章には京都の初夏の風物が歌われています。

(詞章)

〽花の名残りも嵐山、梢々の浅緑、松吹く風にはらはらと、散るは楓の花ならん。〽井堰を登る若鮎の、さばしる水の水み籠ごもりに、鳴くや河鹿の声澄める、大堰の岸ぞなつかしき。〽川上遠くほととぎす、しのぶ初音に憧れて、〽舟さし登し見に行かん、戸無瀬の奥の岩つつじ。

【プロフィール】
米川敏子 (よねかわ としこ)
《生田流箏曲》/第2回(1998年)受賞者

1950年東京生まれ。3歳より祖父、米川琴翁(研箏会初代家元)、母、初代米川敏子(人間国宝・文化功労者)から生田流箏曲、地歌三弦の指導を受ける。73年NHK邦楽技能者育成会18期卒業。古典から創作曲まで幅の広い演奏活動を行い、国際交流基金自主派遣の海外公演ほか多数。作曲数も多く、箏曲の枠を超えた活躍を続けている。
95年芸術選奨文部大臣新人賞、96年文化庁芸術祭優秀賞、2004年エクソンモービル音楽賞、07年芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。同年8月、米川裕枝改め二代米川敏子を襲名。11年紫綬褒章受章。15年日本芸術院賞受賞。平成30年度文化庁文化交流使。研箏会五代目家元、(公社)日本三曲協会常任理事、生田流協会常任理事、NPO法人日本音楽国際交流会理事、創邦21理事長、(公財)日本伝統文化振興財団評議員などを務める。くらしき作陽大学音楽学部特任教授。

遠藤千晶(えんどう ちあき)
《生田流箏曲》/第13回(2009年)受賞者

1972年福島市生まれ。3歳より母・遠藤祐子に、12歳より砂崎知子に師事。85年宮城会全国箏曲コンクール児童部第1位入賞。95年皇后陛下主催音楽会にて東京藝術大学卒業生代表として御前演奏。98年同大学院修了。2002年長谷検校記念全国邦楽コンクール最優秀賞、文部科学大臣奨励賞受賞。07年文化庁芸術祭新人賞受賞。09年東京シティ・フィルを招いて「箏リサイタル—凜 soloist—」を開催。10年NHK東北ふるさと賞、みんゆう県民大賞受賞。11年「箏リサイタル傅—つたえ—」を開催(12年ライブ盤CDとDVD発売)。13年「箏リサイタル—brillante—」を開催(ライブ盤CDとDVD発売)。13年神奈川フィル、オーケストラ・アンサンブル金沢、14年日本フィル、15年シアトル交響楽団、関西フィルと協演。16年日フィルを招いて「箏リサイタル ザ・コンチェルト」を開催(17年ライブ盤CDとDVD発売)。生田流箏曲宮城社大師範、宮城合奏団団員、妙祐会会主。

(記事公開日:2018年12月25日)