祈るように語り続けたい 第二楽章
福島への思い ~吉永小百合 朗読会~

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2015年3月10日(火)
津田ホール

 

主催:公益財団法人日本伝統文化振興財団
共催:津田塾大学(千駄ヶ谷教育研究機構)
協力:株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント
   第二楽章を語り継ぐ会

文責 大野壽子(公益財団法人日本伝統文化振興財団)

 

inoruyouni-hyo1去る3月10日、東京千駄ヶ谷の津田ホールで、吉永小百合朗読会を開催いたしました。ビクターエンタテインメントから吉永小百合さんの4枚目のCD「第二楽章福島への思い」が発売になる3月11日、その前日のお披露目の朗読会でもありました。

吉永さんの朗読CDはこれまでに原爆をテーマにした「第二楽章 広島」(1997/6/21)「第二楽章 長崎から」(1999/7/23)、野坂昭如氏の戦争童話を基にした「第二楽章 沖縄 ウミガメと少年」(2006/6/21)の3枚がビクターから発売されています。9年の年月を経て、今回福島をテーマにCD制作に取り掛かったのは、吉永さんの福島への強い思いからでした。2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発の事故から4年が過ぎた今、「忘れない、風化させない、なかったことにしないために、私は彼らの詩を読みます」と吉永さんは語ります。

今回のCDでは、邦楽界の若手実力者として知られる藤原道山さんが音楽を担当しました。朗読の背景に和楽器を使ったのは今回初めてですが、詩の内容と吉永さんの声と和楽器の音色が見事に調和して、より一層心情が伝わるCDとなりました。和楽器の魅力とその更なる可能性をも示唆してくれるような音楽性の高い仕上がりです。


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プログラム右


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吉永小百合朗読会1

続いて、和合亮一さんの詩、佐藤紫華子さんの詩、そして若松丈太郎さんの詩を詩人たちの紹介を交えて朗読。尺八の澄んだ音色が響き、張り詰めた思いや、やりきれない心の葛藤を箏が奏で、十七弦が沈鬱な思いを共に寄り添うように奏でる。その中を、思いのほか低い吉永さんの声が淡々と、会場に流れていきました。

和合亮一さんは福島の高校の先生で、中原中也賞を受賞した詩人でもあります。2011年の震災で被災しながらもtwitterで自らの詩を発信し続けました。佐藤紫華子さんは、福島県富岡町で日本舞踊の先生をしながら平穏な暮らしを送っていました。あの日から、苦しい避難生活を余儀なくされ、その思いを吐露するかのように自費出版で詩集『原発難民』を発表しました。若松丈太郎さんは、福島の原発事故よりずっと以前、チェルノブイリ事故の時にすでに人類に警告を発していた詩人です。

吉永小百合朗読会2次に、福島の子どもたちの詩。原発事故の後、和合さんが中心になって多くの子どもたちの詩が詩集『詩の寺子屋』にまとめられましたが、その中から5篇を吉永さんが選びました。子どもの目線で捉えた「フクシマ」は、ある時は鋭い刃物のような厳しい言葉で表わされ、ある時は作者自身の等身大の愛らしさをもって表わされています。そしてどの詩にも力強い「意志」と「希望」が、光のように輝いていることがとても印象的でした。

朗読が終わると間奏曲のように始まるのが「新相馬節」。福島の方や民謡ファンの方はよく御存知の曲です。今回は藤原道山さんが民謡のメロディをアレンジして、尺八と三味線による演奏。ふと「遥か彼方は 相馬の空かよ 相馬恋しや なつかしや」という歌詞が脳裏をかすめ、せつない思いに一層胸が締め付けられる思いがしたのは、私だけではなかったように思います。尺八の音色は、遠く遥かなふるさとの山々を越えて流れていくようでした。


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inoruyouni-pg4最後は、金田典子先生率いるNHK東京児童合唱団ユースシンガースの合唱。山崎朋子先生が作詞・作曲した合唱曲「絆」、続いて文部省唱歌「故郷(ふるさと)」。伴奏はもちろん和楽器、尺八と箏と十七弦です。グランドフィナーレでは吉永さんが福島からお招きした詩人の佐藤紫華子さんの手を携えて登場、『詩の寺子屋』の吉田桃子さん、熊本莉奈さん、関根妃奈乃さん、渡邉鮎花さんも舞台に登場し、会場の皆様方と大合唱になりました。

折しも会場となった「津田ホール」は、シティホールの先駆けとして活躍した時代を終えて、この3月末をもってその長い歴史に幕を下ろしました。そんな大事な時にこの朗読会を共催して下さった津田塾大学の関係者の皆様、また公演を支援して下さった第二楽章を語り継ぐ会、ビクターエンタテインメントの関係者の皆様に心から感謝を申し上げたいと思います。


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CD情報

vicl-64292タイトル  「第二楽章 福島への思い」吉永小百合
発売日    2015年3月11日発売
商品番号   VICL-64292
定価     税抜2,800円+税
発売元    株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント

http://www.jvcmusic.co.jp/-/Discography/A000205/VICL-64292.html

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(記事公開日:2015年05月11日)