第十三回日本伝統文化振興財団賞贈呈式

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2009年5月28日(木)開催
(アイビーホール青学会館)

一昨年より副賞のCD制作がDVDに発展、音楽だけでなく伝統芸能分野全般にわたる日本伝統文化振興財団賞。今年の受賞者・遠藤千晶さんは生田流箏曲演奏家で、先日5月9日の“遠藤千晶箏リサイタル−凜−soloist−”ではオーケストラと共演するなど、今後のさらなる活躍が期待されています。国内外からの来賓が多数参列し、盛大な贈呈式となりました。

鮮やかで生き生きとした色彩の音で魅了

文:じゃぽ音っと編集部

ビクターエンタテインメントの基金を元に平成5年発足。16年もの長い間、日本の伝統音楽、伝統文化の振興に携わってきた日本伝統文化振興財団。降りしきる雨のなか、国内のみならず、海外からの来賓も多数迎え、13回目となる日本伝統文化振興財団賞の贈呈式が行なわれた。わが国の伝統文化の保存、振興、普及を目的とする顕彰事業の一環として、伝統芸能分野で将来いっそうの活躍が期待されるアーティストを毎年1名顕彰している。今回の受賞者は遠藤千晶さん。生田流箏曲演奏家として、古典から現代曲まで幅広いレパートリーへの意欲的な取り組みと、すぐれた演奏成果に大きな期待が寄せられている。

「私たちが参加しております〈歴史的音盤アーカイブ推進協議会〉は、大正から昭和30年くらいまでの5〜10万曲に及ぶ日本のSPレコードをデジタル化し、音源の将来にわたる保存、公開を目指しています」と語る財団・藤本草理事長の挨拶で式はスタート。その後、日本レコード協会会長の石坂敬一氏、文部科学大臣政務官の浮島とも子氏、渋谷区長の桑原敏武氏、衆議院議員の小宮山泰子氏、環境大臣の斉藤鉄夫氏、参議院議員の山口那津男氏という錚々たる来賓の祝辞が華やかな会に次々と添えられていく。

昭和初期日本ビクターが設立されるとその専属芸術家となり、邦楽の素晴らしさを世に広めた巨星・宮城道雄が、今から60年以上前に日本と西洋の技法を巧みに融合させた《手事》。この21世紀でもそれはけっして風化することなく、鮮やかで生き生きとした色彩で紡ぎ出されていた。終演での大きな拍手は、実際に目の前の演奏に聴き入っていた来賓一人一人の心のなかから自然と発現した渦だったに違いない。

受賞者の声

編集部
おめでとうございます。受賞のご感想をお聞かせください。
遠藤
受賞のお知らせを聞いて非常にびっくりして、うれしくお受けしたのですけれども、そのあとだんだん賞の重みをひしひしと今感じているところです。
編集部
お稽古を始めたきっかけを教えてください。
遠藤
母が福島でお箏の師匠をしていて、3歳からお箏を弾いていました。幼稚園に入って周りのお友達も加わり、グループ・レッスンを楽しく続けてきて、中学校に入学して東京の砂崎知子先生のところに通うようになりました。そのお稽古で自分はまだ子供でしたが、子供扱いをしなかったんです。お箏を一緒に弾いてくれるものと思っていましたが、「はい、どうぞ」って、とにかく最初から最後まで一曲を弾かせるんですね。それで悪いところを指摘されるっていう緊張感が強烈でした。実際にカセットテープで録って、初めて自分の音とちゃんと向き合うことになって……。ですから、お稽古の本当の厳しさを知ったのは中学生になってからです。「どうしてこの道に入ったか」とよく訊かれるのですが、砂崎先生が私の地元の演奏会で若い演奏家を連れていらしたんですね。先生はもちろんのこと、自分に近い素敵な人たちを見て、こういう風になりたいという憧れから始まって。こうなりたい、これかっこいい、これやりたいと思うことをただひたすらやってみようと思ってきたんです。
編集部
ご自身が結成されたクリスタルラインノーツのいきさつは?
遠藤
大学院を出たあと、福島でお稽古をやりながらコンサートに出ていると、年の若いお弟子さんが集まってきました。お弟子さんたちの一年一年の成長に対し、発表する場を設けたいと思ったんです。それから少しかっこいい、たとえば英語の名前をつけることで若い人たちのモチベーションを上げ、楽しく演奏できる曲を選び、興味のなかった方にも裾野を広げる活動を思いついたんです。お箏がもっと身近にあって、ピアノと同じようにみなさんが習ってもいいと思うのですが、お箏にゆかりのない人でも入門してくれるようになったので、結成した意味があったと思っています。
編集部
先日のリサイタルのテーマ(凜−soloist−)はどんなきっかけで生まれたものでしたか?
遠藤
以前、ある方のお手紙に「凜とした舞台姿が…」とあって「凜って言葉はすごくいいな」と思いました。今までのリサイタルのテーマも一文字で、「凜」を辞書で調べたら、態度や姿がひきしまってという以外に、声や音がよくひびくさまとあって、自分の想いとつながったんです。
編集部
ソロに加え、オーケストラとの共演もあり、素晴らしいリサイタルでしたが、実際にどんなお気持ちでしたか?
遠藤
一昨年の「挑み」は楽しかったのですが、今回は幸せだなあと。紀尾井ホールでのお客さまとのいい緊張感があって、一体になった感じでした。素晴らしい空間で好きな曲を好きなように弾く。すごく満たされた幸せな気持ちで、なんだかもったいないなと思いました。
編集部
最後に今後ご活動されるにあたり、夢や目標がありましたら教えてください。
遠藤
やりたいことをただやるだけではなく、伝えるとかつなぐという役割を一端でも担っていきたい。そのためにもっと学びの時間を作らなくてはいけないと考えるうえで、今回の受賞はすごくいいきっかけだと思うんです。リサイタルでの洋楽とのコラボレーションは、私にとって初めての経験でしたし、ソリストとしてすべてが勉強になって、本当にはじめの一歩でした。それからいろいろな方が協力してくださり、こうしたリサイタルができたことで、やりたい気持ちさえあればできる、夢を持っていこう、と若い人たちに伝えられる人であれたらいいな、と思っています。
編集部
ありがとうございました。
遠藤千晶プロフィール

福島県福島市出身。
3歳より母・遠藤祐子に箏の手ほどきを受ける。
12歳より砂崎知子氏に師事。
東京藝術大学音楽学部邦楽科生田流箏曲専攻卒業。
同大学院修士課程音楽研究科修了。
第21回宮城会主催全国箏曲コンクール演奏部門児童部第一位受賞。
大学卒業時には、卒業生代表として、皇居内桃華楽堂にて催された皇后陛下主催音楽会にて御前演奏。
第41回NHK邦楽技能者育成会卒業演奏会においては、コンサートミストレスを務める。
NHK邦楽オーディション合格。

2002 第8回長谷検校記念全国邦楽コンクールにて最優秀賞(全部門第一位)ならびに文部科学大臣奨励賞受賞。
「遠藤千晶箏・三絃リサイタル」を東京、福島にて開催。
2003 1stCD[水晶の音](邦楽の友社)をリリース。発売に合わせて、福島コミュニティー放送主催にてソロコンサートを行なう。
2004 門下生による[CRYSTALLINE NOTES]を結成。
ベトナム・ハノイにて行なわれたASEM(アジア・欧州首脳会合)に先立つ参加各国文化祭に日本代表として出演。
2007 「遠藤千晶箏リサイタル−華−」を福島にて開催。
「遠藤千晶箏リサイタル−挑み−」を紀尾井小ホールにて開催。その演奏に対して、第62回文化庁芸術祭新人賞を受賞。
2008 国立劇場主催公演「明日をになう新進の舞踊・邦楽鑑賞会」に出演。
母との共催で、妙祐会40周年記念箏曲演奏会を開催。
2009 東京シティフィル・ハーモニック管弦楽団を招いて(指揮・本名徹次)「遠藤千晶箏リサイタル−凜 soloist−」を紀尾井ホールにて開催。
第13回日本伝統文化振興財団賞を受賞。

現在、生田流箏曲宮城社師範。宮城合奏団団員。日本三曲協会会員。森の会会員。グループ“彩”メンバー。箏ニューアンサンブル団員。胡弓の会「韻」同人。妙祐会副会主。遠藤千晶とCRYSTALLINE NOTES(CCN)主宰。

(記事公開日:2009年06月17日)