野村祐子 箏リサイタル ―箏の魅力―

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2012年10月29日(月)開催
(大阪・イシハラホール)

名古屋を拠点に、流派を越えた多彩な活動で知られる正絃社二代家元・野村祐子師の箏リサイタルが、大阪イシハラホールで行なわれました。古今東西さまざまな楽器との合奏を経験してきた野村師が今回取り上げるテーマは「箏の魅力」。時代ごとに楽曲を厳選して披露された、箏づくしのリサイタルの模様をじゃぽ音っと編集部がお送りいたします。

箏の深さや広さ、美しさを存分に感じたリサイタル

文:じゃぽ音っと編集部

 名古屋を拠点に多彩な活動を展開している正絃社二代家元・野村祐子師の箏リサイタルが、大阪イシハラホールで行なわれた。大きな拍手で迎えられステージにすすみ出た野村師は、静まり返った観客に向け、箏をゆったり力強く弾き始める。

 「みだれ」は近世箏曲の原点、八橋検校の作と伝えられる。「乱輪舌(みだれりんぜつ)」とも呼ばれ、「六段の調」などと同様の段物ながら、独特の多彩な緩急、掻き手(二弦を同時に掻き鳴らす手)といった手法を多用するなど、他の段物にはない異質の魅力を湛えていて、現在もさまざまな解釈で演奏されている。山田流では十二段、生田流では十段に区切って演奏されることが多いが、先代の野村正峰師を継いだ野村祐子師は十二段の解釈による演奏。後世につながる古典の名曲を第一曲に据え、箏リサイタルのオープニングを飾るにふさわしいひと幕となった。

「吉野静」
「吉野静」

 次は、明治期に生み出された箏曲の「吉野静」。義経との別れとなった吉野を舞台に静御前の心情を切々と弾き歌う。作曲者は、いわゆる「明治新曲」の作曲家を多数輩出した菊池(きくいけ)派の出身の菊芳秋調。野村師によれば、「十代のころ私は、幻の名曲と聞いて、母(秀子師)の薦めで、今は亡き父(正峰師)が敬愛しておりました菊武潔先生から教えていただいた」とのことで、野村師が大切にしている一曲。男声域の調性で書かれているので女声域で演奏するための試行錯誤があったそうだが、澄き通った美しい声と豊穣な箏の音色に、観客はすっかり魅了されていた。

 リサイタル後半は現代曲の名曲が並ぶ。宮城道雄作曲「手事」(1947年)からスタート。古来の組歌や一曲目で取り上げた段物「みだれ」の手法と、急緩急のソナタの様式に準じた洋楽の作曲法といった和洋の技法を取り入れた傑作。独奏で箏二面の掛け合いを弾きこなすなど高度の技法を要する曲だが、そういったことをまったく感じさせない流麗な演奏。続いて宮城道雄と並ぶ巨匠、中能島欣一作曲の「三つの断章」(1942年)。名前の通り三つの章からなり、夢幻の境地を思い起こさせる雰囲気、また琴柱(ことじ)の外側の調律されていない弦で掻き鳴らす斬新な手法でも知られている。山田流の丸爪で弾くことの多いこの至高の名曲を、野村師は生田流の角爪で丁寧に音を紡いでゆく。ラストは廣瀬量平作曲「瓔(よう)―箏独奏のための十段―」(1972年)。「瓔」とは瓔珞(ようらく)ともいい、かつてのインドで珠玉や貴金属に糸を通して作った装身具や飾りのこと。「日本とインドのつながりに思いを馳せながら創った」という作曲者の想念が余すところなく注がれて投影された、壮大で幽玄な音の宇宙といえる世界。箏という楽器が持つ深さや広さ、美しさを存分に感じさせる演奏に客席から盛んな拍手が寄せられた。

 ほどなくしてふたたび舞台に現われ、会場に響きわたる拍手のなか箏に向かう野村師。自ら編曲を手掛け、繊細に紡ぎ出された「さくら幻想」は、まるで公演後に味わう素敵なデザートのような余韻として、観客を優しく包み込んでいたに違いない。

関連作品

野村祐子作品集

VZCG-2(CD)2,718円+税
1997年1月22日 発売 
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プロフィール

野村祐子

箏曲作曲・演奏家の両親(野村正峰・秀子)のもと、箏に親しんで育ち、3歳で初舞台、14歳で、箏・十七絃二重奏曲「白い花に寄せて」を発表、以来、自作の90余曲が公刊、CD化。NHK邦楽技能者育成会第22期卒業。1976年より「野村峰山・祐子 箏・尺八ジョイントリサイタル」、1987年より「野村祐子箏リサイタル」、「正絃社合奏団箏コンサート」、このほか正絃社定期公演「春の公演」などを開催。野村正峰作品のソリストとして正絃社公演や各地での演奏に活躍し、流派を越えて作品を広めるほか、オーケストラとの共演、NHK FM放送・TV「芸能花舞台」、学校関係、長栄座の指導、作曲など、本拠地名古屋から全国へ向けて幅広く活動。
名古屋市民芸術祭賞、名古屋市芸術奨励賞など受賞。2002年、野村正峰より正絃社二代家元を継承。(2011年秋、野村正峰逝去)

愛知県立芸術大学・愛知大学非常勤講師
NHK名古屋文化センター箏曲講座講師
愛知芸術文化協会・名古屋三曲連盟理事
現代邦楽作曲家連盟・関西邦楽作曲家協会会員

箏曲正絃社ホームページ

※公演プログラムより転載

(記事公開日:2012年11月23日)