高畠一郎 箏 リサイタル ひむかしとりかふ

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2012年11月 1日(木)開催
(東京・津田ホール)

今年の話題作「幸魂 奇魂 ―古事記より―」(CD)への参加や、国内外の公演やメディア出演など多彩に活躍している生田流箏曲宮城社・高畠一郎師の箏リサイタルが開催されました。箏曲の二大流派である生田流、山田流の対比と融合をテーマに、山田流からの豪華な賛助出演者を迎え、厳選したプログラムと磨き抜かれた声と演奏で、会場を大いに沸かせました。邦楽評論家の笹井邦平さんのレポートです。

文:笹井邦平

2人のマエストロへのチャレンジ

「三つの断章」
「三つの断章」

生田流箏曲宮城社の高畠一郎師が今年度芸術祭参加公演としてリサイタルを開催する。

中能島欣一作曲「三つの断章」(箏独奏-高畠一郎)。現代箏曲のバイブル的な作品で現代邦楽演奏家のリサイタルでは必ずといっていいほど演奏される人気曲である。キレのある力強いタッチで紡ぎ出される箏の音は響きの良い洋楽ホールに流麗に響き亘り聴衆の耳を釘付けにする。


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「さしそう光」
「さしそう光」

宮城道雄作曲「さしそう光」(箏本手-高畠一郎、箏替手-田中奈央一)。続いて中能島師と同じく現代邦楽の巨匠で高畠師の音楽の根源となる宮城道雄作品を田中奈央一師と合奏。両師の熱演は宮城作品独特の擬古典的な珠玉の音色を洪水の如く流出させて箏デュオの醍醐味を満喫させる。

古典曲をハイテンションのアンサンブルで

「吾妻獅子」
「吾妻獅子」

峰崎勾当作曲・石川勾当替手手付「吾妻獅子」(三弦替手-高畠一郎、三弦本手-山勢麻衣子)。後半は古典曲でまず山勢麻衣子師との三弦二挺による本調子手事物。『伊勢物語』の在原業平の東下りを導入し業平気取りのイケメンが江戸に下って吉原の遊女と馴染み後朝(きぬぎぬ)の別れを惜しみ扇かざして獅子舞を舞うという内容。眼目の手事の〈砧地(きぬたじ)〉は両師の三弦の音色が際立ち箏とはテイストの異なる深みのある豊かな音色に酔いしれる。


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「新ざらし」
「新ざらし」

北沢勾当原作・深草検校補作「新ざらし」(箏-高畠一郎、三弦-山登松和)。〈さらし〉とは宇治川で布を水に晒して漂白する作業を音楽化した音型・フレーズ、これが自在に変化してゆく器楽的なクライマックスが聴き処。高畠・山登両師の丁々発止の掛け合いは会場を席巻しテンションが最高潮に達する。

サブタイトルは聴衆へのアプローチ

現代箏曲の2人のマエストロへのチャレンジと古典曲への果敢なアプローチ、そして共演者は全て山田流演奏家-という高畠師のグローバルなリサイタルは邦楽界の垣根を取り払いさらなるステップを見据えている。ただ、サブタイトルの「ひむかしとりかふ」という意味不明のフレーズが気になる。

「これはもちろん〈造語〉でお客様に『これはどんな意味だろう?』と興味を持って頂き、その上で演奏を聴いて頂くことで、ぐっと一歩踏み込んでそれぞれの心の中にイメージをより膨らませることができるのでは-と考えた上での私からお客様へのファーストアプローチと位置づけています」と師は語る。

チラシ・プログラムの写真は5月の金環日食を自ら撮影したもの、〈ひむかし〉とは東の古語で東から昇る太陽に向かって飛翔する鳥影はアンビシャスな高畠師の姿に重なる。

撮影:友正寫眞館

プロフィール

高畠一郎

1982年 伯母より手ほどきを受ける

1987年 箏曲宮城社大師範 砂崎知子に師事

1993年 東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業
第28回宮城会箏曲コンクールにおいて第一位受賞

1995年 日本ベトナム文化交流フェスティバル参加(ホーチミン)
沢井一恵アメリカコンサートツアー参加(ニューヨーク他)

1996年 東京藝術大学大学院音楽研究科修士課程終了
アサヒスーパードライホール・スクエアAにて箏ライブ開催(以後4回開催)

1997年 第53回日本芸術院授賞式において御前演奏
第四回賢順記念全国箏曲コンクールにおいて賢順賞(第一位)受賞

2000年 FM・J-WAVE開局初の邦楽演奏者として出演
砂崎知子と琴ニューアンサンブル団員としてアメリカ公演に参加

2001年 NHK・FM「邦楽百番」出演
地元藤沢にて箏コンサートを開催(以後4回開催)
日本テレビ系列「3分クッキング」テーマ曲を箏バージョンとして編曲・収録、以後毎年放送

2003年 ベトナム縦断コンサートツアー開催(ハノイ・ダナン・フエ・ホーチミン)

2004年 天平楽府メンバーとして中国公演参加(北京・西安・上海)
第28回全国高校総合文化祭・日本音楽部門に於いて、審査員を務める

2005年 テレビ朝日「題名のない音楽会」出演
天平楽府メンバーとして日本国際博覧会「愛・地球博」に参加
あいれふホール(博多)、紀尾井小ホールにてリサイタル「軌跡」開催

2006年 NHK教育「芸能花舞台」出演
紀尾井小ホールにてリサイタル「つたふこころ」開催(文化庁芸術祭参加公演)

2007年 箏曲 三軒会 広島教室開軒
砂崎知子箏コンサート全国ツアーに参加(全14カ所)
紀尾井小ホールにてリサイタル「あさはふる」開催

2008年 NHK・FM「邦楽のひととき」出演
砂崎知子箏コンサート全国ツアーに参加(全5カ所)
紀尾井小ホールにてリサイタル「みくにをりふし」開催(文化庁芸術祭参加公演)
鬼太鼓座ブラジル公演に参加(リオデジャネイロ)

2009年 MFJ主宰 常磐津文字兵衛三味線コンサートに参加(ニューヨーク)
砂崎知子箏コンサート全国ツアー2009に参加(全5カ所)

2010年 アンカラにて新作オペラ公演に参加(トルコにおける日本年事業)
第34回全国高校総合文化祭・日本音楽部門に於いて、審査員を務める
津田ホールにてリサイタル「よろづおとなひ」開催(文化庁芸術祭参加公演)

2011年 国立劇場主催 明日をになう邦舞・邦楽鑑賞会出演
NHK Eテレ「芸能百花繚乱」に出演
砂崎知子箏コンサート全国ツアー2011に参加(全3カ所)

2012年 行徳文化ホールI&Iにて箏曲三軒会演奏会主催
NHK古典芸能鑑賞会出演

 

現在  箏曲宮城社 師範、箏曲 三軒会主宰、砂崎知子と琴ニューアンサンブル団員、
森の会会員、(公社)日本三曲協会会員、市川市ナーチャリングコミュニティーボランティア会員

 

箏・三絃・十七絃・二十絃演奏家 高畠一郎ホームページ
http://homepage2.nifty.com/ichiro3/

※公演プログラムより転載

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

(記事公開日:2012年11月26日)