遠藤千晶 箏リサイタル brillante(ブリランテ)

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2013年10月27日開催
東京・紀尾井ホール

2009年第13回日本伝統文化振興財団賞を受賞したのちも、著しい進境を示している箏演奏家・遠藤千晶さん。東日本大震災の2011年に開いた「傳―つたえ―」以来となる今回の箏リサイタルのテーマは「brillante(ブリランテ)」。「輝いて」「華やいで」という意味のイタリア語にふさわしく、宮城道雄の名曲2曲に、古典曲、現代曲を交え豪華な賛助出演を迎えて披露された、華やかなリサイタルの模様です。なお本リサイタルをライブ収録したCD、DVDが発売されます。詳しくはこちらをご覧ください。

観客ひとりひとりの心に刻まれた華やかなリサイタル

文:じゃぽマガジン編集部

「ロンドンの夜の雨」
「ロンドンの夜の雨」

 観客からの拍手の中、舞台真ん中にある一面の箏へ向かう遠藤千晶さん。リサイタル最初の曲は、宮城道雄作曲「ロンドンの夜の雨」(1953年)。ひとつひとつの音を丁寧にとらえた詩情豊かな演奏にひき込まれます。

 続く2曲目は演奏される機会の少ない廣瀬量平作曲「いざよい(十六夜)―箏と尺八のための―」(1983年)。満月の翌日である陰暦16日の夜、十六夜(いざよい)の月は、ためらいながら上る月で知られています。ゆったりと長い箏の独奏から始まり、藤原道山さんの尺八がすっと、まるで月を隠す霞が晴れていくかのように加わります。「進みつつ時にためらい、とどまっているかにみえて進行するという我々の伝統に根ざす時間感覚を、月のイメージとも併せて作曲した」という作曲者の想いと重なり、透徹した空気を感じさせる演奏でした。

 3曲目は中能島欣一作曲「さらし幻想曲」(1943年)。かつて宇治川の布ざらしを題材にして作られたと伝わる地歌の「さらし」は、のちにさまざまな形に発展した邦楽曲における重要なテーマのひとつ。昨今は箏と三弦、尺八で演奏されることの多い名曲を、今回はオリジナルの形式に則り、遠藤さんの箏、山登松和さんの三弦と神田寛明さんのフルートによる三重奏で披露。リズミカルで精緻な演奏に酔いしれます。


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 休憩ののち、石川勾当作曲、八重崎検校箏手付による「八重衣(やえごろも)」。「新青柳」「融(とおる)」と並んで“石川の三つ物”と呼ばれる大曲のひとつ。三弦に藤井泰和さん、尺八に善養寺惠介さんという二人の名手を賛助出演に迎えます。小倉百人一首の中より「衣」にちなむ和歌5首を春夏秋冬の順に配した歌、華やかさいっぱいの手事。古典曲の奥行き、深さをしっかりと感じさせる素晴らしい一幕となりました。

 終曲は宮城道雄作曲「手事(てごと)」(1947年)。第一楽章「手事」、第二楽章「組歌風(くみうたふう)」、終楽章「輪舌(りんぜつ)」の三楽章からなる作品で、ベートーヴェンのピアノソナタを聴いて触発された宮城による“箏ソナタ”と言うべき内容ながら、日本の箏曲古来の奏法が用いられていることで知られています。「本日は、私自身の原点である、宮城道雄先生の箏独奏曲にはじまり、結びます」とプログラムに綴っていた遠藤さん。ときに奔流のように激しく、ときにしっとり穏やかに会場を包み込む箏の音。最後のフレーズを弾き終わると観客からの大きな拍手が会場に広がりました。


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 宮城曲、古典曲、現代曲――それぞれ個性の異なる5曲が遠藤さんの華やかな箏の音を通してひとつにまとめられたリサイタル。その素晴らしさは観客ひとりひとりの心にしかと刻まれたに違いありません。

写真撮影:諸永恒夫

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プログラム

  1. ロンドンの夜の雨(宮城道雄作曲)
     箏:遠藤千晶
  2. いざよい(十六夜)―箏と尺八のための―(廣瀬量平作曲)
     箏:遠藤千晶
     尺八:藤原道山
  3. さらし幻想曲(中能島欣一作曲)
     箏:遠藤千晶
     三絃:山登松和
     フルート:神田寛明
  4. 八重衣(石川勾当作曲・八重崎検校箏手付)
     箏:遠藤千晶
     三絃:藤井泰和
     尺八:善養寺惠介
  5. 手事(宮城道雄作曲)
     箏:遠藤千晶

プロフィール

遠藤千晶

福島県福島市出身。
3歳より母・遠藤祐子に箏の手ほどきを受け、12歳より砂崎知子に師事。13歳の時に、第21回宮城会主催全国箏曲コンクール演奏部門児童部第1位受賞。東京藝術大学音楽学部卒業、同大学大学院修了。大学卒業時には、卒業生代表として皇居内桃華楽堂にて催された皇后陛下主催音楽会にて御前演奏。第41回NHK邦楽技能者育成会卒業演奏会においては、コンサートミストレスを務める。NHK邦楽オーディション合格。第8回長谷検校記念全国邦楽コンクールにおいて最優秀賞(全部門第1位)および文部科学大臣奨励賞を受賞。門下生による[CRYSTALLINE NOTES]を結成。現在までに全7回のコンサートを開く。ベトナム・ハノイにて行われたASEM(アジア・欧州首脳会合)に先立つ参加各国文化祭において、日本代表としてコンサートを行う。

2007年9月    福島市音楽堂大ホールにて「遠藤千晶箏リサイタル―華―」を開催。
10月    東京・紀尾井小ホールにて「遠藤千晶箏リサイタル―挑み―」を開催。その演奏に対して、第62回文化庁芸術祭新人賞を受賞。

2008年4月    国立劇場主催公演「明日を担う新進の邦楽・舞踊公演」に出演。
11月    福島市音楽堂大ホールにて「妙祐会40周年記念箏曲演奏会」を開催。

2009年5月    紀尾井ホールにて、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団を迎えて「遠藤千晶箏リサイタル―凛―soloist―」を開催。
第13回日本伝統文化振興財団賞を受賞。

8月    日本伝統文化振興財団より、DVD「第13回日本伝統文化振興財団賞 遠藤千晶」を発売。

2010年3月    NHK東北ふるさと賞受賞。
4月    東京交響楽団と共演。
5月    みんゆう県民大賞受賞。
8月    福島県しゃくなげ大使に任命される。
2011年10月    紀尾井ホールにて「遠藤千晶箏リサイタル傳―つたえ―」開催。
2012年4月    ビクターエンタテインメント(株)より「傳―つたえ―遠藤千晶箏リサイタル」をCD・DVD同時発売。
7月    国立劇場主催公演「邦楽へのいざない」出演。
2013年2月    神奈川フィルハーモニー管弦楽団と共演。
9月    福島市音楽堂大ホールにて「妙祐会45周年記念箏曲演奏会」を開催。

現在、生田流箏曲宮城社大師範。宮城合奏団団員。日本三曲協会会員。生田流協会会員。森の会会員。妙祐会副会主。遠藤千晶とCRYSTALLINE NOTES主宰。
http://chiaki-endo.com/

(公演プログラムより転載)

(記事公開日:2013年12月06日)