第十二回日本伝統文化振興財団賞贈呈式

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2008年5月26日(月)開催 (ホテルフロラシオン青山)

伝統芸能分野で将来いっそうの活躍が期待される優秀なアーティストを毎年1名顕彰する日本伝統文化振興財団賞。第12回にあたる今年の受賞者は、長唄唄方の松永忠次郎さん。名曲「勧進帳」を聴衆の前で披露し、長唄の華やかさと醍醐味に酔いしれた贈呈式の模様をお送りします。

文:笹井邦平

芸系の繋がり

松永忠次郎さん
松永忠次郎さん

日本の伝統文化の保存・振興・普及を目的としてビクターエンタテインメント株式会社を基金元に1993年に発足した〈ビクター伝統文化振興財団〉が、1996年に将来いっそうの活躍が期待されるアーティストを顕彰する「ビクター伝統文化振興財団賞奨励賞」を設立し、第一回受賞者に長唄唄方・杵屋直吉さんが選ばれた。

同財団は2005年より名称を「日本伝統文化振興財団」と変更し、十一回目より賞の名称も「奨励賞」より「財団賞」に改められて「日本伝統文化振興財団賞」となりクウォリティが上がった感がある。副賞もこれまでの受賞者の演奏するCDよりDVDに変更して映像でその芸を鑑賞できるようになり、受賞対象者の枠が拡がった。

今回このシテュエーションを満たす受賞者として長唄唄方・松永忠次郎(まつながちゅうじろう)さんが選ばれた。長唄唄方が受賞するのは第1回の杵屋直吉さん以来久々のこと、しかも忠次郎さんは直吉さんに師事しているというから偶然ともいえない芸系の繋がりを感じる。

長唄界の星

財団賞贈呈式の様子(藤本理事長、松永忠次郎さん)
財団賞贈呈式の様子(藤本理事長、松永忠次郎さん)

贈呈式はまず同財団の理事長・藤本草(ふじもとそう)氏の挨拶で始まる。藤本理事長は「日本の伝統芸能特に歴史的音盤アーカイヴの保存に努力している当財団が、将来の伝統芸能の世界を担うであろうアーティストを発掘して顕彰することは意義深いことであり、また副賞として当初は受賞者のCD、昨年よりはビジュアル面も考慮してDVDを制作して広く公開することも当財団の重要な仕事の一つです」と述べた。

次に来賓の苅谷勇雅文化庁文化財部文化財鑑査官、石坂敬一日本レコード協会会長、小宮山泰子衆議院議員、浮島とも子参議院議員らが祝辞を述べ、異口同音に忠次郎さんの将来の活躍にエールを贈った。

続いて選考委員を代表して駒井邦夫財団賞選考委員が「松永流は長唄界でも古い伝統ある流派で、忠次郎さんは幼少より父松永鐵十郎師に厳しい指導を受け、現在歌舞伎舞踊では坂東玉三郎丈の地方を勤める今長唄界でもっとも輝いている演奏家で、将来の活躍が大いに期待されます」と受賞理由を述べた。

藤本理事長より賞状と賞金を贈呈された忠次郎さんは「身に余る光栄です。20年に亘って指導していただいた杵屋直吉先生、松永忠五郎先生、河東節の山彦節子先生、そして支えてくれた父(昨年逝去)と松永同門会の皆様に深く感謝いたします。これからも精進いたしますので末永く御指導ください」と受賞の喜びを語った。

名曲のエキスをダイジェストで

披露演奏として長唄「勧進帳」が演奏された。出演は唄を松永忠次郎・杵屋三七郎・杵屋巳之助、三味線を弟松永忠一郎・杵屋勝十朗、上調子を杵屋五三吉雄、小鼓を藤舎呂英・藤舎呂凰、大鼓を望月太津之、笛を福原寛の皆さん。ノーカットで演奏すれば30分以上かかる名曲を〈いいとこ取り〉してエキスのみを繋いで15分足らずにダイジェストして演奏。長唄の華やかさと醍醐味に聴衆は酔いしれ満場の拍手を浴びた。

列席していた杵屋直吉さんに忠次郎さんのことをうかがうと「真面目で熱心で頭の良い子ですよ」と目を細めて話してくれた。

直吉さんの芸を継ぐ忠次郎さんの将来の輝きが見えた贈呈式であった。

笹井邦平(ささい くにへい)

1949年青森生まれ、1972年早稲田大学第一文学部演劇専攻卒業。1975年劇団前進座付属俳優養成所に入所。歌舞伎俳優・市川猿之助に入門、歌舞伎座「市川猿之助奮闘公演」にて初舞台。1990年歌舞伎俳優を廃業後、歌舞伎台本作家集団『作者部屋』に参加、雑誌『邦楽の友』の編集長就任。退社後、邦楽評論活動に入り、同時に台本作家ぐるーぷ『作者邑』を創立。

(記事公開日:2008年05月26日)