受賞者の声 片山清司さん(第十一回日本伝統文化振興財団賞授賞式)

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本編の授賞式レポートはこちらです。
伝統芸能分野で将来いっそうの活躍が期待される優秀なアーティストを毎年1名顕彰する日本伝統文化振興財団賞。本年は能楽シテ方観世流の片山清司師が受賞され、5月31日に授賞式が行なわれました。今回よりあらたに名称を”財団賞”とした本賞の授賞式の模様をお送りします。

聞き手:じゃぽ音っと編集部

編集部
このたびは財団賞受賞おめでとうございます。受賞のご感想をお聞かせ願えますか?
片山
京都に住んでいるのですが、東京で賞をいただけると聞き、初めはびっくりしました。東京での活動はまだまだ少ないなか、こうして評価していただいたことをありがたく感じております。
編集部
お稽古を始められたころのエピソードなどがありましたら、教えていただけますか?
片山
物心が付く前からですので、いつからということではないのですが、ただ4つ、5つの頃から、父(九世片山九郎右衛門師)が厳しくなりました。「いつ好きになったか?」と訊かれることも多いのですが、完全に生活のなかに入り込んでいて、正直「本当に好き」とは人には言えませんでした。学校に行くようになりますと、同級生のお母さんのような周囲の方から「お仕事でたいへんね」と言われたのですが、仕事という感覚もありませんでした。母以外全員が芸人でしたし、稽古や舞台があるなかで、それがいわゆる生活のための仕事でもなかったので、その当時は不思議に思いました。
編集部
ご指導を受けたのはずっとお父様だったのですか?
片山
高校1年くらいまで父に指導を受けまして、高校2年のときに八世観世銕之亟先生にお稽古をお願いしました。専門的にお稽古していただき、20年ほどでしょうか、亡くなるまでみていただきまして、その間も父からも指導を受けました。

「道成寺」という登竜門の大曲がありまして、どちらの先生からも一生懸命教えていただいたのですが、すごく困った覚えがあります。おふたりとも同じ師匠の弟子だったので、私からすると、同じ教えなのかと思っていたところ、ぜんぜん違うんです。たとえば演出的に左に行くところを、右に行けと言われたりと。腹をくくって自分なりにそしゃくして「道成寺」をやり終えたときに、両方から「まあ、あれでいいんだよ」と言われました。そのときに、AとBという違うやり方が、こう……重なるときがあるんだなと。まったく違う回答なのに、最終的には二人が言いたいことがまったく違う言い方で、実は同じことを指しているときがあるということが、古典のお稽古に関して一番大事だということが身に沁みました。

演出とか意図というものは、稽古の段階でははっきりしないといけないのですが、本番の舞台に上がったときに、それを持ち込まないこと。体を信じて、なるべく頭のなかで何も考えないで動いていくということをしないとどうもいけないということ。考えが先に立つということが抜けていかないと……と思います。

編集部
能の絵本のシリーズを手がけていらっしゃいますが、出版されるきっかけを教えてください。
片山
私の家内が、伝統芸能とは関係のないところから嫁いできた人間でしたので、自分の舞台を理解してもらおうと思って、毎回レクチャーしていたんです。そうしたら、そういう本を出す機会がないかと言われまして。もし出すならばと、みんなで話をしているなかで、絵本が活字メディアで最後に残っていくのではないか、コストやリスクも大きいですけれど、一度出版すれば、長い期間書庫に残る可能性があるということで。これは私たちの職種から考えると望ましいことではないかと思ったんですね。それから、小学校、中学校、高校へ教えに行ったり、能を観てもらうためのいろんな活動をしておりますが、なかなか短期間では意思伝達ができないということからも、作っていこうということになりました。

自費出版から始まり、出版社との折衝をやっていくなか、なんとか出せるようになりまして、今年も二冊出します。これを合わせると全部で九冊になります。息の長い話ですけれども、今後は十巻とか十八巻といったセットを各図書館に置いてもらうような、そういう営業ができるところまでつないでいこうよ、と話しています。ただ、絵本を持ち込んだだけでは、本当に舞台を観にこようという人がなかなか出てこないと思うんです。絵本だけではもちろん、レクチャーとか講座をやっただけでは無理かと思い、能楽堂まで観に来ていただける段階をこしらえていけたらと思っております。

編集部
今後、芸を続けられていくなかで、目指すところがありましたら、教えてください。
片山
これからの自分の芸能活動を、大切に丁寧に作っていきたいなと思っております。自分一人ではできない芸能ですので、いっしょにやっていく仲間といっしょに育っていく。もうひとつは自分の子供に、なんとかこの道を進んでもらうための、自分のできること――芸事上のこともですし、環境を残していってやりたいと思っております。
編集部
ありがとうございました。

 

関連ページ:十世 片山 九郎右衛門(かたやま くろうえもん)《能楽シテ方観世流》

片山清司(かたやまきよし)

katayama_photo能楽シテ方観世流。

一九六四年、九世片山九郎右衛門(人間国宝)の長男として京都府に生れる。祖母は京舞井上流四世家元井上八千代(人間国宝)、姉は五世家元井上八千代。幼少より父に師事し、長じて故八世観世銕之亟に教えを受ける。

一九七〇年「岩船」で初シテ。父と共に片山定期能楽会を主宰、全国各地で多数の公演に出演するほか、ヨーロッパ、アメリカなど海外公演にも積極的に参加している。また、薪能、ホール能など能楽堂以外での公演の制作・プロデュース、若年層のための能楽普及活動として、学校での能楽教室の開催、能の絵本『海女の珠とり』(「海士」)、『天狗の恩がえし』(「大会」)、『青葉の笛』(「敦盛」)の制作、映像を駆使した舞台制作、能舞台のCG化なども手掛けている。
一九九七年京都府文化賞奨励賞、二〇〇三年京都市芸術新人賞、二〇〇四年文化庁芸術祭新人賞を受賞。

現在、社団法人京都観世会理事、財団法人片山家能楽・京舞保存財団常務理事。

(記事公開日:2007年05月31日)