第2回野口悦子 箏 リサイタル〜現代(いま)に伝わる響き〜

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2012年9月30日(日)開催
(東京・紀尾井小ホール)

当財団の第7回邦楽技能者オーディションに合格し、CD作品「生田流箏曲/野口悦子」を発表している生田流箏曲家、野口悦子さんの第2回リサイタルが紀尾井小ホールで行なわれました。2006年9月の初リサイタルより6年の歳月を経た今回は「現代(いま)に伝わる響き」と題され、野口さんの研鑽が活かされた多彩な演目で観客を魅了しました。その模様をじゃぽ音っと編集部がレポートいたします。

観客を魅了する名曲の多彩な響き

文:じゃぽ音っと編集部

「秋風の曲」
「秋風の曲」

 九月最後の日曜日。空は明るくも台風が迫る予報も伝わるなか、東京・紀尾井小ホールにはたくさんの観客が詰めかけていた。会主の野口悦子さんは6年前の2006年第7回邦楽技能者オーディションに合格した生田流箏曲家。その2006年以来2度目のリサイタルであり、天候にかかわらず観客の期待はとても大きく感じられた。

 緞帳が上がり、箏独奏〈秋風の曲〉。19世紀前半、天保年間に京都で活躍した光崎検校が作曲した、箏曲復古運動と呼ばれる一連の作品のなかでの代表作のひとつ。前半の箏独奏部と後半の中国の古典、白楽天「長恨歌」をもとにした六歌の組歌からなり、典雅な箏の音色と伸びやかでみずみずしい野口さんの声が映える弾き歌いとなった。

「五段砧」
「五段砧」

 続いて前曲と同じく光崎検校作の〈五段砧〉。本来は箏二面、替手の高音と本手の低音で合奏される曲を、箏(替手)と菅原久仁義師の尺八(本手)で披露。砧物ならではのリズミカルなフレーズと二つのパートの絡み合いが楽しい曲。しなやかで精緻な箏の音色と音量豊かな尺八の包み込むような音色とが徐々に合わさり、緊張感と華やかさを帯びていく演奏に、自然と耳が引き寄せられていく。箏同士とはまたひと味違う共演に、観客からの拍手もひときわ大きく寄せられていた。

 前2曲での光崎検校に続き、現代邦楽の巨匠、杵屋正邦の作品〈十七絃と小鼓のための二重奏曲〉。十七弦に野口さん、小鼓に望月晴美師。ステージ上で対峙する二つの和楽器がさまざまな技法を駆使し、間合いを生かした二つの掛け合いが会場の空気を引き締める。箏よりひと回り大きく音域の広い十七弦、細やかな音の強弱でその場を自在に「囃す」小鼓の組み合わせの妙をあらためて感じさせる一幕となった。

 休憩をはさみ、終曲は〈八重衣〉。この手事物は〈融(とおる)〉〈新青柳〉と並ぶ「石川勾当の三つ物」と称される難曲。いわゆる「小倉百人一首」より「衣(ころも)」の語を含んだ五首を用い、四季の順に並べた歌詞でも知られている。昨年芸術選奨を受賞した砂崎知子師(三弦)の強力な助演を得て、尺八の菅原久仁義師とともに、「百拍子」と呼ばれるほどの高度な技巧を要する後半の手事のチラシもじつに鮮やかに決まっていた。終演を告げる一音の響きがすっと消え入り、一瞬の静寂から観衆に大きな拍手が湧き起こった。

 近世の箏曲復古運動を打ち立てた光崎検校、和楽器の豊かな響きを追求した現代曲の杵屋正邦、そしてかつて箏を習い始めた野口さんが「いつか弾けるようになりたいと思っていた」とプログラムに記す古典の大曲「八重衣」で構成された6年ぶりのリサイタル。これら披露された名曲の多彩な響きは、「現代(いま)に伝わる響き」と題されたリサイタルにふさわしく、いまなお観客を十二分に魅了していた。

関連作品

プロフィール

野口悦子

砂崎知子師に師事。東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。 在学中、ASEAN民族フェスティバルに藝大邦楽科代表として参加し、マレーシア・シンガポールにて演奏。 卒業時、皇居桃華楽堂に於いて、皇后陛下主催の演奏会で御前演奏。 NHK邦楽オーディション合格。第35回宮城会箏曲コンクール第1位、第8回賢順記念全国箏曲コンクール奨励賞、第9回・第12回賢順記念全国箏曲コンクール銅賞受賞。(公財)日本伝統文化振興財団第7回邦楽技能者オーディションに合格し、CD「生田流箏曲 野口悦子」発売。韓国・香港・台湾・ベトナム・ブルネイ・アメリカ等海外公演も多く、国内においては東京・神奈川を中心に自身のリサイタル、コンサートを数多く開催。 現在、全国各地での舞台・ラジオ・テレビ出演、CDレコーディングなどの演奏活動を行うとともに、後進の指導にあたっている。 箏曲宮城社大師範。日本三曲協会会員。森の会会員。砂崎知子琴ニューアンサンブル団員。箏志会会員。

 

砂崎知子

東京藝術大学邦楽科卒業、同大学院修了。宮城喜代子、小橋幹子、上木康江の各氏に師事。東京藝術大学講師、大阪音楽大学教授、洗足学園音楽大学邦楽科客員教授を歴任。1987年文化庁芸術祭賞受賞。1999年大阪文化祭賞受賞。2011年芸術選奨文部科学大臣賞受賞。 国内外における活発な演奏活動により、リサイタルはのべ30回を越す。2006年開軒40周年記念リサイタルを国立劇場にて開催。2007年より全国ツアーで国内29ヵ所を廻る。 1989年ビクターよりソロアルバム「ベストテイク」発売(現在、日本伝統文化振興財団より再発)。また「琴ヴィヴァルディ四季」(東芝EMI)などクラシックを箏で演奏する画期的なCDも手がける。作曲活動にも力を入れ、家庭音楽出版部より作品集出版。2007年から日本コロムビアより宮城道雄作品集シリーズ「春の海」「水の変態」「越天楽変奏曲」を順次発売、邦楽CDランキング1位を獲得。 現在、箏曲宮城社大師範。全国小中学生箏曲コンクール、全国高校生邦楽コンクール審査員。その他NHKテレビ、FMラジオ等で活躍中。

菅原久仁義

12歳より尺八を始め、都山流、琴古流を学び、上京後、横山勝也師に師事。 NHK邦楽技能者育成会第22期卒業。

1977年 全日本三曲コンクール第1位入賞。 1980年 パンムジーク「伝統楽器による現代演奏コンクール」にて独奏部門及び合奏部門ともに第2位入賞。 1995年 ファーストアルバムCD「雨月譜」を京都レコードとフランスのプラヤサウンドより世界発売。(以降CD7枚をリリース) 2008年 シドニーでの尺八フェスティバルにて招待演奏。 2010年 トルコのガズィアンテプ(ジャパンフェスティバル)にてコンサート。 2011年 オーケストラアンサンブル金沢と協奏曲を共演。

現在までに文化庁派遣・国際交流基金派遣などにより海外にて多数公演。またラジオ、テレビなどにも多数出演。流派を超えた教則本、教則ビデオ、教則DVDを制作し尺八界に広く浸透している。また教材用塩ビ尺八「なる八くん」を考案、尺八普及に力を注ぐ。「菅原邦楽研究室」及び「仁の会」主宰。東京、浜松、札幌、川崎、長野にて教授活動。

望月晴美

母、祖母ともに望月流女性囃子方、父は義太夫節の太夫。幼少より囃子の楽器に親しみ、6歳にて初舞台。その後、宗家藤舎せい子に師事し、本格的に囃子を学ぶ。又、長唄を今藤美知、江戸里神楽を若山胤雄に師事。

1988年 東京藝術大学音楽学部邦楽科卒業。
1990年 同大学院音楽研究科修了。
在学中は、邦楽囃子を三世望月左吉、望月太喜雄に、能楽囃子観世流太鼓を観世元信、打楽器を有賀誠門に学ぶ。
2005年 「第一回 望月晴美囃子演奏会」を主催。
2007年 文化庁芸術祭音楽部門参加公演「第二回 望月晴美囃子演奏会」を主催。
同レコード部門参加作品「囃子の音魂」をリリース。
2009年 ニューヨークでの国際芸術見本市APAP参加を含む国際交流基金邦楽米国ツアーに参加。
「第三回 望月晴美囃子演奏会」の成果により、平成21年度文化庁芸術祭音楽部門で新人賞受賞。

※公演プログラムより転載

(記事公開日:2012年09月30日)