第十七回日本伝統文化振興財団賞・第二回中島勝祐創作賞贈呈式 受賞記念演奏会

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2013年7月4日(木)東京・紀尾井ホール

第十七回日本伝統文化振興財団賞は、時代物に力量を示す一方、新作物にも意欲的に取り組む人形浄瑠璃文楽の太夫、豊竹呂勢大夫氏が受賞。昨年創設され、邦楽器による創作曲を顕彰する中島勝祐創作賞は「櫻姫」(作曲:髙橋翠秋氏)が第二回受賞作品に選ばれました。紀尾井ホールで開催された二つの賞の贈呈式と受賞記念演奏会の模様をお送りいたします。

文楽界から初の第十七回財団賞、胡弓に光を当てた第二回中島賞

文:じゃぽマガジン編集部

 2013年7月4日紀尾井ホールで開催された第十七回日本伝統文化振興財団賞贈呈式、第二回中島勝祐創作賞贈呈式と受賞記念演奏会は平日の昼間ながらも多数の観客が詰めかけ、盛況のなか開催されました。

 「本年、当財団は設立20周年を迎えることとなりました。これはひとえに平成5年の設立当初から当財団に賜りました多くの皆様からのご支援、ご協力とお励ましによるもので、心より厚く御礼を申し上げます」と藤本草理事長からの挨拶。文化庁文化財部長・石野利和氏から祝辞が寄せられ、書面による衆議院議員・城内実氏の祝辞が披露されます。

 財団賞選考委員の紹介ののち、選考委員の田中英機氏より「賞をきっかけにさらに飛躍してくださるような将来性、可能性を秘めた人を選ぶことが一番大事なところです。そこに選考委員は眼目を置き、ノミネートされた二十名ひとりひとりを選考させていただいた結果、今年は文楽の太夫の呂勢大夫さんが選ばれました。賞が始まって十七年経ちますが、文楽の世界からは初めての受賞」と選考経過についてお話をいただきました。

 受賞した呂勢大夫さんは「支えてくださるお客さまがあってこういう芸能(文楽)が成立していることを身をもって感じております。末永く応援してくださることが私どもにとりまして一番ありがたいことでございます」と語り、会場は大きな歓声と拍手に包まれました。

 続いて中島勝祐創作賞の選考経過は久保田敏子(さとこ)氏によって披露されました。「今年は12作品が集まり、音のみによる審査でございますが、いずれも力作ばかりでした。点数を集計するなど非常に難しい選考の結果、髙橋翠秋さんの「櫻姫」が選ばれました。作品が表に出ることで、ますます胡弓という楽器に光が当たりますことを願ってやみません」とのお話。受賞者の髙橋翠秋さんは「一番初めに報告させていただいたのは私の師匠、川瀬白秋先生でした。先生からは三曲だけでなく、お芝居や地歌の地方(じかた)といったいろいろなジャンルを教えていただき、このような曲を作ることができるようになりました。胡弓をもっともっと生かして、いろいろなものに挑戦していきたい」と語り、こちらも割れんばかりの大きな拍手となりました。

 受賞記念演奏会でまず披露されたのは第十七回財団賞受賞者、豊竹呂勢大夫さんの浄瑠璃で「本朝廿四考(ほんちょうにじゅうしこう)」より「奥庭狐火(おくにわきつねび)の段」。浄瑠璃、三味線、琴・ツレ三名による素浄瑠璃で、人形浄瑠璃文楽において機会が少ない貴重な舞台。正面を向いた浄瑠璃、太棹三味線が繰り出す大迫力の音響に、観客は息をのんでじっと聴き入ります。夫の身を案じてついには狐の霊が乗り移り、氷の張った諏訪湖を渡る八重垣姫の名場面にすっかり酔いしれました。

 作曲した髙橋翠秋さん自らが箏と胡弓を弾く「櫻姫」は、唄、箏、十七弦に鳴物という編成。アンデルセンの童話「人魚姫」をもとに人魚姫を桜の精に移したかずはじめ氏の作詞で、歌詞に「桜」が織り込まれた“桜づくし”の前半は箏の音色で華やかに始まります。後半はそれまでの情景が一変し、とくに擦弦楽器である胡弓の特色を生かした印象的なもの。唄や囃子の間を胡弓の音色が縫ってゆき、激しく揺れ動く娘心を描き出すドラマティックな演目。時が経つのを忘れてしまうほどの魅力を湛えた、素晴らしい舞台となりました。

 邦楽の演奏会では類をみないカップリングとなった今回の受賞記念演奏会。さまざまな伝統芸能の種目や楽器と声が息づく現代の日本で、伝統芸能の未来を見据えた日本伝統文化振興財団賞と中島勝祐創作賞、この二つの賞が持つ意義をあらためて感じさせるひとときとなりました。

プログラム

―受賞記念演奏会―

第十七回日本伝統文化振興財団賞受賞者 豊竹呂勢大夫 氏(人形浄瑠璃文楽 太夫)
「本朝廿四孝」より「奥庭 狐火の段」
浄瑠璃   豊竹呂勢大夫
三味線   鶴澤藤蔵
琴・ツレ  鶴澤寛太郎
 
第二回中島勝祐創作賞受賞者 髙橋翠秋 氏
受賞作品「櫻姫」(作曲 髙橋翠秋/作詞 かずはじめ/作調 田中勘四郎)
箏・胡弓  髙橋翠秋
唄     東音 山口太郎 東音 味見 純
箏     佐藤紀久子
十七弦   松坂典子
囃子    藤舎呂英 堅田昌宏

(記事公開日:2013年08月20日)