神々の音楽 — 神道音楽集成 — 藤本壽一さんに聞く

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 伊勢神宮と出雲大社の式年遷宮が行われ、信仰や日本の神々についてあまり意識のなかった人たちまでが神社や神道に関心を寄せています。こうした社会背景についてどのように感じていらっしゃいますか。

 

 今年の正月の数日間、東京や関東地区のいくつかの神社の様子を見て回りましたが、どこの神社でも、初詣に並ぶ人々の例年にない長い行列に驚きました。またNHKや民放の番組、雑誌にも神社関係の取材記事が大幅に増えています。

 これは昨年、大きな遷宮が重なったことや、若い女性のパワースポットブームも原因かもしれませんが、東日本大震災や原発事故、自然災害が続き、先の見えない人生への不安や、荒ぶる大自然への怖れが、日本人の心底に隠れていた神々への畏敬の念を刺激し、蘇らせているのではないか、と感じるのです。

 その意味で今回のCD復刻は、大変時宜にかなったものと思います。

 

 制作に携わられたお立場で、今この作品があらためて世に出る意義・役割についてお聞かせいただけますか。

 

DSCF2319-002 民俗祭祀の部には、日本の重要な無形民俗文化財が含まれていますが、収録した16ヵ所にも、この37年間にさまざまな変化がありました。過疎化と少子化によって伝承が不可能になった村もあるいっぽう、都会地ではますます観光化して賑わっている祭りもあります。

 「虎舞」の音楽を収録した釜石市は大震災で大きな被害を受け、多くの地域が倉庫ごと虎舞道具一式を津波にさらわれてしまいました。その釜石のコミュニティを崩壊から救ったのは、やはり虎舞であったと聞いています。復活した虎舞には、さらに大勢の人々が集まり、悲劇への慰めを得、復興への勇気を奮い立たせているのです。

 都会の住人にも、故郷の神社の祭りには必ず戻るという人が沢山いて、地方には氏神氏子の絆がしっかりと残っているところもあります。日本人が西洋文明を取り入れながらも、心の拠り所として伝えてきたものは何か、失わなかった伝統とは何かを見出すきっかけになれば、この『神々の音楽』の復刻は、十分意義があったと言えるのではないでしょうか。

 

(2014年1月22日取材)

作品紹介

神々の音楽 神道音楽集成 (CD4枚組+解説書)

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2013年4月24日 発売 
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[1976年(昭和51年)第31回文化庁芸術祭レコード部門優秀賞/発表当時はLPレコード]


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プロフィール

藤本壽一(ふじもとじゅいち)

1943年(昭和18)、兵庫県生れ。昭和41年武蔵野音楽大学卒業。東京声専音楽学校(現昭和音大)講師。NHK・映画音楽等作曲に従事。昭和55年より渡仏、以降大規模野外劇演出に従事。欧州歴史催事協会(当時FEFMH・本部フランス)アジア担当副会長等を歴任。作品に、管弦楽付歌曲・万葉集より「立山の賦」、音楽詩劇「播磨風土記」他。劇作品に野外音楽劇「越中万葉夢幻譚」など。学術レコードに昭和52年度文化庁芸術祭大賞受賞作品「台湾原住民族の音楽」企画構成など。
[神道関係]昭和41年神社本庁より神職正階授与、昭和60年まで西脇八幡神社権禰宜を兼務。映画「The Great Feast of Japan(春日若宮御祭)」(春日顕彰会製作)脚本監督ほか。
(「神々の音楽」別冊解説書より転載)

(記事公開日:2014年01月30日)