祈るように語り続けたい 吉永小百合朗読会
ヒロシマ、ナガサキ、そしてフクシマ
ヒロシマ、ナガサキ、そしてフクシマ
2013年9月21日(土)
いわき芸術文化交流館アリオス中劇場
今回の朗読会は、「吉永さんの朗読会を、ぜひともいわきで行ってほしい」といういわき在住の佐藤紫華子さんからの強い要望に、吉永さんが応えて行われたものです。2万3千人もの避難者を受け入れているいわき市。当日の会場にはいわき市民はじめ被災された多くの方々にお集まりいただきました。弊財団は、今回の朗読会を震災復興のための活動と位置づけ、舞台制作の協力に積極的に取り組みました。(→9月29日の弊財団ブログ でも紹介しています)
「いつまでも福島を思い、行動すること」
文:大野壽子(公益財団法人 日本伝統文化振興財団)
第一部の最初は、司会の斉藤とも子さんと佐藤紫華子(さとう・しげこ)さんの対談。佐藤さんは、震災と原発事故で転々とした避難生活を送る中、仮設住宅でも踊りの師匠として稽古を始めたこと、恐怖・怒り・悲しみ・・・やりきれない思いを詩に表現し、それが『詩集 原発難民』となったこと。詩を書くことで前向きに生きようと思えるようになったことなどを語りました。八十歳を超えたとは思えない、力強く明るく自然体で生きる佐藤さんの言葉に、会場の雰囲気が和むようでした。
鈴木正夫さんはビクターの専属歌手で民謡界の第一人者。今回は、佐藤さんの振り付けでこぶし劇団の皆さんが踊るという設定でしたので、急遽、鈴木さんに出演をお願いしました。鈴木さんは原発から50キロ圏内に暮らす相馬市民でありながら、80か所に及ぶ仮設住宅を慰問するボランティア活動を続けています。最近では仮設住宅でも盆踊りなどが行われるようになり、「新相馬節」や「会津磐梯山」などが踊られるようになったそうです。
「♪遥か彼方は 相馬の空かよ、相馬恋しや なつかしや」という「新相馬節」の一節に、思わず佐藤さんの「ふるさと」の詩の中の「ふるさとは 遠く 遠のいて、余りにも 近くて 遠いふるさと…」の言葉が重なり、胸に熱いものが込み上げてきたのは、私だけだったでしょうか……。
第二部は吉永小百合さんの朗読。はじめに吉永さんは、27年前に原爆詩と出会い、「夢千代日記」の主人公を演じたことなどをきっかけに、原爆詩を「語り継いでいきたい」という思いで朗読のCDを制作したことを語りました。そして、広島の原爆詩の中から、「序」(峠 三吉)、「生ましめんかな」(栗原貞子)、「慟哭」(大平数子)の3篇を朗読。
ここで吉永さんはいったん朗読を止めて、福島についてのコメントを加えました。佐藤さんの詩集を読んでとても共感したこと、佐藤さんからのお手紙をいただいていわきで朗読会を行うことになったこと、そして「わたしにできることは、いつまでも福島を思い、行動すること」だと語りました。続けて、和合亮一さんの詩集から「詩ノ黙礼」の中の1節と「小さい私」の2篇を、佐藤さんの詩集から「原発難民」「きもの」「ふるさと」「富岡の空へ」の4篇を朗読しました。
静まり返った会場に、凛とした吉永さんの声が響き、700人近い聴衆一人一人の心の中にも清らかな響きとなって広がっていくようでした。吉永さんの横には、昨年4月福島市での朗読会と同様に、原発の前で母親がわが子をかばうように抱きしめている和田誠さんのイラストが飾られました。子供たちを守りたい、子供たちに象徴される未来を守りたいという和田さんのメッセージと同時に、吉永さんの思いがそこに重なるような思いがしました。
最後は、平第一小学校・平第一中学校の合唱部の皆さんによる合唱。合唱指揮の先生方も含め、全員が吉永小百合さん直筆の「いつまでも思いをつなぐ」と書かれた色とりどりのTシャツを着て登場。1曲目の「にじ」(新沢としひこ作詞・中川ひろたか作曲)は、小学生の子供たちから「この歌を歌いたい!」と申し出てくれた楽曲です。つるの剛士さんらが歌っているので、皆さんもよくご存知かもしれません。「ラララ、きっと明日はいい天気 きっと明日はいい天気!」と繰り返されるフレーズ、あまりにも美しく澄んだ子供たちの歌声に、会場の誰もが心を揺さぶられ、涙ぐむ人も多く見受けられました。中学校の合唱部は直前に行われたNHK合唱コンクール県大会で銀賞を受賞しています。
2曲目は「折り鶴」(梅原司平作詞・作曲)。合唱団に加え、吉永小百合さん、佐藤紫華子さん、鈴木正夫さん、斉藤とも子さんも参加してのグランドフィナーレとなりました。
財団が共催という形で吉永小百合さんの朗読会に関わったのは、今回が初めてです。無事に終えることができたことを関係者の皆様に心から感謝しています。そして、民謡・民踊、朗読、合唱という、通常のプログラムでは考えにくいジャンルが、「ふるさと」というひとつのテーマでまとめ上げられました。これからも、財団らしい舞台づくりを目指して行きたいと考えています。
撮影:板橋淳一
写真提供:吉永小百合事務所
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■プログラム
司会 斉藤とも子
対談
佐藤紫華子・斉藤とも子
ふるさとのうたと舞
歌 鈴木正夫/振付 佐藤紫華子/踊り こぶし劇団
「相馬壁塗り甚句」「新相馬節」「会津磐梯山」
「相馬カンチョロリン」「相馬盆唄」
〈休憩〉
〈第二部〉
朗読 吉永小百合
原爆詩より 「序」「生ましめんかな」「慟哭」
和合亮一作 「詩の黙礼」より、「小さな私」
佐藤紫華子作 「原発難民」「ふるさと」ほか
いわきの子どもたちの歌
合唱 平第一小学校合唱部・平第一中学校合唱部
「にじ」「折り鶴」
■プロフィール
吉永小百合
俳優。1986年から原爆詩の朗読を始める。原爆朗読詩CD「第二楽章」(広島編、長崎編、ウミガメと少年)をビクターより発売。TBSラジオ「今晩は吉永小百合です」(毎週日曜22時30分)放送中。
佐藤紫華子
樺太出身。結婚後富岡町で日本舞踊や茶道・華道を指導。震災からの避難生活の中、原発事故で故郷を追われた思いを自費出版。後に「原発難民の詩」として発表し、多くの人々の共感を得ている。
鈴木正夫
民謡の父と謳われた初代・鈴木正夫の長男として相馬に生まれ、二代目を継承。舞台、NHK-TV、FM放送等全国で活躍する、日本民謡界の第一人者。現在も故郷の相馬に在住し、被災地の慰問ボランティア活動も積極的に行っている。
平第一小学校合唱部・平第一中学校合唱部
「思いやりのある子ども」「自ら学び考える、知性豊かな人間」等の教育理念のもと、共にNHK合唱コンクール出場などの活動を行っている。
斉藤とも子
俳優。NHKの少年ドラマ出演以来、数多い映画・テレビ・舞台で活躍。一方、広島で被爆した人々との交流の後、著書「きのこ雲の下から、明日へ」を発表し、原爆を伝える難しさを感じつつも、自分に今できることに積極的に取り組んでいる。
(公演プログラムより転載)
■関連作品
第二楽章 沖縄から「ウミガメと少年」(野坂昭如作)/吉永小百合(VICL-61974)
(記事公開日:2013年10月16日)